秋田新幹線は単線区間を走ることも多いミニ新幹線。東京と秋田を直結する(撮影:鼠入昌史)

東京という巨大な都市は、いくつも中心的なターミナルがある。良いとか悪いとかではなくて、それだけ大きすぎる都市であるということだ。

そんな巨大な都市を支えるターミナルの1つが、渋谷駅。そして、この渋谷駅のシンボルは、今も昔もハチ公像だ。道玄坂の下、スクランブル交差点のすぐ脇のその名もハチ公前広場。駅の再開発で移転したことはあるようだが、金属供出で一時的に姿を消した時期を除いて、90年間渋谷の駅前に佇んでいる。

「ハチ公」がつないだ縁

そんなハチ公さん、もとはといえば秋田犬。秋田県は大館に生まれ、はるばる列車に揺られて東京までやってきた。

こうした縁があって、渋谷区と大館市は交流協定を結んでいるし、大館駅前の「秋田犬の里」には忠犬ハチ公の像が建つ。そして、そのすぐ近くには渋谷駅前でハチ公の正面に置かれていた“青ガエル”、東急5000系が保存されている。青ガエルとハチ公像のセットはまるで渋谷だ。東京・渋谷と秋田・大館は、ハチ公のおかげで強く結ばれている。

ならば、ハチ公の故郷、秋田を訪れてみよう。東京から秋田まで。飛行機を使ってもいいが、やっぱりここは新幹線であろう。

秋田新幹線は、盛岡駅で東北新幹線から分割されて西に向かう。在来線の田沢湖線の線路の上を新幹線が走るという、いわゆる“新在直通”のミニ新幹線だ。県境を越えて秋田県内最初の駅は、田沢湖駅だ。すぐ近くには、日本一深い湖として知られる田沢湖がある。

次いで在来線普通列車だけが停まる駅をいくつかやり過ごして角館。“みちのくの小京都”などと呼ばれることもあるそうで、久保田藩主佐竹氏の一族・佐竹北家が治めた武家屋敷の町並みが有名な町だ。

角館から延びる秋田内陸線

その角館駅からは、秋田内陸縦貫鉄道秋田内陸線が分かれている。

秋田内陸線は、太平山地を縫うように北に走り、途中にはかつて鉱山で栄えた阿仁の町を通る。北端は、奥羽本線と接続する鷹巣駅だ。もともとは1934年に鷹ノ巣―米内沢間で開業した国鉄阿仁合線がはじまりで、阿仁鉱山から産出される銅を輸送するための路線だった。1936年までに鷹ノ巣―阿仁合間が完成している。

以後の延伸は戦後になってから。1963年に阿仁合―比立内間が延伸開業し、1970年には角館線の名で角館―松葉間が開業した。しかし、中間が結ばれぬままどちらも国鉄末期に廃止対象になってしまう。そこで第三セクターの秋田内陸縦貫鉄道に移管され、1989年に比立内―松葉間が開業し全線が結ばれた。ローカルの第三セクター路線には珍しく、急行「もりよし」が走っているのが特徴の1つだ。


秋田内陸縦貫鉄道秋田内陸線の阿仁合駅。かつて阿仁鉱山で栄えた町にある(撮影:鼠入昌史)

そんなローカル線を横目に、秋田新幹線の旅を続けよう。新幹線は、花火で有名な大曲の駅でスイッチバックを強いられる。大曲駅で田沢湖線が終わり、ここからは奥羽本線に乗り入れる形になるからだ。

奥羽本線は、福島駅を起点に米沢・山形・新庄を経て及位―院内間で秋田県に入る。かまくらで知られる横手駅では北上線と接続し、大曲駅では田沢湖線。かつては寝台特急も走った大動脈だったが、いまは山形・秋田新幹線が乗り入れるだけ。とくに新庄―大曲間はほとんど普通列車だけの、事実上のローカル区間になっている。


奥羽本線後三年駅付近を走る普通列車。701系の独壇場だ(撮影:鼠入昌史)

ともあれ、大曲駅から秋田新幹線は奥羽本線の線路の上を走る。山形新幹線区間は新幹線に合わせて在来の普通列車も標準軌に変更しているが、こちらは狭軌と標準軌の併存区間。三線軌道になっているところもあれば、狭軌と標準軌の単線並列になっているところもある。

