「性上納、もう嫌だ」女性兵士が逃げ出す北朝鮮軍の「巨大な穴」
北朝鮮では近年、若者たちの兵役忌避が問題となっているが、この春の召募(新兵の入隊)では特に深刻だったという。
黄海北道(ファンヘブクト)のデイリーNK内部情報筋は、「軍の隊列補充局では、今年の招募計画人員(割り当て)の6割をなんとか満たした。少子化の進行と相まって、若者の兵役逃れは、祖国防衛のための人民軍(北朝鮮軍)の戦闘準備と直結する重大な問題だと隊列補充局は考えている」と話す。
人員ノルマの6割がやっととは、北朝鮮軍の戦力に巨大な穴が開いていることを意味すると言える。
国や社会よりも個人の生活を重視する最近の若者にとって、世界最長と言われる兵役は嫌なもの以外の何物でもないが、その他にも様々な理由がある。
一例を挙げると、女性兵士に対する上官の性暴力だ。
米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は2021年4月、女性に対する兵役実施の布告が出され招募が始まったことを受けて、卒業を控えた娘を持つ親の間で激しい動揺が広がったと伝えた。軍では女性兵士に対する上官の「性上納」強要などの虐待が横行しているからだ。
近年ではそうした虐待に「もう耐えられない」として、女性兵士が脱走する事例も伝えられている。平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によれば道内の平原(ピョンウォン)に駐屯する教導旅団では以前、3人の女性兵士が脱走する事件が起きた。
逮捕され、取り調べを受けた3人は、脱走の理由について「男性の上官の性暴力」が原因だったと陳述したという。
そのような問題があるにもかかわらず、北朝鮮当局が女性兵役を本格実施した理由があるとすれば、兵力の不足だ。
RFAの情報筋は「毎年急激に減少する出産率のために、男性だけでは必要な兵力を充足するのは現実的に難しい」と述べた。
(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為)
入隊を嫌がる女性に対して、「アメ」も用意されている。
「兵役を終えた女性に限って、(労働党)入党、大学推薦などを優先的に行い、就職する場合もいい職場に配属させる」(情報筋)
インセンティブを与えて軍入隊を奨励する政策だが、これは女性兵士に対して常習的に鬼畜行為を働く上官が付け入る隙を広げたということでもある。一方で、労働党への入党はさほど価値があるものとはみなされておらず、このようなインセンティブは価値が以前ほどではないのも事実だ。