南武支線(尻手―浜川崎間)に導入されたE127系0番台。かつて新潟で運行していた車両だ(筆者撮影)

JR東日本の南武線・尻手―浜川崎間(以下南武支線)にて、新潟地区で活躍していた車両のE127系0番台が2023年9月13日から運行を開始した。

同形式は新潟地区の近郊区間用車両として製造され、近年はそのほとんどが新潟県内の第三セクター、えちごトキめき鉄道に譲渡されて主力として活躍している。今回南武支線に転属したのは、JRで運行を続けていた2編成だ。地方で運行していた車両が首都圏に転用されるのは珍しいケースだ。なぜこの車両が選ばれたのだろうか。

新潟地区用としてデビュー

E127系0番台は1995年に登場。「クモハE127」「クハE126」の2両編成で、新潟時代は2両、さらに複数連結して4〜6両の編成を組んでいた。首都圏でいえば京浜東北線などの1世代前の車両、209系とほぼ同時期の製造であり、制御装置にはVVVFインバータ制御を採用。ドアは片側3カ所で、ワンマン運転に対応した設備や半自動ドアボタン、トイレも設置している。

新潟エリアでは当初、信越本線(長岡―新潟間)、羽越本線(新発田―村上間)、越後線(吉田―新潟間)や白新線で活躍。2015年の北陸新幹線長野―金沢間延伸に合わせ、大半の編成が並行在来線三セクのえちごトキめき鉄道に譲渡された。JRに残った2編成(V12・V13編成)は弥彦線や越後線で運行していた。


新潟地区で活躍したE127系0番台(写真:Jun Kaida/PIXTA)

この2編成は2022年に一度運行を終了したが、同年6月に上越線で発生した落雷によって現行車両のE129系が使用不可能になった際、4両編成で越後中里―長岡間を代走して鉄道ファンの注目を集めた。そして、この代走を終えてからしばらく経った2023年2月17日、JR東日本横浜支社はE127系0番台を南武支線に投入することを発表、7月24日に運行開始日を発表し、9月13日から運行を開始した。転用にあたり、新潟時代のV12編成はV1編成、V13編成はV2編成と、編成番号が改められている。

E127系が導入されるまで、南武支線は205系1000番台のみが活躍していた。これは「クモハ205」「クモハ204」の2両編成で、どちらも電動車のため、加減速性能はほかの205系よりも強力だ。3編成存在したが、E127系の導入によって2編成が置き換えられた。


南武支線の205系1000番台(写真:寺澤一憲/PIXTA)

「2両ワンマン」で比較的新しい車両

地方出身の車両が首都圏に転用されるのは珍しいことだが、なぜこの車両が選ばれたのだろうか。JR東日本横浜支社によると、「E127系は機器更新を行ってからさほど時間が経っておらず、2両編成でワンマン運転を行っている弥彦線・越後線・上越線等と運用形式が近いことから、転用を決定しました」とのことだ。

実際に、V1・V2編成(旧V12・V13編成)の更新は2017年に行われており、現時点で10年も経っていない。運用も、南武支線は新潟エリアと同様に2両編成のワンマン運転を行っており、E127系は南武支線の条件に合っている。

南武支線への転用にあたっては、行き先方向幕交換、防犯カメラ設置と室内灯のLED化に加えて転落防止幌を取り付け、セラミック噴射装置(滑走を防ぐ装置)、前面幌、整理券発行機および運賃表の撤去を行った。かつて緑の濃淡の帯をまとっていた外観は、南武支線の黄色と青緑の帯に変更された。


3ドア車のE127系。帯の色は南武支線の黄色と青緑に変更された(筆者撮影)

一方、新潟時代に使用されていた、乗客がドアを開閉できるボタンは撤去せず使用可能な状態で残っている。ドアボタンは、南武支線では「基本的に使用することはございません」(JR東日本横浜支社)。しかし、車内の温度維持や台風等の災害時に、乗務員の判断でドアをボタンで開閉する半自動扱いにする可能性はあるという。寒冷地出身の強みが生きることがあるかもしれない。


小田栄駅を発車した南武支線のE127系(筆者撮影)

制御機器に関しては、205系が「界磁添加励磁制御」だったのに対し、E127系はVVVFインバータ制御だ。JR東日本はE127系の導入によって「消費電力を抑制」「環境性能を向上」「故障に強い」という点をニュースリリースなどでアピールしている。実際にどの程度の効果があるのか聞くと、主回路効率および回生ブレーキの回生率が向上するため、205系と比べて約20%の省エネ効果があるという。また、変化する点として省エネ化のほか、加減速制御のスムーズさを挙げた。利用者目線としては、加減速がスムーズになったのは乗っていてもわかりやすいだろう。

3ドア車の乗り降りはスムーズか

E127系0番台が南武支線で運行開始した9月13日、筆者も現地を訪れた。車内は新潟時代と見た目は大きく変わっていないが、2号車(クハE126)のトイレは業務用室に変わっており、一般客が入れないよう封鎖されている。一方、車内照明はLEDに変更され、新たに防犯カメラも設置されている。

実際に乗車してみると、205系が加減速を始めるタイミングで発生していた「ガクッ」という揺れが改善されており、ゆっくりとはいえなめらかに加速した。駅停車時もスムーズな減速を体感した。


E127系運行開始初日、9月13日の浜川崎駅。地元民や通勤利用者に加えて多くの鉄道ファンも見られた(筆者撮影)

E127系には、最近JR東日本が支線向けに導入している新車のE131系にあるような乗降確認用のカメラはないため、ドア操作時はこれまで通りホーム前方のミラー(鏡)で安全確認を行う。


南武支線の顔となったE127系(筆者撮影)

今回のE127系導入で、利用者にとって大きく変わるのは車両のドアが1両当たり4つから3つになることだ。この点については、ドア数を案内する自動放送やE127系運行開始のポスターによって周知を促している。また、各駅のホームでは、足元の乗車位置ステッカーが3ドア用に変更された。しかし、今後も1本だけ残る205系の運行を想定してか、中央の乗車位置にのみ4ドア用の乗車位置ステッカーも設置されている。

運行開始初日は地元の利用者に加えて鉄道ファンも多く、本線との乗換駅である尻手駅や、ショッピング施設が近接する小田栄駅を中心に、日中でも多くの利用者が見られた。しかし、とくに問題はないものの、ドア数が減ったからか乗り降りには若干時間がかかったように思えた。

残った「205系」はどうなる?

今後の動きで気になるのは、1編成のみ残った205系の処遇だ。JR東日本横浜支社によると、この点については「現時点では未定です」との答えだった。しかし、ホームに4ドア車の乗車位置を表示したり、放送でドア数を案内したりしていることを踏まえると、当面の間は205系も引き続き使用される可能性がある。ただし、その機会は今までより少なくなるだろう。

地方の車両が首都圏に転属するということで、意外に思った人も多いであろうE127系0番台の南武支線への導入。しかし、2両編成のワンマン運転など、実は同形式が使われていた新潟エリアの一部路線と運用条件が共通している。それが今回の転用の大きなポイントだ。近隣の鶴見線に導入されるE131系と違って新車ではないものの、南武支線にとっては久しぶりの新顔、E127系にとってはワンマン運転の機能などを生かせる十分な活躍の場になるのではないだろうか。


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(若林 健矢 : フリー鉄道ライター)