県都の玄関、秋田駅

そうして雄物川沿いを走り、秋田県都の玄関口・秋田駅。秋田市は、人口約30万人。東北地方では仙台・いわき・郡山に次ぐ、第4の規模を誇る都市だ。駅の西側には久保田城。駅前一帯には中心市街地が広がっている。

秋田駅に乗り入れている路線には、奥羽本線・秋田新幹線に加えて羽越本線がある。羽越本線は、新潟県の新津駅を起点に山形県内の日本海側、鶴岡・酒田などを経て秋田までやってくる。

秋田県内では羽後本荘駅で第三セクターの由利高原鉄道鳥海山ろく線を分ける。羽後本荘―矢島間23kmという短い盲腸線で、その名の通り鳥海山の北麓を走るローカル線だ。秋田おばこに扮したアテンダントが乗務するなど、観光路線としての側面も持っている。


由利高原鉄道鳥海山ろく線。鳥海山麓の里山風景の中を走る(撮影:鼠入昌史)

秋田駅に戻ろう。秋田新幹線はここで終わりだが、奥羽本線はまだまだ続く。特急「つがる」が秋田―青森間を1日に3往復。かつては特急「あけぼの」なども走っていた大動脈も、いまはミニ新幹線を除けば「つがる」が最後の特急列車である。


秋田―青森間を結ぶ奥羽本線特急「つがる」。2024年3月のダイヤ改正で1往復が停車駅の少ない「スーパーつがる」に(撮影:鼠入昌史)

ただ、青森に気持ちが行くのはまだ気が早い。秋田駅を出ると、土崎港という藩政時代からの要港に近い土崎駅。ここからは貨物支線の秋田港線が分かれていて、ごくまれに秋田港に寄港するクルーズ船の乗客のための旅客営業を行っている。


土崎駅から分かれる貨物支線の先は秋田港駅。まれに旅客扱いをすることも(撮影:鼠入昌史)

非電化の男鹿線を走る“電車”

さらに、追分駅からはなまはげでおなじみ男鹿半島に向かう男鹿線を分ける。秋田湾沿いを走って男鹿駅へ。途中、天王―船越間では八郎潟から流れる船越水道を通っている。

このローカル線の特徴は、蓄電池駆動電車EV-E801系「ACCUM」を使っていることだ。2017年から蓄電池、つまり電池を使った電車が走る非電化路線。ディーゼルカーとは違って、走っていても車内は実に静かで、電気自動車気分が味わえる。


船越水道を渡る男鹿線の蓄電池電車EV-E801系「ACCUM」(撮影:鼠入昌史)

奥羽本線に戻ると、八郎潟を左に見て北に走り、東能代駅では五能線を分ける。ここから米代川沿いに東に転進し、鷹巣盆地での鷹ノ巣駅では秋田内陸線と接続。そして大館盆地の大館駅にやってくる。そう、ハチ公の故郷である。


大館駅前の「秋田犬の里」にはハチ公像(撮影:鼠入昌史)

大館は、小坂鉱山・花岡鉱山などでにぎわった町だ。大館駅からも、鉱石輸送のための小坂鉄道が分かれていた。最後に残った小坂線は2009年に廃止されている。

大館からは花輪線も

また、花輪線も大館駅から分かれるローカル線の1つ。花輪盆地の鹿角市などを経て、湯瀬温泉郷の辺りで岩手県との県境。急勾配を抱えていることで知られ、かつては通称“ハチロク”、8620形蒸気機関車の三重連が見られる“撮り鉄の聖地”だったとか。

さて、ここまでやってくれば、あとはもう奥羽本線も県境を越えて青森県にゆくばかり。新幹線を除けば、特急が通っているのは奥羽本線と羽越本線くらいなものだ。

そしてその特急も、本数が少なくなっている。だから、新幹線以外はほぼすべてがローカル線ともいえる秋田県。どうせここまで鉄道の旅をしてきたならば、県都の秋田市などで終わらせず、ハチ公の故郷・大館まで足を延ばしてみてはどうだろうか。秋田犬とのふれあいも、楽しめますよ。


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(鼠入 昌史 : ライター)