斬新すぎる「“クーペ”ミニバン」!? まさかの「2ドア」×前衛デザイン採用! もはやファミリーカーじゃない「超開放感マシン」とは

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ガラスルーフも窓も、スイッチ一つで全開に! 

 ミニバンが台頭しはじめた1990年代後半から2000年代前半に、フランスのルノーは前代未聞のミニバンを出現させ、大きな話題となりました。

 そのミニバンの名は「アヴァンタイム」。車名は、フランス語で「前に」という意味の「Avant(アヴァン)」、もしくは「前衛的な」「実験的な」など意味を持つ「Avant-garde(アヴァンギャルド)」と、英語の「Time」を組み合わせたといわれています。

ナニコレすごい…まさかの”クーペ”ミニバン「アヴァンタイム」

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 2001年に発売を開始したアヴァンタイムは、その名の通り、実に尖ったミニバンでした。外観的には、ベースとなったルノーのミニバン「エスパス」と同様に、ミニバンらしいスタイルを持っていましたが、ドアは2枚しかありませんでした。

 つまり、アヴァンタイムはミニバンのフォルムをしたクーペ。ルノー自身も、このクルマをクーペと称していたようです。

 ミニバンといえば多人数乗車が売りですが、アヴァンタイムの定員は5名。実質的には4名乗車が理想といえるシート形状で、足元空間も、全長4.6m、全幅1.8mを超える比較的大きなミニバンとしては、決して広くありませんでした。

 とはいえ、後席シートは全席に劣らないほどに分厚くて座り心地が良く、乗員はゆったりとした移動が楽しめました。ボディ後端にはテールゲートを持っており、ミニバンとしての積載性も確保していました。

 さらにアヴァンタイムの大きな特徴として、開放感の高さがあげられます。フロントウインドウの付け根が前進しているため、前方の視界は抜群。

 広大な面積を誇るダブルガラスサンルーフの前側は、スイッチ一つで4枚のサイドウィンドウと同時に開閉するため、すべてを開くと、まるでオープンカーのような爽快感が味わえました。ピラーレスハードトップの構造も、それを強調していました。

 そしてアヴァンタイムの魅力は、その大胆かつ洗練されたデザインにもありました。エッジを多用したボディの後半は、同時期に発売されていた2代目「メガーヌ」のような、切り立った円柱形の造形を採用。太いCピラー、凝ったデザインのテールライトなども、未来感を演出していました。

 車内はモノカラーの2トーンで構成され、スイッチ類を極力隠したダッシュボード、センターメーターなどによって前衛的な雰囲気となっていました。

 しかも驚くべきことに、この内外装デザインは、1999年に発表されたコンセプトカーとほぼ変わらない意匠を保っていました。

 サスペンションやパワートレーンなどのメカニズムは、3代目エスパスを引き継ぎ、エンジンはルノー製の2リッター直4ターボもしくは3リッターV6を搭載。日本仕様では207psを発生する後者を搭載し、5速ATが組み合わされていました。

 車重は約1.8tもあったため、搭載エンジンでは少々役不足。しかし、飛ばして走るというよりは、大きな窓から見える景色を楽しみながら、ゆったりと走る高級GTカーという側面も持っており、これもまたアヴァンタイムの個性でした。

 骨格にFRPのパネルを貼り付けるというボディ構造も特徴的でしたが、これは、初代から3代目までのエスパスと同じでした。

 アヴァンタイムを生産していたのは、マトラという会社でした。ミサイルや宇宙関連事業で成功した同社は、1964年に自動車市場に進出。以降、「M530」「バゲーラ」「ムレーナ」などの個性的なスポーツカーを数多く生み出してきました。

 1980年代に入ると、マトラと緊密な関係を築いていたPSA(プジョー・シトロエン)に、エスパスの元となるミニバンのアイデアを提案するも、プジョーでは開発を行わなかったため、マトラはルノーにそれを再提案。ルノーはエスパスのコンセプトを受け入れたことで、1984年に『ルノー エスパス』が誕生。開発と生産は、そのままマトラが行うことになりました。

 しかし、2003年にフルモデルチェンジした4代目エスパスから、ルノーの自社開発・生産に移行。それを受けてマトラは自動車生産から撤退してしまい、アヴァンタイムの生産も2003年に終了することに。

 生産台数は約8500台とも9000台とも言われ、日本には、わずか200台ほどが上陸したのみという希少車になってしまいました。

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 ミニバンとクーペの美点を持ち、前衛的なデザインを誇ったアヴァンタイムの魅力は、登場して20年以上が経ったいまでも褪せることはありません。

 現在では、SUVとクーペのクロスオーバーは珍しくないですが、家族でワイワイと楽しむ印象があるミニバンと、パーソナル感が強いクーペという、相反する要素が融合したクルマは、ほぼ類を見ません。

 いかにアヴァンタイムが独特の価値観を持つクルマなのかがわかります。今後も、アヴァンタイムのような、アッと驚かされるようなユニークなクルマの登場に期待したいところです。