漢方にも副作用があるの? 注意すべき飲み合わせや自分に合った漢方薬の選び方を解説
天然の成分から作られるため、「漢方薬には副作用がない」と考えている人もいるのではないでしょうか? しかし実は、なかには副作用を持つものもあるのです。飲み合わせの注意点や漢方薬の選び方などについて、あゆみ野クリニックの岩崎先生に教えてもらいました。
≫ 漢方で加齢に伴う不調を改善! 漢方薬の選び方や注意点を医師が解説監修医師:
岩崎 鋼(あゆみ野クリニック)
宮城県石巻市あゆみ野クリニック院長。体調に合わせた保険診療内での煎じ薬治療を実践。元東北大学附属病院漢方内科臨床教授。元日本東洋医学会東北地区専門医制度委員長。元日本老年医学会評議員。東北大学医学部出身、老年内科で医学博士取得。その後漢方内科に移籍。
漢方には副作用があるのか?
編集部
漢方は安全で体にやさしいというイメージがありますが、副作用があるのですか?
岩崎先生
はい。漢方薬は西洋医学の薬と違って副作用がないというイメージを持っている人も多いと思いますが、実際には、漢方薬にも副作用があります。
編集部
漢方にも副作用があるのですね。
岩崎先生
はい。植物の葉、茎、根などや鉱物、動物の一部などのうち、薬効作用があるものを生薬といいますが、漢方はこの生薬を単体で、あるいは組み合わせることで構成されています。この生薬はさまざまな薬理学的作用を持っており、それが副作用として出現する場合があります。
編集部
生薬には薬理学的作用がある一方で、副作用を示すこともあるのですね。
岩崎先生
そのほか漢方を処方する際には「証」といって、その人の体質や体力、症状などを総合的に示すものを正しく見極めることが必要です。この証の見立てに誤りがあると、その人に適さない漢方を処方することになり、害が生じるリスクがあります。この場合は見立てが誤っているので副作用とはいえませんが、薬の服用により健康を害するリスクがあることは覚えておいてほしいと思います。
漢方による副作用にはどのようなものがあるのか?
編集部
漢方ではどのような副作用が起きるのですか?
岩崎先生
たとえば有名なものに「小柴胡湯(しょうさいことう)」という漢方があり、これによる肺障害(間質性肺炎)が相次いで報告されたことがあります。なぜこうしたことが起きるのかというと、小柴胡湯には「黄芩(おうごん)」という生薬が含まれているため。黄芩は単独でも間質性肺炎を起こす危険性がありますが、以前慢性ウイルス性肝炎の治療に用いられたインターフェロンと併用することにより、そのリスクが高まるとされています。ただし、黄芩はほかにもいろいろな漢方処方に含まれており、小柴胡湯に限らず黄芩を含む処方は間質性肺炎を起こす可能性があります。
編集部
ほかにはどのような副作用がありますか?
岩崎先生
それから、漢方エキス製剤の7割に処方されている「甘草(かんぞう)」にも注意が必要です。甘草を長期で服用する、あるいは過量に服用すると、偽アルドステロン症という症状を起こし、それに伴って高血圧、浮腫、不整脈などが引き起こされることがあります。また、利尿薬の一種であるループ利尿薬と併用することで心不全が増悪するとされており、実際、死に至った症例もあるので注意が必要です。
編集部
「漢方だから安心」というわけではないのですね。
岩崎先生
そのほかにも「附子(ぶし)」はトリカブトの根であり、毒性成分をわずかに残すことから、口周辺のしびれや不整脈、血圧低下、呼吸障害などを引き起こすことがあります。また「麻黄(まおう)」を過剰に摂取すると高血圧、幻覚、排尿障害などが起きることもあります。それから、「大黄(だいおう)」や「芒硝(ぼうしょう)」は強力な下剤であることから、過剰に摂取すると下痢による脱水などを起こす可能性があるので注意が必要です。
編集部
自分の証に合っていない漢方薬を飲み続けることも、体に害を及ぼすのですよね?
