画廊と美術館での学芸員経験を持ち、現在は美術エッセイストとして活躍中の小笠原洋子さんは、高齢者向けの3DK団地でひとり暮らしをしています。持たない暮らしをしている小笠原さんに、あえて飾ってるものなどを教えてもらいました。

73歳、持たない暮らしのなかでこだわりの「装飾」

年金生活者の暮らしむきは、それなりに質素ですが、私はかねてより、住まいは簡素でありたいと思ってきました。立派な家具などはありません。

【写真】ひとり暮らしを楽しむ「照明」アイデア

居間にある棚は、半世紀も前、狭い学生寮で使用許可された細縦長の本箱です。処分しようとしたとき、これを横倒ししてみると長椅子のようでおもしろい。低いので部屋も広く見えます。またその両脇に、戸棚と別の本箱を置くと、奇しくも一壁にピタリと治まったのです。どうして見栄えする部屋になったではないかと、勝手に納得しています。

左に置いた戸棚は兄の遺品で、中身もほとんど兄が遺したガラスの小品です。ガラス器が好きな私は捨てがたく、昔買った自分の器と共に並べています。ほかにも、いつかどなたかに譲りたい器物が家内にあり、画廊に勤めていた45年ほど前から趣味だったディスプレイを、ひとり暮らしの家で楽しんでいます。

右側にある本箱には、独学用の資料が入っているだけです。書籍は買わないだけのことなのですが、際限なく増える蔵書に、かつては手を焼いてきたからでもあります。引っ越しが多かったため、本の出し入れにはそのたび手指を傷めました。現在の資料用本箱は、中身より入れ方にこだわります。不自然なほど整頓するでもなく、雑然ともしていない、それが心地よい入れ方です。

●すっきりした家の中で「あえて」飾っているもの

次に「ワタシギャラリー」の壁をご紹介します。「方丈の庵好み」の私にとって、団地企画の3DKは広すぎます。無用の一室を物置にしてしまわないよう、ギャラリー化しました。

といっても、高価なものはなく、むしろ珍奇な品々が展示してあります。ギャラリーとは、非日常的空間、あるいは別世界的な場だと思っています。「ワタシギャラリー」に中近東のアイテムが多いのは、現代日本の装飾文化の中で、イスラム系に最も異国情緒を私が感じているからです。

お気に入りの一点は、ブレスレットとイヤリングを組み合わせた壁飾りです。これらは装身具として買ったというより、若い頃に美術品として手に入れたものです。

イヤリングのもう片方は、居間の照明具に取りつけました。この提灯型シェードはもう5代目で、まだ10代の頃から求め続けた照明具です。日本の家屋は、明治時代以降徐々に洋式化されてきましたが、結局日本的洋風ですので、いっそ、洋風と和風を個別に印象付ける室来(しつらい)があってもいいかなと思ったのです。

そこで私は、規格間取りに徹する団地に、あえて緩(ユル)キャラである和風のインテリアを取り入れようとしたのです。

窓にかけた紙のブラインドもその1つです。

竹細工の小物も、アクセントにもなる道具として使っています。

●実用性を考えてマット類は使わない

ところで、多くのお宅で使っていても、わが家で使わないものはたくさんありますが、そのひとつは敷物類です。玄関マット、炊事場マット、トイレマット、もちろん室内カーペットもなくフローリングむき出しです。買えないからではありますが、汚れやすいのでよく洗濯する必要があるにもかかわらず、その洗濯が負担になるからです。

それよりは、汚れたらその場をすぐふくことに徹しています。さすがに風呂上がりの足ふきだけはありますが、バスマットを買ったことはなく、110円のフェイスタオルを使います。乾きが早く、すぐれものです。ご家族数にもよりますが、おひとりさまはお試しください。洗濯もラクです。

そういえば私は、厚手・大判のバスタオルも持っておらず、フェイスタオル2枚を使いまわしています。初めてバスタオル使用をやめたときは、半切して足ふきにしたこともありました。買って増やさず、今あるもので補うのも一興かもしれません。