マーリンズ戦に先発したツインズ・前田健太【写真:ロイター】

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初回は14球中11球がスプリットとスライダー「僕は変化球ピッチャー」

■マーリンズ 1ー0 ツインズ(日本時間5日・マイアミ)

 ツインズの前田健太投手が4日(日本時間5日)、敵地マイアミのローンデポ・パークで右肘の靭帯修復手術から約1年7か月ぶりの復帰登板を果たした。マーリンズ戦に先発し、5回0/3を投げて、3安打1失点9奪三振無四球の好投を見せた。チームは0-1で敗れ復帰戦を白星で飾れなかったが、完全復活を印象付ける79球を投じた。【マイアミ(米フロリダ州)=木崎英夫】

「彼は自分を知っている」――。前日3日(同4日)、ツインズのピート・マキ投手コーチが残した、かくも短い前田評が591日ぶりのマウンドに立った右腕を照らし出す。

 2021年9月に右肘の靭帯再建手術を受け、同年8月21日以来となるメジャーの公式戦で、前田はブランクを感じさせない精妙な投球術を披露した。

 初回の立ち上がりを3者凡退で終える。14球中11球がスプリットとスライダー。2回は5番ガルシアに甘く入るスライダーを捉えられ左翼へのソロ本塁打を許したが、最少失点で切り抜けた。この回投じた22球中速球は6球。右打者が7人並ぶマ軍打線にいやというほど見せつけた横曲がりの大きいスイーパーと小さく曲がるスライダーにチェンジアップ、122キロのカーブも織り交ぜて、序盤は手を替え品を替える配球に徹した。これが中盤への布石を敷く。

「どっちかっていうと僕は変化球ピッチャー。球が速い投手は多分ストレートを頭に入れながら変化球で空振りを取るっていうのが多いと思いますが、僕の場合は逆。バッターの頭に変化球がある中でストレートで差し込んだり、バッターの頭にストレートがないところでストレートで空振りを取るのが大事になってくる。使いどころというか、投げるコースとかいろいろ大事な部分がたくさんあると思います」

 中盤からは、ボールゾーンとの境目あたりの高さに直球を投げ込み打者を翻弄。5回はまさに相手を術中にはめ3者連続で空振り三振を奪った。

 ただ、久しぶりのマウンドで前田を覚醒させたのはマスクを被ったクリスチャン・バスケス捕手だった。

「バスケスのサイン通りにしっかり投げられた。きょうはもう本当に一生懸命全球を投げたっていう登板だった。どっかでちょっと抜いたりとかは正直、最初の登板でそこまで余裕がなかった。全部気持ちを入れて投げちゃったんで、最後に疲れがきましたけど。三振をたくさん取れたことは僕の中ですごく自信になるところです」

リハビリ生活は「いろんな人にサポートしてもらった」

 序盤から一転、高めの直球とシンカーを効果的に配したバスケスは最速148キロの速球を黒いミットの芯で収め乾いた音を立て前田の士気を高めた。打者のタイミングをもっとも効率よく狂わせるリードをした相棒は「これからチームの勝利に大貢献してくれると受けていて感じた」と今後に期待を寄せた。

 ドジャースからツインズに移籍した2020年の9月終わりだった。

 前田は「先発投手にとって200勝は難しい数字になっている時代だからこそ達成したい」と野球人生の大きな目標を「名球会入り」と公言している。この日の黒星でメジャー通算60勝目はならず、日米通算156勝のまま。35歳の誕生日までちょうど1週間。1年半のブランクで道は険しくなるが、孤独なリハビリを乗り越えてカムバックしたことでこの目標へのサバイバルが始まる。

「この1年半、リハビリに時間を費やしてきたので、家族やリハビリを担当してくれたチームそして外部のトレーナーなど、いろんな人にサポートしてもらいながら、きょうのマウンドに戻って来ることができた。僕一人の力ではここには戻って来ることはできなかった。今後もその気持ちを忘れずに結果でしっかりと恩返しできるように頑張っていきたいなと思います」

 会見を終えた前田は、通路の向こう側で見守っていた早穂夫人と2人の子どもに歩み寄った。復帰への強靭な意思を支え続けた家族がひとつになった。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)