「日本は天国だよ」急増するタイからの“出稼ぎレディボーイ”たち「2週間で90万円を荒稼ぎ」の実態

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一回の来日で、100万円弱を稼ぐ

「ツーウィーク(2週間)で90万円。ビックマネーね。でも、そこからホテル、飛行機のチケット、ボスに(仲介料を)6万円払うよ」

流暢な日本語で“仕事”の実態を明かすのは、タイ人のGOGOガールの一人である“レディボーイ”のオーム(仮名・30代)だ。彼女が普段働くのは、タイ・バンコクの歓楽街『ナナプラザ』にある風俗店『GOGOバー』。ナナプラザは、女性たちが水着姿でポールダンスを披露しながら客を接待する店が並ぶエリアで、オームもそのGOGOバーで踊りながら稼ぐ、GOGOガールである。

近年、日本に出稼ぎにくるレディボーイの数が増えている。スマホの普及により、タイ国内では出会い系やマッチングアプリを使う客が増え、GOGOバーの客足が減少しているのが一番の理由だ。さらに日本ではタイ人に対する査証免除措置の一環で、15日以内であればビザなしで滞在することができる。この制度の後押しもあり、’23年の訪日タイ人数は、’22年の約5倍となる99万5500人を記録。コロナ前を含めてもトップクラスの水準となっている。

今、日本に大挙している彼女たちは、短期間の滞在でどのように仕事をし、どんな生活をしているのか。オームに話を聞くと、冒頭のようにその稼ぎを教えてくれた。金額は一瞬耳を疑うほどだ。

「(タイでは)このままじゃ、生活できないからね」

とオームは笑う。彼女が日本に来る回数は年に数回程度。バンコクにいる元締めのレディボーイの手配で日本にやってきて、短期間でまとまったお金を稼ぐのだ。

「日本は天国」と語るワケ

「日本は入管(入国管理局)が笑顔で通してくれるし、韓国や香港に比べたら天国だよ。韓国や香港はとくにレディボーイに対しては冷たいし、視線が痛いんだ。それに日本なら、15日間だったらノービザだからね。ツーウイークがちょうどいいんだよ。長くいると(警察とか入管に)目をつけられるでしょ」

オームが言う「日本の優しさ」をどう捉えるかは人それぞれだが、彼女たちにとっては確かに「優しい」。つまり、稼ぎやすいということだ。中国では1ヵ月間ノービザで滞在できるが、売買春への規制がかなり厳しい。韓国や香港の入管では、街中でも冷たい目にさらされることが多い。さらに働く環境も楽ではないという。

そう語ると、オームは肩をすくめた。どの国でも客はいるが、日本は働きやすいという。

「今回は11人で来たよ。泊まっているのは一泊6000円から8000円のチープなホテルにね。ホテルは2つに分かれて、3人と2人で泊まってる。(人数オーバーの)チェックなんてないし、安心してるよ」

団体で来日した彼女たちは、元締めの指示のもとで日本の客を相手に仕事を行うという。2週間という短い滞在期間で、数十人の客を取り、100万円近いカネを稼ぐのだ。

「日本のお客さんはサクッと終わるけど、韓国や香港は違う。マッサージとか追加で求められて、正直面倒くさい(笑)」

スムーズに働き、稼ぎ、何事もなく帰る。これが彼女たちの流儀だ。一方で、オームの友人で、埼玉に1年以上オーバーステイしている者もいるという。

「新宿はポリスがうるさいけど、埼玉はまだ平気(笑)」と、オームは涼しい顔で言う。彼女自身はオーバーステイせずにきっちり稼いで帰る派だが、友人の抜け道については妙に詳しい。埼玉が最後のフロンティアか? と思わず突っ込みたくなるが、どうやらその辺の緩さもしっかり把握済みらしい。適当にやっているようでいて、どこが緩いか、どこで目を光らせているかはバッチリ調べている。オーバーステイも単なる行き当たりばったりじゃなく、したたかに自分たちの領域を広げる一つの手段なのだろう。

日本で行っている「もう一つの仕事」

オームはバンコクから600km離れたタイの東北部の農村出身。幼いころから、自分は女性だと感じていた。10代で性別適合手術を受け、レディボーイとして新たな人生を歩み始めた。若くして、バンコクの歓楽街ナナプラザのGOGOバーで働き始め、田舎で暮らす家族を支えるようになったという。

「家族には毎月5万円送ってるんだよ。弟が学生だった頃は8万円送ってたけど、(弟が働き出したので)今は減らした(笑)」

タイの平均月収が約10万円であることを考えると、けっして小さな額ではない。しかし、そんな環境が一変する出来事が起きた。新型コロナウイルスの蔓延だ。

「COVID-19で、(GOGOバーは)オールクローズ。仕方なく田舎に帰った。(実家)近くのカフェで働いてたけど、全然、ノーマネー、稼げない」

それで、ネイルサロンを開いたものの、「やっぱり(稼げる)マネーが少ない。だからすぐやめたよ」と軽く振り返る。それでも、コロナウイルスが一段落して日本へ行ける話が出てきたから、とくに落ち込むこともなかった。ネイルの夢は一旦脇に置いたが、歌舞伎町のネオンが彼女を呼んでいたのだ。

オームたちにとって、夜の仕事だけでなく、もうひとつの“稼ぎ口”がある。それが「セドリ」。日本で安く仕入れたぬいぐるみをタイで転売するという、ちょっとした副業だ。

「バンコクでは(猿の)モンチッチのぬいぐるみが人気なんだよね。日本で600円で買ったものが、タイでは1600円で売れるの。帰りのトランクはぬいぐるみでパンパン(笑)」

売春にセドリ……彼女たちが日本で行う仕事は、法律に抵触するギリギリのグレーなものが多い。それ自体は褒められたものではないが、一方でタイ国内では、家族はおろか自分の生活さえままならないほどの貧困がある。

「日本はご飯が美味しいし、楽しい。それに、稼げればそれでOK。仕事なんてそんなもんでしょ」

オームたちにとって、“稼ぎ場”はどこにでもある。今は日本かもしれないが、次は別の場所かもしれない。必要な分を稼いで、次の街へと向かうだけだ。

タイのおおらかさを表す言葉“マイペンライ”を地でいく彼女たち。どこへでも、求める分だけを稼ぎに行く。それがGOGOガールたちの生き方なのかもしれない。