NASAやカリフォルニア工科大学などの研究者が参加し、月面に電波望遠鏡を建造する「FarView」計画に携わる宇宙関連企業・Lunar Resourcesを取材した結果を、海外メディアのThe New Yorkerがまとめています。

The Quest to Build a Telescope on the Moon | The New Yorker

https://www.newyorker.com/science/elements/the-quest-to-build-a-telescope-on-the-moon



Lunar Resourcesが建設技術の開発を進めている「FarView」は、約200平方キロメートルの月面に設置された10万基のダイポールアンテナで構成される電波望遠鏡アレイです。FarViewの建設はほとんどが自律ロボットによって行われる予定で、ロボットはまず月のレゴリス、つまり表土から酸素とともに金属を抽出し、それを資材としてアンテナ、太陽電池、電力線などを製造します。

そのため、FarViewは地球外での採鉱と製造という2つの野心的な技術、いわゆる「現地資源利用(in-situ resources utilization/I.S.R.U.)」と呼ばれる分野のテクノロジーの実証試験としての側面も持っています。

こうして月面に作られた巨大電波望遠鏡は、冥王星に置かれたスマートフォンを検出できるほどの精度を持ち、地球では得られないデータを集めて宇宙の始まりに関する知識を人類にもたらします。



今から138億年前、宇宙は急速に膨張する濃密なエネルギーと物質の塊として誕生し、それから38万年後にはバラバラに宇宙を飛び交っていた電子と陽子が結合して水素原子ができるほどに冷えました。

この現象は「宇宙の晴れ上がり」と呼ばれていますが、水素ができてから間もない時代の宇宙はまだ星も銀河もない暗闇が広がる世界だったため、それは「宇宙の暗黒時代」の始まりでもありました。

当時、光を放つ天体はありませんでしたが、水素は波長が21cmの微弱な電波を放ち、その光の一部はまだ宇宙に存在しています。このような、地球上からは観測できないかすかな光を集めて初期の宇宙の姿を正確に捉えるのが、FarViewの主要な目的のひとつです。

しかし、このような大規模での月面開発は前代未聞で、まだ誰も達成していません。というのも、地球から建設資材や人員、食料や水といった物資を月に運搬しようとすると、文字通り天文学的な費用がかかるからです。ある推計によると、わずか1kgの貨物を月面に運ぶだけで100万ドル(約1億4000万円)以上かかるとのこと。



by NASA's Marshall Space Flight Center

こうした点を踏まえると、人類が本格的に宇宙に進出するにあたっては現地調達が基本になると考えられており、そういう意味でFarViewは宇宙探査の未来を占うプロジェクトだとも言えます。

そんなFarViewは、完成までに10年以上の歳月と20億ドル(約2860億円)以上のコストを要するプロジェクトになると見積もられていますが、単独の電波望遠鏡建造計画にとどまらず、将来のさらに大規模な宇宙開発の足がかりとしても期待されています。

例えば、月面で核融合炉の燃料となるヘリウムを採集したり、月面や軌道上で地球では打ち上げられないほどの大きさの人工衛星を建造したりといった計画です。

FarViewの主任研究員で、NASAのゴダード宇宙飛行センターの元主任技術者であるロナルド・ポリダン氏はThe New Yorkerに、「人類が世界一周を成し遂げた16世紀を思い浮かべてみて下さい。当時の人に『2000年ごろの世界はどうなっているでしょうか?』と尋ねても誰も現代のようなレベルの発展を想像できなかったことでしょう。私たちはまさに、そのような未来への扉を開こうとしているのです」と話しました。