つるた・きしょう/1973年生まれ。1996年名古屋大学経済学部、三菱商事入社。農水産本部穀物ユニット、三菱食品経営企画オフィス室長、ローソン執行役員などを経て2022年復社。2023年から現職。2024年4月リテイル本部長就任予定(編集部撮影)

三菱商事が2000年、ダイエーからローソン株の一部を買い取りコンビニ経営に乗り出して24年。2017年にはローソンを子会社化し経営支援を続けてきた三菱商事だったが、2月6日、現在50.1%の出資比率を50%まで引き下げ、KDDIと折半出資の「共同経営」に移行すると発表した。

KDDIは4月以降、約5000億円を投じてローソンに対するTOB(株式公開買い付け)を実施し、9月をメドにローソンを非公開化する(詳細は3月6日配信:三菱商事が「ローソンを非上場化」する真の狙い)。

新たな座組でローソンとの関係はどう変わるのか。4月にリテイル本部長に就任する三菱商事の鶴田紀章氏(現リテイル本部担当部長(CVS)兼コンシューマーマーケティング部長)に聞いた。

Pontaを活用してお客さんの体験を拡充

――今回、KDDIとの共同経営に至った経緯を聞かせてください。

実は2000年にローソンに出資したときも、通信との連携を当時から社内で議論していた。ローソンはコンビニ事業に加え、エンタメや海外事業なども展開している。ローソンにはもっともっとポテンシャルがある。それを引き出すにはパートナーが必要だった。

KDDIが2019年にローソンへ2.1%を出資して以来、三菱商事とKDDIは足かけ5年ほどローソンの価値向上策を話しあってきた。その中で、KDDIに「ローソンにコミットしよう」と思ってもらえた。

――ローソンにはNTTドコモも出資しています。なぜKDDIだったのでしょうか。

ローソンの最大の会員基盤は(三菱商事子会社が運営しKDDIも参画する)「Ponta」だ。これを活用してローソンのお客さんの体験を拡充していくことを考えたときに、KDDIがいちばん(パートナーとして)考えやすい。

Ponta会員が(KDDIの)auユーザーとひも付いている中で、KDDIのお客さんにさらにお得な体験を提供していければという話をしている。(日本の人口である)1億2000万人の消費者すべてにリーチすることを諦めたわけではないが、メリハリをつける。

Ponta会員などのロイヤルカスタマー(得意客)に対してデジタルで積極的にリーチして、お客さんとのコミュニケーションの中でカスタマイズされたサービスを提供していく。リモートブースを使った服薬指導などはその一例だ。


三菱商事は2017年に出資比率を引き上げ、ローソンを子会社化した(撮影:今井康一)

子会社化後は苦しい数年間だった

――2017年にローソンを連結子会社化して以降、ローソンの時価総額は縮小してきました。

東日本大震災の後、コンビニ各社は出店を増やした。その中で不採算店、立地に問題がある店舗も出てくる。2017年以降そうしたところの整理を一気に進めた。量から質に切り替えていったタイミングだったが、損失も発生しそれが業績や時価総額にもつながって、苦しい数年間だった。

(店舗の整理が終わり)いよいよ攻めに転じるという2020年に、今度はコロナ禍となり復活が遅れた。ただ、2017年からしっかりと地盤を固めた結果が、2023年以降の業績回復につながっている。

――市場からはローソンの資産効率改善が求められていました。社内ではどのように議論していたのでしょう。

(三菱商事としては)ローソンの資産効率は当然上げていきたい。そのために何ができるかはつねに考えている。ただ、2017年の子会社化以降、われわれ三菱商事からの出向社員はローソンをよくすることに集中した。

その流れの中で、2019年からKDDIと議論してきた。もちろん当時から今回のような(共同経営の)形を見据えていたわけではない。ただ、つねにローソンにとって一番いいのは何だろうと考えたとき、三菱商事が1社で独占支配するのが唯一の解だとは思っていなかった。

――業務提携ではなく、50%出資する「共同経営」となった背景は?


2019年12月、KDDI、ローソン、三菱商事とPontaを手がけるロイヤリティマーケティングが提携した(撮影:今井康一)

コミットメントの違いだろう。KDDIのことなので推測になるが、業務提携のままだとローソンの成長の中でそれに見合った貢献ということになるし、リターンも2.1%出資だとそれに応じたものにとどまる。

コミットを引き上げるからこそリターンも取れることになる。

――開示資料では「当初パートナー候補者」の存在が明示されています。2022年12月に協議に加わり、2023年12月に離脱していますが、事業スキームに影響はなかったのでしょうか。

KDDIとは2019年からいろんな協議をする一方、三菱商事としてはオープンスタンスで(さまざまな企業と)協業していきたいと思ってきた。今の中期経営戦略でもシェアドバリュー(共創価値)を出していきたいと言っている。

そのような発信をしている中で、共感していただけるところが自然と出てくる。それが2022年に起きたことだった。裏ではいろいろあったが、事業の絵は変わっていない。右往左往することなく、ぶれずにやってきたつもりだ。

非上場化でローソンとの距離はむしろ近づく

――将来、KDDI以外にもパートナーを迎え入れる可能性はありますか。

(新たなパートナーとして)適した方がいれば選択肢から外さないが、まずは今新しくトライしようとしている座組で頑張ってみたい。

――非上場化によって、ローソンに市場の目が届かなくなります。

そもそも三菱商事が市場の目にさらされている。もちろん、外部の声もしっかり聞くことは意識的にやっていきたい。

――ローソンとの関係に距離が生じませんか。

非上場化でローソンとの距離はむしろ近づくイメージだ。ローソンには本当にいろんな人が関わっている。例えばお弁当の工場に三菱商事が出資し、そこには三菱商事の社員もいてローソンの人たちと一緒に仕事をしている。マチカフェコーヒーも二人三脚で進めてきた。経営のスピード感も含めこうした距離感はさらに近くなる。

(森 創一郎 : 東洋経済 記者)