気づきへとつながる「すごい会議」には、問題の解決へ至るカギがある(写真:skynesher/getty)

アップル、アメリカン・エキスプレス、P&G、モルガン・スタンレー、ヤフーなど国内外の会社で採用されている、問題解決、ファシリテーション手法の「すごい会議」。

短期間で劇的な変化があるという「すごい会議」とはいったいどんなものなのか?

インターネットの黎明期に、シリコンバレーで「GAZOOBA」という会社を起業した際、ユダヤ人のマネージメントコーチ、ハワード・ゴールドマンから直接このトレーニングを受けた大橋禅太郎さんがその体験を書いた『新版すごい会議』より、一部引用・再編してご紹介します(3回にわたって掲載。今回は3回目)。

インターネットの黎明期にシリコンバレーで起業するも、ビジネスがうまくいかず、悩んでいた『すごい会議』著者の大橋禅太郎さんの会社に、投資家に紹介されてやってきたユダヤ人のマネージメントコーチ、ハワード・ゴールドマン。コーチングに後ろ向きだった大橋さんですが、会社幹部に説得されて、会議に参加します。

1室に集められた会社の幹部たちが、ハワードから次々と投げかけられる質問に回答するうちに、直面している問題が明らかになっていきます。そして飛び出した、まさかの「ひどい真実」とは――。

どのようにすれば〜〜か?

ハワードによるマネジメントのコーチングは続く。

「では次の質問は『会社全体そしてマネジメントチームとして直面しているチャレンジに関して、どんな問題点や懸念があるか。最も重要と思うことを2、3個書いてください」

それぞれが、問題や懸念を1人ずつ発表するのだが、ハワードは発表するたびに、「では、それを『どのようにすれば〜〜か?』の疑問文に言い換えてくれ」と言った。

・資金が足りない
・現行の製品が売れていない
・次の製品のプランがない

こう書いた僕の場合でいえば、次のようになる。

・「資金が足りない」→「どのようにすれば資金を得られるだろうか?」
・「現行の製品が売れていない」→「どのようにすれば製品が売れるか?」
・「次の製品のプランがない」 →「どのようにすれば製品のプランをつくれるか?」

ここで少し、僕が後に、ある渋谷の成長中の会社のコーチングをしたときの話をしよう。

仏頂面の総務部長がいたが、彼は僕を少し斜めに見ながら、「会社が面白くないのが問題です」と言った。僕はハワードがそうしたように、「では、それを『どのようにすれば〜〜か?』のかたちに言い換えてください」と言った。

彼が答える。「どのようにすれば会社が面白くなるか?」。

僕は彼に聞いてみた。「その疑問形にしたら、なにが変わりましたか?」

彼は「そんなこと考えたことなかったです」と答えた。

たぶん彼は、会社が面白くない理由を説明するのは上手だったと思う。しかし、「どのようにすれば」の質問文にしたら、初めて答えを考えてしまった。

できない説明より解決策を

僕は一言も答えを考えてくれとも言ってないし、ましてや僕にそれを言ったからといってボーナスが上がったり、評価が上がったりするわけではない。それなのに、答えを考えてしまった。

「できない説明ではなく、解決策を言ってほしい」というのは、すべての経営者が社員に対して求めていることだが、それを手に入れられる経営者は多くない。

ところが、「どのようにすれば」と言い換えただけで、その状況がいとも簡単につくれてしまったのである。

僕は彼に言った。「質問のかたちにしたら、答えを考えてしまったわけですね?」

彼は「はい」と答えた。

「じゃあ、もっと面白い質問のかたちにすれば、もっといろんな人が考えたりしてくれるかもしれませんね」と僕。

「どうすればいいんですか?」と彼。

「先ほどの疑問文『どのようにすれば会社が面白くなるか?』を、『これが起こったらいいな〜』と思うような文章にすればいいんです。最初は難しかったら、『日本一』とか『世界一』といった言葉を入れれば、そうなりやすいです」

