「過去問で傾向をつかんでからテキストに取りかかるべき」と語る鈴木秀明氏(撮影:尾形文繁)

Chat GPTなどいわゆる生成AI(人工知能)が世間を賑わせている。AIは過去にも何度かブームがあり、2015年に実施された英オックスフォード大学と野村総合研究所の共同研究では、将来「日本の労働人口の49%がAIやロボットで代替可能」と警告された。その中では”士業”と呼ばれる専門家の仕事さえ例外でなかった。

いわゆる国家資格とされる○○士を目指す人は今も多い。本業での昇進・昇給や希望部署への異動を目指したり、あるいは転職や独立・開業などセカンドキャリアを考えたりして、毎日勉強している人は少なくないはずだ。もちろん仕事だけでなく、民間の検定なども含め、純粋に趣味や生きがいとして楽しみたい人も多いだろう。

4月24日(月)発売の週刊東洋経済4月29日-5月6日合併特大号では、「食える資格と検定&副業100」を特集。現在881の資格を持ち、資格・勉強法アドバイザーで、オールアバウト「資格」ガイドでもある鈴木秀明氏に、資格を取り巻く環境や実際の学習法などについて聞いた。

「資格で一発逆転」という時代はもう終わった


━━881個の資格をお持ちですが、現状では国内最多とみられます。資格を取る効果についてはどうみていますか。

「資格を取って一発逆転」という時代はとっくに終わっています。

資格を取ってまったく違う業界に転身しようとするよりも、今まで自分が培ってきたキャリアに何をプラスすればより価値が出せるのか、より充実した人生を送るために何を学ぶべきかという観点から、挑戦する資格を選ぶべきですね。私は取得した881の資格を個々に生かすというよりは、「資格を日本一持っている」ことを価値として仕事につなげています。

資格や検定というのは、いつどこでどのように役に立つかわからない。仕事や収入につながるというばかりではなく、より人生を楽しむための生きがいを見いだすきっかけになったりもします。

私は挑戦する資格を選ぶ際、今までの人生で触れたことのない分野の資格にこそ積極的に挑戦するようにしています。そこで得た知識が役立つ場面が、今後の人生のいつどこで出てくるだろうとワクワクする感じこそ、1つの醍醐味。合格者のコミュニティーに参加することでより深く学びを得られる資格・検定もあります。

━━資格取得を目指す人はたくさんいますが、その分、途中であきらめる人も少なくないと思われます。挫折してしまう人にはどんな特徴があると思いますか。

効率的な勉強法としては、最初に過去問で出題傾向を分析してから、この試験はこういう勉強をすれば受かるなというのを見極めて、やるべきことを絞り込み、取捨選択をする。ここは重点的にやったほうがいいが、ここはあまりやらなくてもよさそうというように。最初の段階では問題を解こうとする必要はまったくないので、まずは傾向や全体像をしっかりつかむことです。

逆にいうと、いわゆるテキスト、教科書的な参考書をまず一通り理解しようとすることから始めるのは非効率であり、挫折するもとです。なぜかといえば、教科書は試験に出る可能性が低い内容も含めて膨大な範囲を収録しているため、「この内容を全部覚えないといけないのか」とネガティブになってしまうからです。なので読み切る前に途中で挫折してしまう。それよりは問題集をベースにして勉強し、テキストはわからない箇所を補足する教材として補助的に使うほうがいいでしょう。

例えば、社会保険労務士の試験勉強では、細かい数字が大量に書かれた年金や健康保険などの表がいくつも出てきます。これを全て覚えるのは無理だ…となって挫折したり、勉強が嫌になってしまったりする人がいるのですが、そもそもテキストを100%完璧に理解・暗記することなど無理です。それより、まず過去問で出題傾向をつかみ、しっかりやるべきところと少し手を抜けそうなところを見極めてから勉強に取り組んだほうが、挫折や非効率な勉強をしてしまうリスクは大きく減らせるはずです。

国家資格になったばかりの資格は狙い目


鈴木秀明(すずき・ひであき)/資格・勉強法アドバイザー、オールアバウト「資格」ガイド。 米国公認会計士、気象予報士、中小企業診断士など、881個の資格取得。著書に『7日間勉強法』(ダイヤモンド社)など。オフィシャルサイトはシカクロード。ツイッターは@suzuki_hideaki(撮影:尾形文繁)

━━資格や検定は数千あるといわれますが、881個取得した立場から、これから将来有望な資格といったら、何が挙げられますか。

もともと民間資格だったものが最近国家資格に格上げされた、愛玩動物看護師賃貸不動産経営管理士などは狙い目でしょう。国家資格化されるということは、その分野の産業や人材育成を国が強化したいと思っているからであって、有望な仕事になることは間違いないです。国家試験になると人気が出て年々競争が激しくなる傾向があるので、できるだけ早めに資格取得を狙うのが得策でしょう。

また資格や検定は取るだけでなく作ることもできます。自社商品の普及のため、企業が独自に作ることも増えてきました。

資格・検定を立ち上げると、企業にとっては、受験料収入やプロモーション、人材育成といった幅広いメリットがあります。実際に明治がチョコレート検定を実施したり、日清製粉やブルドックソースがお好み焼き検定に参画したりしています。従来は検定というと堅いイメージがありましたが、2006年に「ご当地検定」が全国的にブームになった頃から、「こんな趣味系のテーマの検定もありえるんだ」「検定って一般の組織や団体が自由に作っちゃっていいんだ」と気付く人が徐々に出てきたようです。

さらに資格・検定の立ち上げは企業や自治体などだけではなく、個人レベルでも協会やNPO(非営利団体)を立ち上げて検定を作ってしまう人もいます。例えばタピオカ好きの女性がタピオカ検定を作った例もある。

今はどんなテーマでも資格・検定になってしまうので、「○○検定」でネット検索すればだいたい何かしらの検定が引っかかる時代ですが、もし自分が興味ある分野に取りたい資格・検定が見つからなかったら、いっそ自分で資格を作ってしまうのも手です。自分が作れば、その分野の第一人者になれて、好きなことをライフワークにできる可能性もあります。単に既存の資格を取るよりも発展性を見込めるのが資格の世界なんです。


(加藤 光彦 : ライター)