【谷岡 一郎】【荒木 義明】なんと、「存在しないはずの図形」が発見された…! 簡単そうだけど、50年も見つからなかった「摩訶不思議な模様」衝撃の登場

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ノーベル賞学者としても有名な天才物理学者・数学者のロジャー・ペンローズが、1970年代から半世紀にわたって探し求めてきた「ある図形」が話題になっています。

その名は「アインシュタイン・タイル」。

2023年にようやく発見されたその図形とは、いったいどのようなものなのでしょうか?

ペンローズが考案した「ペンローズ・タイル」を超える“幾何学上の大発見”について、ビジュアル重視でやさしく詳しく解説した『ペンローズの幾何学』が刊行されました。

パズル感覚で楽しむことができ、しかも奥深い「平面幾何」の世界を探訪してみましょう。

※この記事は、『ペンローズの幾何学』の内容から再構成・再編集したものです。

アインシュタイン・タイル」の発見

2023年に入ってしばらく経ったころ、世界を驚かせるビッグニュースが飛び込んできました。

およそ50年もの間、数学者をはじめとする幾多の人たちが探究し続けてきた「ある図形」が、ついに発見されたというのです。

その図形の名前を、俗に「アインシュタイン・タイル」といいます。アインシュタイン・タイルとはなんでしょうか?

ペンローズをも夢中にさせた問題

数学の世界には、「平面を隙間も重なりもなく敷き詰める図形」を探究する「平面充填(じゅうてん)」とよばれる分野が存在します。

容易に想像できるように、正方形や正三角形を使えば、ごく簡単に平面を敷き詰めることができますが、数学的に興味深いのは、「非周期的」とよばれる複雑な平面充填です。

多くの数学者たちが、この非周期的な平面充填に魅了され、「それだけを可能にするのはどんな図形か」、そして「いかに少ない種類の図形でそのようなことが可能か」を追い求めてきました。

非周期的な平面充填だけを可能にする図形が初めて確認されたのは1964年のことで、じつに2万426種類の図形によって、平面が敷き詰められていました。この膨大な数を減らす試みはその後の10年間で一気に進展し、1974年にはなんと2種類の図形で可能なことが見出されます。

発見者の名前はロジャー・ペンローズ。

2020年にノーベル物理学賞を受賞することになる、現代を代表する偉大な物理学者にして数学者です。彼の手による2種類の図形は、「ペンローズ・タイル」と名付けられ、『ペンローズの幾何学』の主役の一つでもあります。

そしてアインシュタイン・タイルへ

ペンローズ・タイルの発見により、「非周期的な平面充填」問題の核心はいよいよ、「それは果たして、たった1種類の図形で可能か?」へと至りました。

たった1種類なのに、非周期的にしか平面を敷き詰められない図形−−『ペンローズの幾何学』ではこれを「非周期モノ・タイル」とよびます。そして、この非周期モノ・タイルこそ、「アインシュタイン・タイル」です。

ペンローズからアインシュタインへとは、科学ファンをワクワクさせてくれる名称ですが、この風変わりな名前は、ドイツ語で「一つの石」、転じて「1枚のタイル(モノ・タイル)」を意味するein steinに由来します。

2023年の大発見とは、たった1種類で非周期的な平面充填だけを可能にする図形、すなわちアインシュタイン・タイルがついに見つかった、というものだったのです。

この分野をよく知る人々にとってはまさに寝耳に水、青天の霹靂というべき衝撃であり、当初はみな、半信半疑でこのニュースを受けとめたわけですが、さまざまな情報を吟味するうちに、「どうやら本当らしい」というのが共通の認識となっていきました。

筆者らを含むこの分野に関心の高い人たちはなぜ、半信半疑だったのでしょうか?

存在しないはずの図形

それは、ペンローズ・タイルの発見から半世紀もの時を経ていたからです。

前述のとおり、2万426種類から始まった非周期的な平面充填だけを可能にする図形は、わずか10年で2種類まで減らされました。その後の50年近くにわたってモノ・タイルは見つからなかったのですから、にわかに信じることができなかったのも当然です。

実際、21世紀に入るころには、「1種類(モノ・タイル)による非周期にしか平面を敷き詰められない図形は、おそらく存在しないだろう」と考えられていたのですから。

それではその、「存在しない」と考えられていたアインシュタイン・タイルは、いったいどんな図形なのでしょうか。

まずは、今回発見されたアインシュタイン・タイル、つまり非周期モノ・タイルを並べた図を見ていただきましょう。

簡単に敷き詰められそうだが……?

この図形が、実際に「非周期にしか平面を敷き詰められない」ことについては『ペンローズの幾何学』の第5章以降で解説しますが、今のところは信じていただくしかありません。

この図は一見すると、簡単に敷き詰められそうですが、実際にはそうならないという、摩訶不思議な模様になっています。

『ペンローズの幾何学』の目的の一つは、このアインシュタイン・タイルが発見されるまでの長い道のりを解説することにあります。

*下の続きは、6月21日(金)の公開です。

ペンローズの幾何学

対称性から黄金比、アインシュタイン・タイルまで

じつに「思いもよらない方法」で、発見される新種…「超難解」の平面充填の世界。証明のカギは「図形の特徴」という「意外な事実」