企業がPRする際に役立つSNSですが、担当者が意識しなければならないことがあります(写真:jessie/PIXTA)

企業が自社の商品やサービスをPRする時に役立つSNS。しかし、きちんと運営していないと、トラブルやクレームが発生した時にオロオロしがち。担当者は何を学び、何を胸に向き合うべきなのでしょうか。

田村憲孝さんの書籍『小さな会社・お店が知っておきたい SNSの上手な運用ルールとクレーム対応』より一部抜粋・再構成してお届けします。

SNS運営における超重要格言「消すと燃える」

SNSを運用していると、悪気はなかったものの一部のユーザーに不快感を与えてしまい、投稿の内容に関する反論やクレームがコメント欄に書き込まれることがあります。

投稿文や投稿に添付した画像を作成したSNS運用担当者は、それらのコメントを見ると、すぐに投稿を削除して、さらなるクレームが書き込まれたり、投稿そのものが拡散されないように対処したくなります。

では、上記のようなケースで投稿を削除するとどんなことが起こるでしょう。

実際にクレームが2、3件書き込まれたあと、運用者によって投稿が削除されたケースを何度か見ましたが、残念ながらほぼもれなく担当者の想定外の事態になってしまいました。

現在、ほぼすべてのスマートフォンにスクリーンショットと呼ばれる機能が搭載されています。スクリーンショットの機能を使うと画面に表示されているものをそのまま「PNG」ファイルや「JPG」ファイルなどの画像ファイルとしてスマートフォンに保存することができます。

そして一部の悪意のあるユーザーはスクリーンショット機能を使い、企業アカウントから発信された不快な表現を用いた(と自身が判断した)投稿を画像として保存します。当然発信者である企業の SNS担当者は、見知らぬユーザーが自社の投稿を画像として保存していることなど知る由もありません。

悪意のあるユーザーによって投稿を画像化され保存されている状況の中、企業が該当の投稿を削除したとします。するとその直後、画像を保存していたユーザーはここぞとばかりに、「先ほど◯◯(企業名)が削除した投稿はこちらです」と、保存していたスクリーンショットを各SNSに投稿します。

自社アカウントではない悪意のある第三者が、削除済みの投稿を公開することの効果は絶大です。

まず、企業側が“自社の発言を隠蔽しようとした”という印象を他のユーザーに与えることができます。企業のSNS担当者からすると「これ以上不愉快に感じる人が増えるとよくない」と判断し、よかれと思って削除したケースでも、その真意を画像を見た多くのユーザーに伝えることは残念ながら非常に難しいです。

また、第三者が発信したスクリーンショットつきの投稿は、当初発信した企業にはまったくコントロールできない状態となります。企業が隠蔽したというレッテルを貼られた情報が拡散され続けているのを、指をくわえて見ているしかなくなるのです。

SNS運用における痛恨のミスその1:投稿を消してしまう

では、どうしたらよいのか? となると、それはケースバイケースであるとしか言えません。

速やかに謝罪する、追加で情報不足であったことを説明する、騒がせていること自体には謝罪しながらも騒ぎのきっかけとなった最初のコメントは明らかに事実誤認していることを伝えるなど、事象によって適切な対応法は変わります。

SNSの削除という行為の重み

最終的に削除するにしても、状況に適した対応をしたのちに「該当の投稿はのちほど削除いたします」と告知してから削除するようにします。この流れを踏まえることによって、隠蔽の意思がないことをユーザーに伝えることができます。

いかなる場合にも、クレームや悪評を発見しても反射的に要因となる投稿を削除してはいけません。削除せずに正しく対応すれば、当初コメントを書き込んだユーザーにも理解を得られ、収束できたはずのトラブルが、削除によってとんでもない炎上が発生する可能性があります。

まずは基本どおり責任者に報告をして判断を仰いでください。SNSトラブルの対処法として「いきなり削除」は最大の悪手です。

企業やお店でSNS を運用する時には、SNS担当者以外に運用責任者を設置しておくことがおすすめです。実際に筆者がサポートしている企業においても管理者設置の必要性を必ず強く伝えて、該当する方にその任務を担っていただけるようお願いしています。また、SNSは単独ではなく複数人で運用するようにも伝えています。

しかし現実には、特に数名で切り盛りしているような小さな企業やお店では責任者や運用担当者に人員があてられず、ひとりでSNSを運用せざるをえないケースがあります。

それでも、普通に投稿をして、ユーザーのありがたいコメントに対応しているだけなら、それでもなんとかやっていけるでしょう。しかし、トラブルへの対応となると、やはりひとりでその任務を抱え込むのは危険です。

情報をいち早く知ったSNS担当者はどうするべきか

プライベートでのアカウント運用とは異なり、お店や企業のアカウント運用では、一歩間違うと自分の会社に大きな損害を与えることになります。普段はあまり意識していなくても、いざ何かが起こった時には、その責任を意識せざるをえない状況となります。

