アルツハイマー病の発症リスクを高める要因としては、ジャンクフードの食べ過ぎや睡眠不足などさまざまなものが挙げられています。オーストラリアのウェスタンシドニー大学の研究チームによるレビューでは、「鼻をほじること」がアルツハイマー病のリスクを高める可能性があるとして、そのメカニズムについて解説されています。

Biomolecules | Free Full-Text | Neuroinflammation in Alzheimer’s Disease: A Potential Role of Nose-Picking in Pathogen Entry via the Olfactory System?

https://www.mdpi.com/2218-273X/13/11/1568



Scientists Reveal How Nose-Picking Could Increase Risk of Alzheimer's : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/scientists-reveal-how-nose-picking-could-increase-risk-of-alzheimers

鼻をほじると認知機能や記憶力の低下をもたらすアルツハイマー病のリスクが上昇するという考えは、一見すると俗説やデタラメのように感じられます。しかし、研究チームは指先に付着したバクテリアやウイルスが鼻を通じて体内に侵入し、脳に悪影響をもたらすという仮説について科学的に検討しています。

香りの分子が人間の鼻にある嗅覚受容体を刺激すると、鼻腔(びくう)の上部、前頭葉の下に位置する嗅球に刺激が伝えられます。これらの嗅覚系は、アルツハイマー病によって影響を受ける海馬などの脳領域とつながる直接的な経路を持っています。

指で鼻をほじる時は、指先に付着した病原体が脳に向かって押し出される状態になります。さらに、鼻の中にあるものを引き抜くことで鼻腔内の微生物叢(そう)のバランスが変化し、体の病原体に対するバリアが弱まる可能性があるとのこと。これにより、指先に付着したウイルスや細菌が嗅覚系を通じて、脳に侵入するリスクが高まるといわれています。

研究チームは、「アルツハイマー病の発症にはアミロイドβやタウタンパク質の沈着など多くの要因があると考えられていますが、最近の証拠によると神経の炎症も部分的に関与している可能性が示唆されています。近年では、アルツハイマー病における神経炎症プロセスの開始や加速に、外部からの病原体の侵入が関与している可能性を探る研究が現れています」と述べています。つまり、鼻をほじることで病原体が脳に侵入し、それによって引き起こされた神経の炎症が、アルツハイマー病のリスクを高める可能性があると研究チームは主張しているわけです。

マウスでの実験を行った2022年の研究では、実際にクラミジア肺炎を引き起こすChlamydia pneumoniaeという細菌が嗅覚神経系を通って脳神経に炎症を起こし、アミロイドβの沈着を引き起こすことが示されました。



また、研究チームは「鼻をほじることがアルツハイマー病のリスクを高める」という仮説を補強する証拠として、アルツハイマー病や認知症患者の脳内でヘルペスウイルスやその他の細菌がよく検出されることを挙げています。

さらに、アルツハイマー病の兆候が最初に「嗅覚の喪失」といった形で現れることも、嗅覚系がアルツハイマー病のリスクに関連していることを示唆しているとのことです。

嗅覚の喪失はパーキンソン病やアルツハイマー病の初期兆候である可能性 - GIGAZINE



今回の研究はあくまでさまざまな研究結果をレビューし、鼻をほじることとアルツハイマー病の発症リスクの関連を予想したものであり、決定的な結論を実証したわけではありません。それでも研究チームは、「アルツハイマー病に関連した神経炎症における、嗅覚を通じた病原体侵入の潜在的役割を理解することは、予防のための新たな道を開くことになります。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行から学んだように、すべての侵入経路の中で手指衛生の改善は容易な予防ステップかもしれません」と述べ、今回の知見がアルツハイマー病の予防に役立つ可能性があると期待を寄せました。