2023年のセミコンは3日間の開催期間で来場者数が8万5000人に達した。5万2000人だった2022年の来場者数を大きく上回った(写真:SEMI Japan)

「ほかの企業で『搬送装置』の説明を受けたのですが、御社のこの装置で使われている『ハンドラー』とはどう違うんでしょうか?」

昨年12月、大規模展示場の東京ビッグサイト。スーツを着た10人前後の学生たちの集団が、観光ツアーさながらに手旗を持った案内役に率いられ、展示場内を移動していた。企業の展示ブースを訪れると、学生たちはメーカー社員の話に熱心に耳を傾けていた。

ビッグサイト内で開かれていたのは大規模展示会の「SEMICON Japan 2023」(セミコン)だ。2023年は半導体メーカーだけでなく製造装置や材料、ソフトウェアなど国内外から961の団体が出展。3日間の開催期間中、来場者数は8万5000人に達した。

セミコンは就活イベントとしての一面も

主に情報収集や商談を目的にビジネスパーソンが集まるセミコン。だが近年は、業界を志す学生たちも集まる「就活イベント」という一面も持ち始めている。

2023年のセミコンには、大学や大学院の理系学生を中心に前年比で1.3倍となる約1300人の学生が参加。さらに、韓国を中心に海外からの参加者も約100名に上ったという。

「半導体業界はとにかく人が足りていない。今はそれほど半導体を知らない就活生にも興味を持ってもらえるように、学生向けのエリアでは半導体を身近に感じてもらえるような工夫をしている」

そう話すのはセミコンを主催する業界団体・SEMIジャパンで人材開発プロジェクトを率いる下村泰輔氏だ。

会場のメインエリアには各企業の展示ブースが並ぶ一方で、全国の大学や高等専門学校(高専)が出展する大規模な学生向けエリアも設置。エリア内では、就活生向けにさまざまなイベントが開催されていた。

半導体とeスポーツがテーマのセッションはその一つだ。eスポーツ選手でグラビアアイドルの伊織もえさんなどが登壇し、参加者と人気FPSゲームで対決。半導体の性能がゲームのグラフィック描画性能に与える影響を身近に感じられる内容だ。


伊織もえさんが人気ゲームの「Apex Legends」で参加者と対戦。業界や技術の動向などお堅いテーマの講演が目立つ中で異色の企画だった(写真:SEMI Japan)

冒頭の「ブースツアー」も就活生向けのイベントだ。メインエリアにある個別企業ブースを学生が一人で回るハードルはなかなか高い。そこで、観光ツアーのように特定の企業ブースを担当者が同行して案内するようにした。

ブースツアーが対象とする企業は30社以上。半導体メーカーをはじめ装置・材料メーカーやソフトウェア関連など業種は幅広い。学生はグループごとに分かれて4〜5社のブースを回る。延べ200名以上が参加した。

イベントに訪れた就活生の横顔

半導体業界を志すのはどのような学生か。半導体製造装置で世界的メーカーの東京エレクトロンの採用者をみると、「大学院修士卒・理系・男性」が半数を占める。


ただ、セミコンに参加した学生のバックグラウンドを聞くと、そのような紋切り型な説明はできない。

「文系の学部なんですが、日本のモノづくりに携わりたいという思いがあって。就職情報サイトからの案内メールを見て参加しました。今日は東芝デバイス&ストレージのお話を楽しみにしています」

そう話した男性は目を輝かせていた。大阪の高等専門学校に在籍しているという別の学生に声をかけると、こちらもお目当ての企業があるという。

「普段はソフトウェアを作っていますが、製造装置メーカーを中心に見ています。今いちばん気になっているのはディスコです。社内通貨制度を持っているなど独特な企業文化がおもしろいので。でも、ほかの企業も積極的に見るようにしています」

ディスコといえば平均年収が1000万円を超える企業としてメディアで着目されることが少なくない(4ページ目以降に「半導体関連企業の年収トップ50」ランキングを掲載)。だが、関心を向けるのは社内通貨制度というように、学生の企業に対する理解も進んでいる。

ツアーで各社に与えられた説明時間は1社につき10分。各ブースの説明担当者はつい話に熱が入ってしまうが、やはり時間は足りないようだ。案内役が学生に「次、行きましょう」と伝えると、説明担当者は去っていく学生を苦い表情で見送っていた。

「検査や計測機器のメーカーに興味がありましたが、ぜんぜん時間が足りなかったですね。でも今まで知らなかった企業の説明を聞くことができて満足です」

広島にある大学院の博士課程で画像・データ解析を研究しているという男性はツアー終了後、そう言って会場を後にした。中国の出身で、現地で一度就職した後に日本の大学院に入学したのだという。

学生たちの全体的な満足度は概ね良好。終了後のアンケート調査では、「ほかの就活イベントでは見られない製造装置などの実機を見られた」といった声が多く寄せられたという。半導体業界に特化した大規模な展示会の魅力のひとつといえそうだ。

長く続いた人減らしで年齢構成がいびつ

半導体関連業界の各社にとって、人手不足は今後の成長を左右しかねない死活問題。新卒採用は重要だ。

というのも、いまや日本では半導体工場が新設ラッシュ。台湾・TSMCによる熊本進出やラピダスの北海道工場建設に加え、パワー半導体各社の増産も活況。装置・材料メーカーの設備投資も、半導体産業の育成に力を入れる政府の巨額支援を背景に過去最高水準にある。

ただ、「業界全体として長らく人を減らしてきたこともあり人材の年齢構成がいびつ。中途採用でなんとかしようとしてもそもそも人がいない」(前出の下村氏)というのが実情だ。

1990年頃には世界シェア約5割と栄華を誇ったニッポン半導体は長く凋落が続き現在のシェアは10%前後。1999年に19万人以上いた半導体メーカーの従業員数は、2022年には8.5万人にまで半減した。最先端半導体の国産化を目指すラピダスに集うエンジニアも、50代以上が大多数だという。

製造装置や材料メーカーは世界的な強みを保ったままだが、それでも関連人材が豊富にいるわけではない。だからこそ、業界として新卒からの人材確保に力を入れている。

下の表のように、半導体関連企業大手の新卒者採用数はここ数年増加傾向にある。


ただ、一般的な知名度が高くないBtoBの半導体関連企業にとって知名度向上は大きなテーマ。表には入っていないが、材料大手のレゾナックは昨年11月からテレビCMを放映。俳優の滝藤賢一氏が「日本の半導体が遅れている?そんな思い込みはもう捨てましょう」と呼びかける内容だ。

重要度を増す「給与のアピール」

給与など待遇面でのアピールも重要度を増している。TSMC熊本工場の大卒エンジニアの初任給が月28万円と、県内平均の月20万円弱より大幅に高いことが話題になった。

以下にランキングを掲載したように、この数年の業績拡大もあって半導体関連企業の年収は上がっている。国の支援も本格化する中で、人材確保や育成への取り組みもこれまで以上に求められることになりそうだ。

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半導体関連企業の年収ランキング


(石阪 友貴 : 東洋経済 記者)