例えば、あなたがひとりで会社のSNS運用を担当していたとして、このような書き込みを見つけたらどのような気分になるでしょうか。

「男性店員にじろじろ見られて気持ち悪かった」
「購入した食材に異物が混入していた」
「通販で特価で購入した家電製品が1カ月で故障した」
「◯◯(自社名)の役員がSNSの個人アカウントで差別的な発言をしている」
「◯◯(飲食店名)の店員はいつもオーダーを間違える」

いずれも過去に実際に私に相談があったSNS上のクレームです。中には声を震わせながらお電話をいただいたケースもありました。経験の少ない SNS担当者にとって、トラブルへの対応は精神的にも大きなプレッシャーになります。

内容的には、SNS上で謝罪することが必要なものから、全社的に業務体制を見直す必要があるものまでさまざまですが、ここで論じたいのは、「このような情報をいち早く知ったSNS担当者はどうするべきか」です。

SNS運用における痛恨のミスその2:担当者ひとりで判断してしまう

百戦錬磨で熟練のSNS運用担当者なら、ある程度的確な判断をする能力もあり、最も損害が少ない施策を選択して実行できるでしょう。しかしこのような状況でビジネスで SNS を運用した経験が少ない担当者がひとりで方針を判断するのは難易度が高く、精神的にも厳しい状態になることが多いです。

さらには、SNSを動かしている担当者が的確なジャッジができないことは企業にとって危険でもあります。

SNSを運用した経験が少ない担当者であっても、社内の誰かに「こんなトラブルが発生している。どうしよう!?」と相談できる状態にあるだけで、ひとりでプレッシャーに押しつぶされることなく他の従業員のアイデアを参考にすることができます。

理想は運用責任者を設定し、さらに複数のSNS運用担当者がいることです。しかし現実的にベストな体制を整えることができない場合でも、担当者をひとりにせず、誰か相談できる人を社内に確保しておくことは重要です。

担当者自身が従業員の誰かを指名し、指名された人が相談係としてサポートされる場合もありますが、社員同士の力関係などもあり、指名することが困難なケースもあります。可能なら会社の命令として、特定の従業員をサポート役に任命するのがスムーズです。

小手先の対応では根本的な対策にならない

SNSはインターネットを通じて多くのユーザーに情報を発信したりコミュニケーションを図ったりするサービスです。

その前提があるので、SNSで発生したトラブルについてもスマホやPCを用いたオンラインの世界の中だけで解決しようと考える方がいらっしゃいます。

もちろん内容によってはコメントのやり取りなどで解決できる場合もあります。一方で、オンライン以外の解決策が正しい選択肢であるケースもあります。

例えば、以前ある企業から筆者にこのような依頼がありました。

自社の営業スタイルについての悪い評判がSNS上で多く投稿されている。電話がしつこい、購入するまで帰してもらえないなどの内容が定期的に書き込まれる。このような書き込みをさせないようにするにはどうしたらいいのか。SNSでもっとイメージがアップするような投稿をするべきなのか。

念のため、実際にそのような営業行為が行われているのかを確認すると、明確には詳細をお答えいただけなかったものの「昔ながらの体育会系の営業スタイルではある」と、暗に書き込まれた内容が事実であると認められました。

実際に行われている営業行為についての不満が書き込まれており、企業としてはそれらの不満や悪評をSNSから一掃したい。そのためにやることは、企業側がSNS上での悪評を否定することや、不満を書き込んだユーザーに謝罪することではありません。該当のユーザーに謝罪をして削除依頼すると対応してもらえる場合もあるでしょう。しかし、また別のユーザーが同じような不満を持ち、同様の内容で投稿するでしょう。小手先の対応では根本的な対策にならないのです。

SNS運用における痛恨のミスその3:すべてをSNSで解決しようとしてしまう

このような場合の対処法は、現実の世界で原因となっている要素を取り除くことです。上記の例で言うと、「しつこい営業をやめる」ことです。SNSでいくら取り繕っても現実世界で不満を感じる人がいなくなるわけではありません。不満を感じる人がいれば現代社会ではSNSに書き込まれるのです。

逆に営業スタイルを変えたくないのなら、現実に起こっていることをユーザーが書き込む状況は受け入れなければいけません。

その他にも筆者が実際に相談されたケースを一部ご紹介します。これらすべて、現実世界での対応が必要なものです。

「採用試験の面接に訪れた学生が、人事担当者からの暴言混じりの失礼なメールをSNSに公開した」
→解決策 : 相手を問わずメールは社会常識に沿った文面を記載する。

「店員同士が内輪の会話に夢中になり、客の呼びかけにまったく答えなかった。大きな声で呼び続けると店員の一人が面倒くさそうに対応した」
→解決策 : お客様の目につくところでの会話は最小限にする。お客様にとって気持ちのよい対応をする。

SNSはオンラインのツールですが、その根本は口コミです。SNSがなかった時代にはリアルな知人と直接会って交わしていた噂話がネット上に文字として表現されるようになったものです。

あるいは、自分の頭の中だけで考えていたことがテキスト化され、スマートフォンの画面に顕在化し、多くの人が閲覧できるようになったものです。

オフラインもオンラインも同じ

人の口にフタができないことは、今も昔も、オフラインもオンラインも同じです。

自社が発信した投稿にクレームが書き込まれた時や、エゴサーチによって自社に対する不満について記載された投稿を発見した時などには、SNS上の振る舞いに原因があるのか、ネットの外であるリアルな世界に問題があるのか、見極めて対処するようにしてください。

