世論調査結果を発表する記者会見は東京と北京を結んで開かれた

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恒例の「日中共同世論調査」の2023年の結果が10月10日に発表され、東京電力福島第1原発で出た処理水の海洋放出をめぐる捉え方が日中で大きく異なることが明らかになった。

処理水問題をめぐっては、中国政府は強く日本を批判し、日本産水産品の全面輸入禁止措置に踏み切った。これを機に日中関係がさらに悪化したとの見方も出ていた。ところが、「日中関係の発展を妨げるもの」を複数回答で挙げてもらったところ、日本では36.7%が処理水問題を挙げたのに対して、中国では5.8%。国民感情レベルでは、日本国民の方が処理水問題を重視していたことになる。ただ、日本で中国に対する印象を「良くない」と考える人は約9割で、高止まりが続いている。

処理水問題は「政治的な対立の道具に」

世論調査は今回が19回目で、日本のNPO「言論NPO」と中国の「中国国際伝播集団」が、日本で9月、中国で8月下旬から9月初旬にかけて行った。処理水放出が始まったのは8月24日だ。

「福島第1原発の処理水放出を心配しているか」という問いに対して、日本側は「ある程度心配している」24.3%、「大変心配している」8.9%と合計33.2%が「心配」だとしている。中国側はそれぞれ25.5%、22.1%。合計すると47.6%で、日本よりも心配している人の割合は高い。

科学的な検証に加えて「安心」のための説明は必要だとする声は日中ともに多い。日本では「IAEA(国際原子力機関)検証は信頼しているが、日本政府は不信感の解消でさらなる努力をすべき」と答えた人が47.2%にのぼった。中国でも33.9%が同様の回答をしている。

ところが、中国側では、処理水問題で日中関係の悪化につながったとの見方は多くない。「日中関係の発展を妨げるもの」を複数回答で聞いたところ、日本側で最も多かったのは「領土をめぐる対立(尖閣諸島問題)があること」の43.6%で、それに次いで多かったのが処理水問題の36.7%だった。中国側で最も多かったのは「領土をめぐる対立」39.5%。「経済摩擦」28.6%、「海洋資源などをめぐる紛争」28.2%などが続き、処理水問題を挙げたのは5.8%に過ぎなかった。

この結果を、言論NPOの工藤泰志代表は

「この問題は政治的な対立の道具に使われてしまって、本当の意味で国民的な安心という問題とかけ離れてしまっている」

とみる。

相手国への感情「良くない」が高止まりする理由

ただ、 恒例の両国に対する印象を聞く設問では、「良くない」とする回答が引き続き圧倒的に多い。日本で中国に対する印象を「良くない」と考える人は、19年84.7%→20年89.7%→21年90.9%→22年87.3%と推移。23年は4.9ポイント高い92.2%だった。

中国で日本に対する印象を「良くない」(「どちらかといえば良くない」を含む)とする回答の割合は、19年52.7%→20年52.9%→21年66.1%→22年62.6%と推移。23年は0.3ポイント高い62.9%だった。

こういった国民感情の背景を、工藤氏は

「残念ながら、『中国のメディアを見て日本側のメディアが報道する、そして、日本の報道を見て日本の国民がそういう認識を固める』という間接情報的な状況で認識を作るしかない。その制約の中で、今、両国国民がその問題を判断している」

とみる。つまり、中国メディアが日本を批判する様子が日本メディアを通じて日本国民に伝わり、日本国民の対中感情が悪化する、という構図だ。

相手国に「良くない」印象を持つ理由を聞いた項目で、日本側で「中国メディアが反日報道を繰り返すから」と回答した割合が22年の21.9%から23年は40.7%と大幅に増えている。処理水問題が影を落としているとみられる。

調査では、ロシアによるウクライナ侵攻を背景に、「世界で核戦争は起こるか」という問いも初めて盛り込んだ。日本側では「近年中あり得る」3.5%、「遠くない未来はあり得る」36.4%と、4割が核戦争の可能性を不安視している。中国はそれぞれ12.4%、40.2%と日本を大きく上回っており、過半数に達している。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)