アスレチックス・藤浪晋太郎【写真:ロイター】

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ダラス・ブレイデン氏は2010年にMLB19人目の完全試合を達成

 アスレチックスの藤浪晋太郎投手がシアトルでのマリナーズ戦で2回を2四死球2安打で3失点と崩れた翌日の23日(日本時間24日)、ア軍のテレビ中継で実況を務めるダラス・ブレイデン氏が、制球に課題を抱える右腕を独自の視点で分析。現状打破へのポイントを示した。【シアトル(米ワシントン州)=木崎英夫】

 ブレイデン氏は、アスレチックスで現役を引退する前年の2010年に、メジャー史上19人目の完全試合を達成した左腕。昨年からチームに帯同し、テレビ中継の実況を担当している。4月下旬から中継ぎに配置転換となり、最近の登板ではイニングをまたいだマウンドで突如として制球難に陥る藤浪は彼の目にどう映っているのだろうか――。

「まず先に言っておきたいのが、慣れない生活環境が不安とストレスを与えているのは間違いないでしょう。で、ここのところ制球難が顔をのぞかせる投球が続いていますが、ブルペンから出た直後の回を抑えてダグアウトに戻ると、全開したアドレナリンは急降下します。そこからまったく同じ気持ちで次の回を迎えるのは難しい部分ですよ」

 22日(同23日)の登板で、バトンを受けた7回を3者凡退に打ち取りながらも、8回1死から突如制球を乱し2四死球2打で3点を献上した藤浪に、ブレイデン氏は自身の経験を重ね、こう続けた。

「僕は07年にメジャー昇格を果たしましたが、制球も投球の組み立て方もダメでした。たったの2試合でマイナーに落とされました。降格後はストライクを先行させる術を実戦で学びました。メジャーに再昇格すると中継ぎに配置されそこから先発へと上がったのですが、序盤に三振を5個奪っても5回に到達できない投手だったんです」

先輩右腕から授かった金言…制球を磨き快挙を達成

 ここで言葉を切ると、当時のチームメートで毎年2桁勝利を挙げていた好投手ダン・ヘイレンとの秘話を披露した。

「新人時代のある日のことでした。練習前にダンに呼ばれ椅子に座るとこう言われたんです。『5回以上投げたいのなら効率的な投球をしないとなぁ』。この言葉に僕は目を見開かされました。145キロにも満たない速球でねじ伏せようなんて土台無理だったんです。チェンジアップとスライダーを配し、ストライクゾーンの中で打者が打ち損じる確率の高いところを徹底的に狙う投球を重ねました」

 ヘイレンはその年、カットボールで凡打の山を築きリーグ最多の34試合登板と28試合のクオリティ・スタート(6回以上自責3点以下)を記録している。先輩右腕の投球を参考にしたブレイデン氏は、金言を贈られた3年後に亡き母の親代わりとなった祖母がスタンドで見守る中、完全試合を達成した。

 藤浪は自滅した22日の登板後、ストライクゾーンを「4分割するコントロールはない」と吐露。攻め方の緻密さにおいてブレイデン氏とは開きがある。そこはどう見ているのか。

「同じ感情を保ちながら自信を持って攻め続ければいい」

 ブレイデン氏の説明は手堅かった――。

「フジはゾーンを2分割すると言ったようですが、僕はそれでいいと思いますね。なぜなら、彼には160キロ近い速球といい軌道を描くスプリットがありますから。僕が打ち損じを誘う投球を磨いたのは球速も球威もなければスッポリと落ちる球もなかったから。フジはマウンドに上がったら同じ感情を保ちながら自信を持って2分割ゾーンで攻め続ければいい。それが“自分の投球”に仕上がっていきますよ、きっとね」

 走者がいない時の被打率は.211。走者を置いたときの被打率は.373。意図せざる結果が続く中継ぎの藤浪に「同じ感情の維持」は現状打破への大切なポイントの一つになる。

 放送開始前の貴重な時間を割いてくれたブレイデン氏の藤浪分析は熱を帯びていた。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)