豪州主将のティム・ケネリー【写真:小林靖】

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豪州主将のケネリー、体を鍛え上げるもう一つの理由

 野球の国際大会「ラグザス presents 第3回 WBSC プレミア12」は13日、ナゴヤドームでオーストラリア代表が日本代表「侍ジャパン」に3-9で敗れた。豪州では日本の冬季にあたるシーズンにプロ野球リーグが存在するものの、それだけで暮らしていける選手はほんの一握り。他に仕事を持っている選手も多い。今回の代表で主将を務める37歳、ティム・ケネリー外野手の本業は消防士。それも野球のシーズンも含め、フルタイムで過酷な職務についているのだという。数々の恐怖の瞬間も経験するはずの職業は、どう野球に生きているのか。(取材、文=THE ANSWER編集部、羽鳥慶太)

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 身長183センチ、体重81キロというケネリーの肉体は筋骨隆々。鍛え上げたという言葉がふさわしいプロポーションだ。ただその目的は、野球だけではない。実は本職は消防士。豪州・パースでそのキャリアは10年にもなる。

「野球のオフだけじゃなくて、1年中消防士として勤務している。フルタイムの仕事が消防士なんだ。この大会やそれに向けた練習では野球選手になるけどね。両方やっている時もあるんだよ」

 猛火を前に、とっさの判断と勇気が試される消防士という職業。恐怖の瞬間も多々潜り抜けてきたはずだが「それが仕事の一部だからね。10年前に始めた時からわかっていたことだ」とさらり。「野球の場ではないような恐ろしい瞬間に身を置くこともある。厳しい環境でも、冷静さを保たないといけないんだ」。消防士でいる時、野球選手でいる時、さらに家庭にいる時。3つの自分を切り分けて、日々を過ごしているという。

マイナー生活9年の後で選んだ消防士「誇りを持っている」

 ただ一方で、野球と消防士の仕事は、お互いに生きることもある。まずは「両方とも身体的に壮健でないといけない」こと。そして追い詰められた状況でも冷静な思考を保ち、素早く考えられるようになるのがこの兼業の利点だという。「消防士の仕事をしているとアジャストすることが必要になるけど、野球でも試合を通してアジャストしないといけない」。2つの仕事で、対応力を磨き上げているのだ。

 ケネリーは2005年に捕手としてフィリーズと契約。2013年までの9年間、米球界で大リーグの夢を追った。2012年には3Aまで上がったこともある。その後は故郷のパースに戻り、豪州のプロリーグでプレーしてきた。野球と消防士の両立は時間的にも、双方の技量を保つ上でも簡単ではない。

 特に、国を背負う代表選手としてプレーするならなおさらだ。ただケネリーは「10年間、うまく調整しないといけない状態を続けているけど、それに誇りを持っているんだ」と、この過酷な状況すら楽しんでいる。1日24時間の中から、勤務のほかにトレーニングする時間をひねり出し、野球の練習に励む。「特に、このレベルでプレーするなら絶対に必要だからね」。今や代表では大ベテラン。野球選手としてのキャリアを、どう終えたいと願っているのだろうか。

「勝つことだよ。この大会にも勝ちに来ている。チームとしてはまだ構築中の段階だけど。この大会に参加できることを楽しまないといけないけど、やはり優勝したい。そのゴールにはまだ到達できていないからね」

 豪州は昨春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、韓国を破るなどして同国初の準々決勝進出を果たした。ケネリーは、その上まで見据えて兼業を続けている。野球を愛し、本業にも活かす。過酷なことは間違いないが、なんとも豊かな人生を送っている。

(THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori)