市原隼人「僕は人を信じやすいけど、人を信じない人間」:ダブルチート 偽りの警官 Season2

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10月6日(日)深夜1時50分から、「WOWOW×テレビ東京 共同製作連続ドラマ ダブルチート 偽りの警官 Season2」(毎週日曜深夜1時50分〜)を放送!
※地上波放送1週間前の9月29日(日)夜8時よりTVerにて先行配信

今年4月に放送されて話題になった、向井理主演のSeason1に続く作品。巨大詐欺組織を喰らう詐欺師・田胡悠人が、詐欺会社「ライドクリーン」に潜り込み、圧倒的な詐欺の知識とセンスを武器に成り上がっていく。果たして、田胡の真の目的とは……?

「テレ東プラス」は、主人公・田胡悠人役を演じる市原隼人に話を聞いた。

【先行配信】「ダブルチート 偽りの警官 Season2」第1話


本番が近づくと、声が出せなくなるぐらい入り込んでいました


――記者会見で、市原さんが「ここまで迷いながら、考えながら、集中しながら作品に向き当ったのは初めて」と語った言葉がとても印象的でした。

「難しかったです。僕が演じた田胡は、決してカッコいい生き方ではなく、泥臭くて、後に美化されるような人間でもなく。そんな男が自分の存在を自分で認めるために、“人生の意義”を追いかけるという話です。田胡と境遇は違えど、この作品を観るお客様も、田胡の姿から感じてくださることがあるだろうと感じました。

同じ会社にいても、上司が違うだけでやり方も正解も変わる。学校やクラスでも先生が変わるだけで、正解もプロセスもすべて変わってしまう。国が違えば法律もルールも秩序も異なる。そんな世の中で、本当の意味での正しい道や正義、道徳秩序とは何なのか。そして人はどう生きるべきなのか。そういったものが、このドラマのテーマになっていると捉えました。そこは、作品を観てくださるお客様すべての方に、感じていただける部分だと思います」

――田胡は海外拠点の特殊詐欺で逮捕された過去があり、出所後は巨大詐欺組織に潜り込んで、その組織を揺るがしていく詐欺師です。市原さんは、田胡という人物のどんなところを視聴者に観てほしいと考えていますか?

「田胡は圧倒的な知識とセンスで詐欺を働くので、その動きはエンターテインメントとして楽しんでいただきたいです。そして、それ以上に、田胡の内面、なぜ詐欺師になり、何の目的があって巨大詐欺組織の内部に入り、詐欺師を欺いていくのか。その最終的な着地点を見守っていただけましたら幸いです」


――お話を聞いていると、作品に対する真摯な思いが伝わってきます。撮影の間、市原さんはどのような状態だったのでしょう。

「本番が近づき、声が出せなくなるぐらい影を持った田胡の心情に入っていくと、救いようのない感情が襲ってくるんです。そういうことが何度もあり、潰されそうになっていました。
どう向き合うのが正しいのか…田胡が詐欺を働く動力となり、彼の核となる感情に寄り添っていくことが自分の使命だと思っていたので、田胡が抱える過去の傷や痛み、悲しみ、苦しみ、彼がとらわれているものに寄り添い続けていました。

作品を通して何を見せたいのかという出口を常に探していました。序盤の田胡は、自分から動くことが少ないので、その中で一つ一つ、観てくださるお客様に何を伝えるべきなのか、どう見せていくべきなのかということを考えると、より難しくて…。結局は、禅の行いのように、“人は常に問いかけ、常に考え続ける”ということが、この作品で伝えたいテーマの一つであると感じました」
――役に寄り添い、魂を込めて演じてきた市原さん。改めて、作品の魅力をどのように感じていますか。

「同じ理念で伝えたいことは一貫していますが、Season1は、主に警察官の活躍を描いた作品で、Season2は、詐欺師の内面を描く内容になっていますので、また違う方向から伝えていけるのは、テレビ東京とWOWOW、共同製作作品ならではの醍醐味だと感じます。
詐欺師として成り上がっていく田胡が、自分の立ち位置を変えながら詐欺師を欺き、さまざまな手段を駆使してのし上がろうとするストーリーをお楽しみいただきたいです。演じている僕としては、もっと深いところに入っていき、人が生きていく上で“何が本当の正解なのか”を考える物語だと思っていました」


情報過多な時代だからこそ、自分の“物差し”が必要

――ドラマの題材になっている特殊詐欺は、連日ニュースで取り上げられるような社会問題でもあります。市原さんは、特殊詐欺が広がる現状をどう捉えていますか?

「社会で詐欺師が増えることは、僕には到底理解できないといつも思っています。詐欺被害に遭わないためには、自分の物差しで物事を見ることが大切なのではないでしょうか。
近年情報が増えていて、メディアもSNSをはじめとしたインターネット媒体に変わっていく中で、多くの情報が得られることは、すごく素敵な文明の力だと感じます。
それと同時に、すべての情報を自分で精査していくことが求められる。情報がたくさんあるからこそ、その情報を噛み砕いて、自分の経験で得た“物差し”で見る力を養うことが必要な時代になっているなと。

世の中に流れる情報すべてが正しいとは限らない。誰かの言葉を鵜呑みにして、それを信じて行動した結果、自分が苦しい立場になってしまったら、きっと納得できないと思います。一方で、自分自身がやりたいと決めて動いたのであれば、いくら苦しくても悲しくてもそこに後悔はない。だから周りに動かされるのではなく、自分の“物差し”の種類を増やさなければいけないと感じます」

――市原さんは、自分が騙されやすい人間だと思いますか?

「僕は人を信じやすいけど、人を信じない人間なんです。矛盾していますよね(笑)。信じたいと思う人にはどれだけ嘘をつかれてもいいし、すべてを信じます。それで裏切られて後悔しても構わない。一方で、あまり人を信用できない性根もあります」

――市原さんが信じたいと思う人は、「信じてもいい」と直感した人ですか? それとも、ある程度お付き合いして人間性が分かってから「この人は信じられる」と判断するのでしょうか。

「結局、人の内面を見ることでしか、信頼は生まれないと思います。よく撮影が始まる前の取材で、まだ会ったことがない共演者の方について『どんな印象をお持ちですか?』と聞かれますが、僕にはその段階での印象って分からなくて。共演する方について自分で調べることもないですし、初めて会って感じたものを信じたいという人間ですので…。
だから感覚なんですかね。会ってみてその人を信じたいと感じたら、騙されてもいいから…と思って信じちゃいます(笑)。自分もいつも“信じたい”と思ってもらえたらうれしいという気持ちを外に向けています。何かを生み出す為には互いに信じないと、何も生まれませんので」

【市原隼人 プロフィール】
1987年2月6日生まれ。神奈川県出身。2001年、映画「リリイ・シュシュのすべて」で主演デビュー。2003年、映画「偶然にも最悪な少年」で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。映画「ヤクザと家族」「太陽は動かない」、ドラマ「ウォーターボーイズ2」、「あいくるしい」「ROOKIES」、「猿ロック」NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」「鎌倉殿の13人」「正直不動産」「おいしい給食」シリーズなど、代表作多数。近年では、写真家としても活動している。

(取材・文/伊沢晶子)