古畑任三郎』イベントに参加した田村正和三谷幸喜(1995年)

 放送30周年を記念して、ドラマ『古畑任三郎』シリーズ(フジテレビ系)が一挙放送中だ。

 古畑任三郎田村正和)、今泉慎太郎(西村まさ彦)、西園寺守(石井正則)、向島音吉(小林隆)などの個性的なキャラクターのレギュラー陣に加え、豪華なゲストが犯人役を務め、最高視聴率は34.4%を記録した。

 当時、マニアックな古畑ファンの間で話題になっていたのが、「事件の時間軸」である。たとえば、1st seasonの第1話「死者からの伝言」(犯人はコミック作家の小石川ちなみ=中森明菜)で、古畑が電話をするシーンがある。

古畑「幡随院の取り調べは明日からということで」

 第4話「殺しのファックス」の犯人だった推理小説家・幡随院大(笑福亭鶴瓶)の取り調べを、翌日おこなう、ということだ。つまり、第1話は「第4話より後に起きた事件」だと確定する。

 こんな時間軸の遊びを仕組んだのは、古畑任三郎の生みの親・脚本家の三谷幸喜氏だ。シーズン1と2は、エピソードのなかに、ちょいちょい時間軸のヒントが混ざっており、ざっくりと「このエピソードはこの回の後」と類推できた。

 ところが、シーズン3では、全エピソードが正しい順番で並べられるように工夫されていたのだ。

 当時、本誌は、この “時間軸の謎” を解くため、2週間、食事と睡眠以外のすべての時間を費やして番組をチェックした。気になるセリフをメモし、一時停止・コマ送りを駆使し、ついにすべての時間軸を特定。その後、「答え合わせ」をするため番組プロデューサーに取材をかけた。

番組プロデューサー「(答えとなるメモに目を通したあと)あってます。正解です。三谷さんは、古畑ファンが “時間軸” について、さまざまな憶測を交えて話題にしていることを知って、シーズン3はきちんとつながるように、ヒントを入れました。最初から時間軸を考えて台本を書いたのではなく、シーズン3の後半になって、帳尻を合わせるように、アイデアを散りばめていった感じですね。三谷さんは、『みんながこう考えるのなら、こっちに誘導する』という流れを作ることもできますからね」

 では、プロデューサーが認めた、正しい時間軸を紹介しよう。まずは、放送順。

■SP「古畑任三郎 vs. SMAP」犯人・アイドルグループSMAP
■先行SP「黒岩博士の恐怖」犯人・監察医の黒岩健吾(緒形拳)
■第1話「若旦那の犯罪」犯人・落語家の気楽家雅楽(市川染五郎)
■第2話「その男、多忙につき」犯人・プランナー由良一夫(真田広之)
■第3話「灰色の村」犯人・雛美村長の荒木嘉右衛門(松村達雄)
■第4話「古畑、歯医者へ行く」犯人・歯科医の金森晴子(大地真央)
■第5話「再会」犯人・小説家の安斎亨(津川雅彦)
■第6話「絶対音感殺人事件」犯人・指揮者の黒井川尚(市村正親)
■第7話「哀しき完全犯罪」犯人・棋士の小田嶋さくら(田中美佐子)
■第8話「頭でっかちの殺人」犯人・化学者の堀井岳(福山雅治)
■第9話「追いつめられて」犯人・美術研究家の臺修三(玉置浩二)
■第10〜11話「最も危険なゲーム」犯人・動物愛護団体の日下光司(江口洋介)

 ここからが時間軸の推理だ。

【警部補・古畑任三郎復活】

 先行SPの「黒岩事件」は「おみくじ事件」と呼ばれている。警察犬の飼育係だった古畑が、刑事として現場復帰後の最初の事件。時間軸はここからスタート!

