片づけたいのに片づけられない。何度挑戦しても挫折してしまう。そんなお悩みをもつ人は少なくありません。今回は、片づけが苦手になりがちな「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」を公表している整理収納アドバイザー・西原三葉さんに、ADHD当事者や片づけが苦手な人が片づけをするときの工夫ついてお話を伺いました。

片づけが苦手な人でも取り組める6つの工夫

自身もADHDの当事者で、産業カウンセラー、整理収納アドバイザーの資格を持つ西原さん。

【写真】ランドセルは置き場所を決めてテープで指定する

整理整頓が苦手で片づけられず長年苦しんできた経験を持ち、片づけられないことに罪悪感を感じてしまいがちなADHD当事者の心に寄り添う片づけ講座が人気を博しています。

※ADHDとは、Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder(注意欠如・多動性障害)の略です。先天性の発達障害の一つで不注意、多動性、衝動性、という特徴を持つと言われています。

 

●ADHD当事者の悩みと脳のクセ

 

「短期記憶が弱く気が散りやすく、順序立てて考えることが苦手。そして苦手なことをつい先延ばしにしてしまいがち」という脳のクセを持つADHD。いくら片づけようと思っても、うまくいかず、自分を責め苦しんでいる方も。

 

今回は、ADHDの特性に合わせた工夫を取り入れた片づけのテクニックについて伺いました。

 

●1:一気にやろうとせず、少しずつ進める

「注意力が長続きしないADHD当事者にとっては、“ハードルを上げすぎない”ことも大切です」と西原さん。
片づけの基本の「全部出してから仕分けする」」といわれていますが、いきなり広範囲に挑戦すると情報量が多すぎて混乱する可能性も。

「一気に処理しようとせず、“キッチンの引き出し上のみ”など範囲を決めてトライ。それでもADHDの方は気がそれて、ほかのことを始めてしまいがち。そんなときは1分ごとに音で知らせてくれる音声タイマーを使用すると気がそれても片づけに戻れ、集中しやすくなります。無理をせず成功体験を積み重ね、自己肯定感を上げてゆきます」

 

●2:無理に捨てなくてもいい、まずは「仲間分け」をする

捨てることがつらくて片づけ自体が進まなくなってしまう。そんなとき、まずやるべきことは片づけの基本である「仲間分け」です。似たようなものをまとめ、ものの総量を把握するとものが手放しやすくなります。

たとえばキッチンの引き出しの中など狭い範囲のものを「全部出し」仲間分けすると、「なぜか4つもあるしゃもじ」「5つある栓抜き」など、似たようなものがいくつもあることに気づき、ものを減らしやすくなります。

それでも捨てたくない場合は、無理に捨てなくて大丈夫。ものを使用頻度でわけ、捨てられないけど使わないものは箱に詰め、使うものと使わないものをわけるだけでも生活はしやすくなります。

 

●3:可視化できる収納をつくる

「ADHDは見えないものを認識しにくい傾向があるので、可視化することが重要です。中身が見える透明な収納を使ったり、思いきって押し入れや収納の扉を取るといった方法も」と西原さん。
短期記憶が弱いADHDの方は、定位置を決めてもすぐに忘れ戻せなくなりがちなので、ラベリングで可視化することも重要。ラベルがあるとものが戻しやすくなり、探すときの混乱も少なくなります。

●4:ものが溜まる場所は定位置に適している

片づけが苦手な方は、ものの定位置を決めようとしても、適切な場所がわからず、そこで片づけが止まってしまうことも。そんなときはものが溜まる場所の近くに収納をつくることで、片づけのストレスが少なくなります。

ついものを置いてしまう場所は、自分の動作動線に合った便利な収納場所。でもものが雑然と積まれていると部屋は散らかって見えるし、なにがあるのかわかりにくくなるので、溜まる場所に近くに、とりあえずはダンボールや紙袋などを使用して収納をつくるだけでも「床にものが散乱する」状況は改善されます。

 

「ADHDは面倒なことは続かないという特徴もあるので、なるべくアクションの数を減らして“投げ込むだけ”や“つるすだけ”という状態に持ち込むことで、続けやすくなります」

ADHD当事者には紙袋などを溜め込むクセのある人もいるかと思われますが、紙袋を利用する手も。厚めの紙袋を内側に織り込むことで、“投げ込みボックス”をつくることができます。

紙袋収納を実際につくってみたところ、持ち手の部分を内側に織り込むだけで簡単にボックスが完成。
軽く柔らかいためソファーに気軽に設置でき、子どもが散らかしたお絵かきの紙や新聞をとりあえず投げ込むことで座るスペースを確保。
古びたら気軽に捨てられるうえに、紙袋ストックも減って一石二鳥です。

 

●5:なくしものを減らすために重要ボックスをつくる

ADHDの方は大切なものをなくし、生活上のトラブルも発生しやすくなります。ものをしまうことが面倒で、重要書類もついテーブルの上などに置いてしまいがち。
ですが「重要ボックス」をつくり、大切なものは絶対そこへ入れるトレーニングをすることで、トラブルを軽減することができます。

「書類の整理も、ADHD当事者が最も苦手とされる雑事のひとつ。きれいに分別できれば理想的ですが、整理整頓が苦手なADHD当事者には難易度が高め」と西原さん。

重要ボックスをつくるだけでも、書類をなくす頻度は激減。きれいにファイリングするなどいきなり完璧を求めず、できることから始めてみましょう。

●6:目の前にご褒美を用意して「とにかく動く」

「ADHD当事者は酬系機能が弱く、遠い将来の成果・報酬よりも“今この時”の感情を優先してしまいがちと言われています」と西原さん。

そこで、目の前に人参をぶらさげて動きやすくなる効果を狙って、自分にご褒美を与えるテクも。“SNSやチャットアプリなどを駆使して他者に励ましてもらう”など、すぐにもらえる報酬を自己設定するという手も。

「すべての作業を熟考してから動こうとすると面倒に感じて先延ばしにしてしまうので、『とにかく動く!』と言葉に出して立ち上がることでスイッチが入ります」と教えてくれました。

声で知らせてくれるタイマー「こえタイマー」(iPhone)や、三日坊主を防止する習慣化アプリ「みんチャレ」(iPhone、Android)など、スマホアプリの活用もおすすめなのだとか。

 

●魔法のテクニックはないからこそ地道に工夫

「ADHD当事者が一気に片づけられるようになって絶対リバウンドしない『魔法のテクニック』はありません」と明言する西原さん。
当事者としてそれを誰よりも理解した上で、よりラクに片づけてなるべく長く続けられる工夫を紹介していただきました。

片づけを前に重い腰が上がらないという方には、思いきって周りからサポートを受けるという方法も。
「自分の気持ちにスイッチの入ったことには過度に集中してしまう」という特性を持つADHDなだけに、一度プロに頼って片づけに興味を持つことで、片づけのルーティン化も期待できそうです。