そう僕がアドバイスをすると、彼は「どのようにすれば渋谷一魅力的な会社を築けるだろうか?」という魅力的な質問文を彼はひねり出した。

もしも僕が彼の会社の総務部員で、社長から「なにかのタイミングで会社のために使ってくれ」と3万円を渡されたとしよう。

考えられるシナリオは3つある。 

シナリオA:僕の上司が「会社が面白くないのが問題」と言っている
シナリオB:僕の上司が「どのようにすれば会社が面白くなるか」と言っている
シナリオC:僕の上司が「どのようにすれば渋谷一魅力的な会社を築けるだろうか」と言っている

さて、3万円の使い道はどうなるか。

Aだったら「じゃあ、給湯室のコーヒーのフィルターでも買っておくか」ぐらいだし、Bだったら「じゃあ、アイスクリームパーティでもやるか」となるし、Cだったら、その答えを考えるだけでわくわくする。

A、B、Cのうち、どの会社に入社したいかと言われたら、僕なら間違いなくCだ。

仏頂面の総務部長同様、ハワードから言われて、初めて「どのようにすれば」に出合った僕にも「!」がやってきた。言葉のフォーマットを変えただけなのに、こんなに差が出てくるとは、僕も驚きだった。

言えない問題を言ってみる

当時の僕も、フォーマットを変えることで新たな視点ができることを知った。

言えない問題を言ってみる。

考えつく限りの問題や懸念を読み上げ、「どのようにすれば」に置き換えていく作業が一巡すると、ハワードは「他にないか」と確認したあと、次の質問を続けた。「言わなかった問題、言えない問題、言ってはいけない問題はなにか?」。

――ん? 言えない問題? これは答えにくい質問だ。

心のなかを探してみると、「現行の製品は『売れていない』のではなく、製品そのものがカスだ」というのが出てきた。これも「どのようにすれば、すごい製品ができるか」と言い換えた。

さらにハワードの質問は続いた。「では次は、この会社のひどい真実はなにか?」。

――ん? おい、もっとかよ? と思ったが、「僕とアンディーの間がうまくいっていない」というのが出てきた。これは「どのようにすれば、(共同経営者である)ゼンとアンディーがエグゼクティブとして機能するか」というかたちに置き換えられた。

そうすると、「では最後に、あなた自身のひどい真実はなんだ?」とハワードは聞いてきた。

うーむ、これも答えにくかったが、「僕がCEOを下ろされ、駄々をこねている」というのを思い切って出してやった。

ほかのメンバーからも、どんどん出てくる。

「ひどい真実」のほうが重要度が高い

これらを放っておいたままで、最初のほうに面白いのは、最初に出てきた問題よりも、後半に出てくる「言えない問題」「ひどい真実」のほうが、経営をやっていくうえで、より重要度が高いものが出てきたことだ。

出てくる問題をなんとかしようとしても、問題の根を絶やすことはできない。「問題の本質はなんだ?」と質問してもなかなか答えは出てこないが、このフォーマットでやると答えが出てくるから不思議だ。

これによって僕らは、

・経営の中心となるメンバーが緊張感を持ってそろった
・人の意見を気にすることなく、それを発表するしくみを手に入れた
・参加させられているという感じから、「なにかやってやろう」という気分
・前向きな雰囲気にする
・達成しようとしていることの本当の障害が前向きな形で明らかになる
・なんかやってやろうという気分になっている


を手に入れた。

ここでもう1つ、特記すべきことがあるとすれば、立場の違いに関係なく発言ができたことだと思う。

特に普段はそんなことを口にするチャンスが与えられていなかったジェニファーは興奮している様子だった。

僕やアンディーはいつでもこんなことは言えると思っていたのだが、実際にこういったプロセスをやってみると、見えないことが見えてくる。これだけでも、やってみる価値は高い。

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(大橋 禅太郎)