【4つの事件はつながっている】

 第5話「安斎事件」。古畑は小説家の安斎の山荘へ招かれる。担当編集者が過去の事件に触れるシーン。

編集者「おみくじ殺人事件、解決されたの古畑さんですよね」
古畑「SMAPの事件、解決したの私なんですよ」

「安斎事件」は、「黒岩事件」「SMAP事件」の後。また、安斎から古畑へのFAXに安斎の住所が記されている。そこには「長野県」とある。

 第3話「荒木事件」。安斎邸からの帰路、長野県雛美村へ立ち寄る。旅館の部屋でメモを取る西園寺。

今泉「なに書いてるの?」
西園寺「忘れないうちに、安斎さんの事件、書きとめておこうと思って」

「荒木事件」は「安斎事件」の後。

 第4話「金森事件」。長野から帰京後、古畑は金森歯科医院へ。

古畑「安斎さんのご紹介で」
金森「ええ、聞いてますよ。安斎さん、お元気ですか?」
古畑(複雑な表情で)「あぁ、お元気そうでした」

「金森事件」は「安斎事件」の後。

 第7話「小田嶋事件」。古畑が飲む薬袋に「金森歯科医院」の文字が! これにより、「金森事件」の直後と判明。

【向島姓の変遷】

 次のポイントは、向島巡査の苗字だ。婿養子の向島巡査は、離婚すると旧姓の「東国原」に戻る。「黒岩事件」で、古畑は向島にこう語る。

古畑「佃島君でしょう。覚えてるよ」
向島「向島なんですけど……」

 この時点では、向島姓を名乗っている。

 第6話・黒井川事件での会話。

古畑「向島君さ」
東国原「東国原です」
西園寺「旧姓に戻ったんです」

「SMAP事件」でも同様の会話があった。

古畑「君……向島君だ」
東国原「はい。しかし昨年、カミさんと別れまして、今は旧姓に戻っております」

 向島は同じ女性と2度離婚していた!

【1回目の離婚はどちらか?】

 第1話「雅楽事件」。「SMAP事件」「黒井川事件」に登場した舞台監督が、古畑からこう声をかけられる。

古畑「ねぇ、1度会ってますよね」
監督「3回めだよ、あんたに会うの」
古畑「確か、SMAPのコンサートで」
監督「あと、黒井川先生のときもだ」

 古畑は「黒井川事件」を忘れている。つまり、「SMAP事件」以前に「黒井川事件」。そして、「黒井川事件」が、最初の「黒岩事件」と「SMAP事件」の間に入る。

【向島巡査、家庭崩壊への道】

 向島が家庭不和を吐露した第8話「堀井事件」。研究員・堀井が勤務する研究室での場面。

向島「やっぱ家庭がゴタついてるとダメだ。仕事に身が入らねえや」
今泉「奥さんとはどうなのよ」
向島「聞かんでください」

 離婚する前だから、「堀井事件」は「黒井川事件」の前。

【向島の再婚時期】

 第9話「臺事件」に復縁したエピソードが登場する。

西園寺「奥さん?」
向島「なんとかよりが戻りまして」
西園寺「おめでとうございます」

「臺事件」は「黒井川事件」の後で、「SMAP事件」以前となる。

【エンドロールにヒントが!】

 もう一度、「雅楽事件」を見てみよう。ストーリーのなかで、彼の姓は判明しないが、エンドロールで「東国原巡査」とテロップが流れる。「雅楽事件」は「SMAP事件」以降が確定している。そして、古畑が「確か、SMAP……」と話す点から、多少の時間経過が読み取れる。「SMAP事件」直後とは考えにくく、「安斎事件」から「小田嶋事件」までは入る余地がないので、「小田嶋事件」以降。

【香取慎吾が主役?】

 第2話「由良事件」。由良は、新番組企画案についてこう語る。

由良「主演は十朱幸代と香取慎吾でいきたいと思います」

 香取の名前が出ることから、SMAPが逮捕される前の話だとわかる。

 さらに、古畑は由良と一緒に歩きながら、

古畑「昔、扱った事件で……彼は絶対音感を持っていて、それを利用して殺すんです」

 古畑が「黒井川事件」を「昔の事件」と語っているので、「黒井川事件」直後ではない。「SMAP事件」以前で「黒井川事件」「臺事件」以降となる。

【最終回のオープニング】

 第10・11話「日下事件」。オープニング画面に注目。

古畑「みなさんの前に登場して早5年。これまで、さまざまな犯人と出会ってきました」

 古畑のバックに、放送されたすべての犯人の写真が確認できる。そして、最後にクローズアップされる日下の顔。最終話確定だ。

【時系列順に並べると】

 以上から、『古畑任三郎』シーズン3を正しい時系列で並べると、

■1「黒岩事件」(先行SP)
■2「堀井殺人」(第8話)
■3「黒井川事件」(第6話)
■4「臺事件」(第9話)
■5「由良事件」(第2話)
■6「SMAP事件」(SP)
■7「安斎事件」(第5話)
■8「荒木事件」(第3話)
■9「金森事件」(第4話)
■10「小田嶋事件」(第7話)
■11「雅楽事件」(第1話)
■12「日下事件」(第10〜11話)

 となる。古畑風に言えば、「以上です」。再放送でぜひ確認してみてほしい。