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最初の1000台は超お買い得価格!

2024年6月25日、中国の自動車メーカーBYDは、待望の純電動セダン「シール」を日本で発売した。

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希望販売価格は後輪駆動(RWD)モデルが528万円、全輪駆動(AWD)モデルが605万円となる。そこへ政府のCEV補助金が35万円になると予定されているので、それぞれ実質493万円と570万円。


BYDシールに国内最速試乗    加藤博人

また、販売を促進するべく、最初の1000台は「導入記念」として限定特別価格で販売する。RWDが495万円、AWDが572万円、CEV補助金適用後でそれぞれ460万円と537万円となる。

シール最大の魅力はそのコストパフォーマンスにある。一充電で500-600km走れる加速の良い純電動セダンでこの価格は、かなり挑戦的と言え、シールの魅力となるだろう。

発売にさきがけ、6月11日に行われた報道発表会、および御殿場近辺の試乗に参加した。
2003年に自動車産業へ進出したBYDは自動車メーカーとしてはまだ20年ほどの歴史だが、2023年には全世界で年間302万4417台を販売、EV(BEV+PHEV)販売で首位となった。

そのうちBEVは157万4822台、PHEVが143万8084台となっており、BYDはBEVと同じくPHEVにも力を入れている。

一方で、2023年より乗用車の販売を開始した日本市場では、現時点ではBEVのみの販売となる。2023年1月の「アット3」、同年9月の「ドルフィン」に続き、このたび日本市場第3弾車種となる「シール」がついに発売された。

シールは当初、2023年中に発売予定としていたものの、国内法規への適合や認証関連で手こずり、「2024年初夏」へと延期されていた。

日本ではRWDとAWDを販売

シールは2022年8月に中国本国で発売されたセダンで、海洋生物や艦種から車名を名付ける「海洋シリーズ」におけるフラッグシップモデルだ。

サイズは全長×全幅×全高=4800×1875×1460mm、ホイールベース2920mmで、同じく日本で購入できる純電動セダンテスラ モデル3」(4720×1850×1441mm)よりも若干大きい。


BYDシールに国内最速試乗    加藤博人

試乗は出力312psのRWDモデルと、530psのAWDモデルの2種類が用意された。もちろん、日本では2モデルとも販売される。

今回、試乗に用意された時間はそれぞれ1時間、コースは御殿場を起点として箱根スカイラインまで走り抜けることが想定されており、日本特有の狭い峠道を経由して三国山が誇る景色の良さをシールで体験できたのは新鮮だった。

御殿場市街地では日常的な領域を想定しての体験に重きを置いた。一般的な道路の凹凸から狭路における取り回しのしやすさまで、おそらくこの部分が大半の消費者が気にするところだろう。

足回りのセッティングはどちらかと言うと硬めで、路面から来る揺れを最小限にとどめている。

昨年60台以上の最新中国車を試乗して感じた個人的な印象としては、足回りに力をいれる中国車はしなやかで柔軟な「フランス車的発想」と、硬めでスポーティな「ドイツ車的発想」に分類できると思っている。

新興EVメーカー「シャオペン」や、ボルボも傘下に収める「ジーリー」は前者、そしてBYDは後者に該当する。

車体の剛性はバッテリーパックをフロアと一体化させる「セル・トゥ・ボディ(CTB)」を採用しており、パック自体が補強を担う。これにより40500Nm/degというF80型BMW M3や、ロールス・ロイス ゴーストに匹敵するねじり剛性を誇る。

AWDはオーバースペック気味?

アップダウンの激しい峠道では、モーター駆動特有のトルクフルで力強い加速を体感した。

AWDでは前217ps・後312psのモーターを搭載、最大トルク670Nm、0-100km/h加速は3.8秒としている。ただ、峠道やスカイラインでの爽快さを重視するならば、個人的には出力308 hpのRWDで十分であると感じた。


BYDシールに国内最速試乗    加藤博人

「踏める楽しさ・操る楽しさ」においてはRWDの方が扱いやすく、AWDは単純にオーバースペック。もちろん、可変ダンピングアブソーバや、加速時のスリップを検知して制御する「iTAC」などAWDにしかない目玉技術はあるが、デイリーユースならRWDでまったく問題ない。

試乗する前は「買うならAWD一択」と思っていたので、この辺りは実際に試乗して得た印象だ。ただ、消費者によってクルマに求める性能は異なるはずなので、購入を検討する際はAWDとRWDの両方に試乗するのが良いだろう。

シールは「刀」形状のバッテリーセルで構成された「ブレードバッテリー」を搭載しており、日本モデルでは容量82.5kWhとなる。航続距離はWLTCモードでそれぞれ640kmと575kmと公表しており、カタログ上の数値としては中国独自のCLTCモード値の9掛けほどになる。

このバッテリーと「e-Platform 3.0」上で設計されたボディは、BEVにしてはかなり低いフロアを実現した。それに起因する重心の低さもコントロール性に寄与している。

低いフロアのおかげで室内はとにかく広い!

一方でドライビングポジションは調整してもアイポイントが高めなゆえ、人によっては酔いやすさと感じてしまうかもしれない。また、シートは高級感を演出するレザーだが、凹凸面が少ないためにホールド性にやや欠ける印象を受けた。

低いフロアは室内の広さにも直結する。事実、シールの車内はとても広々としており、後部座席の床面もフラットだ。音響システムには1977年にデンマークで創業した高級オーディオメーカー「Dynaudio(ディナウディオ)」製12スピーカーシステムを標準採用しており、音響性能は非常に素晴らしい。


BYDシールに国内最速試乗    加藤博人

その一方、車体に使われている吸音材が少ないのか?車外の音やロードノイズは若干だが室内に伝わり、また車内の音楽も外に漏れやすいと感じた。

アザラシ(seal)から着想を得た、可愛らしくも洗練されたボディデザインは唯一無二のオリジナリティにあふれている。

ほかのBYD乗用車同様、金型は群馬県館林市にある「TATEBAYASHI MOULDING」にて設計されている。これは2010年4月に世界最大手の金型メーカー、オギハラの館林工場をBYDが買収した施設であり、クルマとしての完成度は非常に高い。

一方で日本におけるセダン需要はSUVほど高くなく、ガソリン車のDセグメントセダンも相手に戦わないといけないシールの今後がとても興味深い。