個人主義の国であるフランスは、嫁姑問題は発生しない? フランス生活文化研究・翻訳者のペレ信子さんが教えてくれました。

自由を愛する国、フランス。嫁姑関係もさっぱりしたもの?

フランスでの私たちの結婚式に出席してくれた日本人の友人に言われた言葉「フランスのお姑さんって友達みたいでいいね」。
若かった当時の私は嫁姑関係の経験もなく「フランスって年功序列的な考え方がなくてラクだな」と思っていたので、友達の言葉にうなずいたのを覚えています。それから数十年経ち、私なりにいろいろ学びました。今回は、フランスの嫁姑関係について紹介します。

●フランス人も嫁姑関係には注意をしていた

姑と知り合ったとき、私はまだフランス留学中の学生でした。お義母さんにとっては子どもに見えたのでしょう、知り合ってしばらくして「tuで呼びますよ」と言われました。「tu」とは親しい友達や家族に言う「きみ」です(ちなみに敬語の「あなた」は「vous」です)。「vous」を使うと敬語で話さなければならないため、私は「tuなら友達口調で楽だな」と安易に考えました。
実際に友達口調で話してみると、敬語で話しているときよりも距離が近い気がするのは日本語と同じです。ただ私の誤算は、距離が近いとよいことばかりではなく、相手のやることに口出しするハードルも下がるということでした。子育ての仕方に口を出されてグチを言ったとき、フランス人の友達が言いました。
「あなたお義母さんとtuで話しているの! それは間違いよ」
だれにでもフランクに話しかけているように見えるフランス人も嫁姑関係には注意をし、何年経っても「vous」で通して距離を保っているそうなのです。

●お姑さんをファーストネームで呼ぶ

私の世代では、お姑さんを「お義母さん」と呼ぶのが一般的です。フランスではお義母さんを呼ぶときは「カトリーヌ」「ブリジット」のようにファーストネームを使います。これは相手と友達口調で話していても、敬語を使う間柄でも同じ。「お義母さん+敬語」の日本と「ファーストネーム+敬語」のフランス。「カトリーヌ、買い物に行きましょうか?」みたいに使います。
うちの夫はそのような文化で育ったため、私の母をファーストネームで呼んでいます。でも「日本では義父母さんには敬語を使った方がいいよ」と忠告をしたので、ファーストネームに「さん」をつけることで異文化ギャップに折り合いをつけたようです。母は義理の息子から「さん」づけであってもファーストネームで呼ばれるのになかなか慣れなかったようですが。

●実の娘のような嫁と実の母のような姑、と言う理想。マザコンの夫と姑は?

フランスの女友達と話していると、もちろん嫁姑の話も出てきます。嫁姑話を聞くときはたいがい、「なんて大変そうなお義母さん」「私のお義母さんの方が楽だな」などと思うような話です。なかには息子しかいないお姑さんがお嫁さんと気が合って、実の娘のように思っていると言うケースも聞いたことがありますが、少数派。うまくいっているところはあえて嫁姑問題を話題にしないし、ストレス発散のときは多少大袈裟に話すのでそうなっているのかもしれません。
ただフランスの嫁姑関係で聞いたことがないのは、夫のマザーコンプレックスなどによる嫁姑の敵対関係。お義母さんには愛するお義父さん(もしくはパートナー)がいるので、子ども夫婦が仲よくしていることはとても喜んでくれます。

●フランクに見えて絶妙に距離を取っているフランス流の嫁姑

日本もフランスも、家族になれば親として口出ししたくなるものなのでしょう。でもカップルという単位がいちばん尊重されるところが、フランス流・嫁姑関係を少し気楽なものにしているのかもしれません。