2022年にマロニエゲート銀座2に出店した、大創産業の「Standard Products」。「DAISO」と「THREEPPY」の3ブランドを融合させた旗艦店を含めて、全都道府県展開を目指す(写真:大創産業)

「まるで無印みたい」

東京・銀座の「マロニエゲート銀座2」。ユニクロやディスカウントスーパーのオーケーが入居するこのビルの6階フロアを占拠するのが、100円ショップ最大手の大創産業だ。同フロアで、「DAISO」「Standard Products(スタンダードプロダクツ)」「THREEPPY(スリーピー)」の3業態を展開する。

300円商品を中心に扱うStandard Productsは、2021年の立ち上げ以降、シンプルでおしゃれな生活用品を豊富にそろえていることで人気を集める。「無印良品みたいな300円ショップ」とも呼ばれ、11月末には93店舗まで拡大。THREEPPYも同じく300円業態で、こちらは女性向けのかわいい雑貨が中心だ。

「マロニエゲート銀座店を皮切りに、エリアの客層や立地に合わせてDAISO、Standard Products、THREEPPYのブランドを組み合わせた出店を拡大している」(大創産業)と自信を見せる。

大創産業はDAISOを主力に国内外で5247店を展開するが、このうち1割以上が300円商品を中心とした高価格帯業態が占める。100円ショップのDAISOでも2003年から、300円や500円などの高価格帯商品の取り扱いを始め、現在は商品構成の1割強に達するという。

今の為替では廃盤商品が増える

庶民の味方の100円ショップで今、「100円より高い商品」を扱う動きが広まっている。

「今の為替水準では、販売できない商品が増えてくる」。そう語るのは、業界4位・ワッツの平岡史生社長だ。

100円ショップでは多くの生活必需品を扱うが、その大半は海外生産。そのため定番商品でも、円安に伴うコスト高の影響で廃盤となる商品が出てきている。

たとえばプラスチック製のバケツ。1ドル100円から150円へ円安が進行すると、単純に仕入れ値は5割上昇する。この差額を仕様変更で埋めようとすると、プラスチックを薄くして、強度を犠牲にする必要が出てくる。あるいは雑巾を絞っても水がこぼれてしまうほど、バケツのサイズを小さくしなければ採算割れだ。

現状、大手各社は仕様変更などにより100円バケツの販売を続けているが、消費者はコスパの悪化を敏感に察知する。店頭で100円の”円安対応バケツ”を手に取り、購入するか悩んでしまう。

このため300円や500円の蓋付きバケツや折りたたみバケツも並べて、どれを買うかの判断を消費者に委ねる店舗は少なくない。調理道具や収納用品なども同様で、定番商品ほど素材やデザインとともに価格が多様になってきている。たとえ100円で売れなくなっても、生活必需品を求めるニーズに応え続けるためだ。


ワッツは本業のもうけとなる営業利益が、2021年8月期の約17億円から、2022年8月期は約10億円、2023年8月期は6.2億円と漸減が続く。最大の要因は円安進行による仕入値上昇だ。さらに円安対応で商品の改廃を進めたことで、一時的に品不足が起きて機会損失を招いたことも響いた。

足元では新規出店を抑えて、既存店のテコ入れや不採算店閉鎖を実施して足場固めを急いでいる。

高単価品は値頃感を訴求

業界3位のキャンドゥも状況は同じで、2021年11月期に9.6億円だった営業利益は、2024年2月期に2700万円まで落ち込む見通しだ。2022年にイオン子会社となったのを機に、イオン系店舗への出店を進めるほか、雑貨中心の新業態を出店するなどして収益改善を進めている。

ワッツ、キャンドゥともに、100円商品の仕様変更を進めて業績改善を図るが「効果は限定的」と口をそろえる。だからこそ高単価品をそろえることで、粗利益率の改善を図ろうとしている。

これまでも100円ショップでは、高単価品の取り扱いについて試行錯誤を続けてきた。しかし、「レジで100円じゃないとわかると、買うことをやめるお客様は珍しくなかった」(キャンドゥ)。

試行錯誤しながら品ぞろえを広げていった結果、キャンドゥでは商品構成の15%前後を高単価品が占めるまでになったという。

最大手の大創産業を筆頭に、高単価品を広げる100円ショップ各社だが、2位のセリアだけは一線を画す。「100円商品」にこだわる方針を明言し、高単価品を扱っていない。

「1ドル80円から100円、120円へと円安が進んだときも、周囲から心配されたが乗り切ってきた。150円でも商品仕様や品ぞろえを見直していく」(セリアの河合映治社長)

独自の業務効率化システムを得意とし、利益率の高さを誇るセリアも業績低迷にあえぐ。2022年3月期に209億円だった営業利益は、2023年3月期に154億円、今2024年3月期は129億円と右肩下がりを見込む。

もともとセリアはおしゃれな雑貨などの品ぞろえに定評があり、近年はハンドクラフト商品など、新たな100円の価値を訴求する商品開発にも力を入れている。もちろん他社も100円の価値を最大限追求しているが、セリアは「100円業態」にこだわり続けることで、差別化する戦略を選んだ。

新規出店のオファーは絶えず

空前の円安に加え、人件費上昇などの逆風が吹き荒れる100円業態。それでも新規出店のオファーが絶えることはない。


大創産業のDAISOと、300円業態のTHREEPPY。大創産業の国内店舗約5200店のうち、1割以上を高価格帯業態が占める(写真:大創産業)

一等地の東京・銀座には冒頭の大創産業だけでなく、セリアもイグジッドメルサ銀座に店舗を構える。郊外の大型ショッピングモールには必ずといっていいほど入居し、食品スーパーや郊外のホームセンターにも出店を増やしている。

物価高で消費者が節約志向を高める中、100円ショップは「買い物レジャー」を楽しめる数少ない場所となっている。デベロッパーなどにとっても、その集客力は魅力的だ。

セリアのように「100円業態」にこだわり続けるのか、それとも「100円を軸に低価格商品を取りそろえる業態」に脱皮するのか。急激な円安は、100円ショップに難しい選択を突きつけている。

(前田 佳子 : 東洋経済 記者)