岩崎先生
もちろんです。たとえば漢方薬を服用して胃腸障害やじんましん、むくみ、倦怠感などが出現し、1週間以上症状が消えない場合には、その漢方が症状や体質にあっていない可能性があります。服用を中止し、医師に相談することをおすすめします。
安全な漢方薬の使用法
編集部
安全に漢方薬を使用するにはどうしたら良いのでしょうか?
岩崎先生
まずは薬の飲み合わせに気をつけることです。とくに高齢者の場合、慢性疾患を複数抱えていることも多く、薬の相互作用や飲み間違い、飲み過ぎなどによって体にトラブルが起きることがあります。これをポリファーマシーといいます。日本老年医学会や日本老年薬学会の発表によると、高齢者の場合、処方される薬が6つ以上になると、副作用を起こす人が増えるとされています。そのため飲み薬は5つ以内に抑えることが必要です。
編集部
そのほか気をつけることは?
岩崎先生
漢方だから体にやさしいといって、規定量を超えて服用してしまう人も多いのですが、そうしたことも副作用のリスクになります。また、市販薬のなかにも漢方を含むものがあり、自己判断で選択すると体質に合っていないものを選ぶ可能性もあります。同じ症状でも体質によって選択すべき漢方は異なるので、必ず専門医に処方してもらうようにしましょう。
編集部
注意して使わないといけないのですね。
岩崎先生
それから長く使うことによって体の負担となり、トラブルを引き起こす漢方もあります。たとえば大黄は便秘などに用いられる漢方ですが、長く飲み続けると耐性ができて、効かなくなります。この時は一時的に酸化マグネシウムなど別の下剤に数ヶ月変更すると、また効果が出るようになります。
編集部
医療機関で漢方を処方してもらいたいときは、どうすれば良いのですか?
岩崎先生
最近では多くの医師が漢方も処方に取り入れていますが、より専門的な診察を受けたいなら、漢方内科や漢方外来を標榜している医療機関を訪れると良いでしょう。たとえば、日本東洋医学会が認定する漢方専門医は指定の研修を受けており、厚生労働省からも「漢方専門医を標榜しても良い」と認められています。
編集部
ほかに、漢方に詳しい医師を見分ける方法はありますか?
岩崎先生
たとえば漢方薬を処方するとき、「両手の脈を見る」「舌を観察する」「お腹を触る」といったことを行う医師は、漢方に詳しいと判断しても良いと思います。これらは伝統的な漢方の診察方法であり、漢方薬を正しく処方するには必要であるためです。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
岩崎先生
漢方を服用することで副作用が生じることもありますが、気をつけたいのは、漢方薬による副作用と漢方についてあまり知識がない医師が処方することで生じる有害事象とでは、意味合いが違うということです。たとえば甘草は補中益気・抗炎症・鎮痛・去痰・鎮咳作用などがあり、多くの漢方で処方されるだけでなく、市販の風邪薬などにも用いられています。しかしその一方、甘草を知らない間に大量摂取することにより高血圧やむくみなどを引き起こすことがあり、この状態を偽アルドステロン症といいます。甘草を服用すると低カリウム血症になりやすいので、これまでは定期的に血中カリウムを測定して、体に害が生じていないか確認するのが一般的でした。しかし現在ではそれだけでは不十分で、甘草を含む漢方を服用していて血圧が上がってきたら、カリウムの数値が正常だろうとすぐに甘草の服用を中止し、血圧の低下やむくみの改善が見られるか確認しなければなりません。ですが、こうした正しい知見を持たず、旧来の方法で漢方を処方するケースも見られます。漢方を処方してもらう際には、必ず漢方に詳しく信頼できる医師を選択することが、何よりも重要です。
編集部まとめ
「漢方薬は安全」「副作用がない」というイメージをもち、自己判断で使用している人も多いと思います。しかし漢方薬のなかには危険な副作用を持つものもあり、使用には十分注意が必要です。ドラッグストアなどで安易に購入するのではなく、必ず漢方に詳しい医師に見立ててもらうようにしましょう。
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