SNSアカウントを開設した当初は、がんばって毎日投稿しても、ほとんど反応がない日が続きます。そこからある程度閲覧してくれるユーザーが増えてくると、他のユーザーが「いいね」をタップしてくれたり、コメントを書き込んでくれるようになってきます。この段階では自社にとって、あるいはSNS担当者にとって、ほぼすべてがありがたくうれしいコメントです。しかし、影響力が大きくなってくると状況が少しずつ変わってきます。うれしいコメントばかりではなく、批判的なコメントが書き込まれるケースが増えてくるのです。

取るに足りない言いがかりや個人的な不満のような内容なら、前述したように特に対応せずとも問題はありません。しかし、中にはSNS担当者にとってどうしても対応したくなるような批判や議論を投げかけられる場合があります。

実際に、こんな例がありました。ある住宅販売を営んでいる企業が、自社で建築した住宅の遮音性能について発信した投稿に書き込まれたコメントです。

「私は長年建築業界にいた者ですが、このような構造はありえないです。ここに書かれているような遮音性能を実現するためには莫大な予算が必要です。とても信じられません」

あなたがこの企業のSNS担当者だったとしたら、反論したくなるのではないでしょうか。この住宅販売会社では、コストの見直しや従来の工法の改善を重ね、エンドユーザーに提供できる遮音性の高い製品を開発していました。それにもかかわらず、根拠なくその努力を否定されるようなコメントが書き込まれたのです。

運用しているSNSの影響が大きくなっている証拠

また、食品会社のXアカウントでこんなコメントが書き込まれた例もありました。

「商品を食べようとしたら虫が出てきた。もうこの会社の商品は二度と買わない!」(実際に虫が映っている画像を添付)

この例は少し説明が必要です。商品から虫が出てきたのは事実であったようですが、企業の担当者はなぜそのような事態が発生したのかを改めて調査してみました。

すると、常温で商品出荷後1年以上経過している場合に、被写体として映っていた虫と同類のものが発生するケースがあることが判明しました。つまり、保存状態が決してよいとは言えず、さらに賞味期限をはるかに超過した商品で発生した現象だったのです。

この2つの例を読んでどうお感じになったでしょう。あなたも自社の正当性を証明するために反論コメントを返信したくなるのではないでしようか。

SNS運用における痛恨のミスその4:SNS上で議論(反論)をしてしまう

筆者もオンラインでのコミュニケーションの経験がなければ、上記のようなコメントが書き込まれればすぐに反論したくなったでしょう。しかし、10年以上前に私自身がオンラインで情報の発信をはじめた頃、筆者自身を攻撃するような誹謗中傷コメントに悩まされた際に、経験豊かな周囲の発信者たちにこのようなアドバイスを受けました。

「批判があるということは注目されている証拠。耳当たりのいいコメントしか書き込まれない段階は、自分のことを評価してくれている人だけにしか見てもらっていない状態。批判があって初めて自分が想定している範囲以上に、自分の発言が到達している証拠である。まずはそのことを喜ぶべきである」

考えてみるとそのとおりです。あなたのまわりにもSNSでわざわざ揚げ足を取ってあなたを陥れようとしたり、古い知識でマウントを取ってくるような人はそんなに多くはいないはずです。しかし、日常接することがないような言動をする人にまであなたが発信した情報が届いているということは、あなたが運用している SNSアカウントの影響力が想定以上に大きくなっているということそのものなのです。

批判的なコメントが書き込まれると大きく感情が揺れますが、まずは「自分が運用しているアカウントはそこまで影響力が大きくなっているのだ」と喜びましょう。そして対応策を冷静に考えましょう。

直接返信は火に油を注ぐだけ

では、この節であげた2つの事例については、どのような対応をするとよいのでしょうか。

相手がいることですので100点満点の対応はありませんが、いずれも非常にうまく対応されて大きな問題になることなく収束させることができました。

ポイントは、書き込まれたコメントに直接返信せず、新たな投稿で事実を淡々と説明することでした。


1つ目の例では、新たに別の投稿で、自社で開発した優れた遮音性能を用いた建材の開発秘話を、開発担当者の声を織り交ぜながら紹介しました。

2つ目の例では該当する食品から虫が発生する条件についての詳細を、第三者が発信している研究記事を紹介しながらフォロワーに説明しました。

同じ内容でも書き込まれたコメントに直接返信すると、相手が逆上して論点をすり替えて不毛な議論が継続することにもなりかねません。議論がはじまってしまうと、自社の伝えている内容が正しかったとしても収拾がつかなくなることもあります。

イラっとしても、議論ではなく説明を。発端となったコメントに直接返信するのではなく、新たに投稿し、自社の正当性を理解してくれるフォロワーに丁寧に伝えることを心がけてください。

(田村 憲孝 : ウェブタイガー代表取締役、一般社団法人ウェブ解析士協会「SNSマネージャー養成講座」運営代表)