川崎フロンターレのあまりの強さに、敵将も脱帽するしかなかった。

「まずはフロンターレに、おめでとうと言いたい。フロンターレの勝利に値する試合だった」

 J1第29節。前節終了時点で首位に立ったサンフレッチェ広島が敵地に乗り込み、同3位の川崎と対戦した試合は、川崎が4−0で勝利を収めた。

 首位攻防戦として注目を集めた一戦も、終わってみれば川崎の圧勝だった。

 広島を率いるミヒャエル・スキッベ監督は試合後、まず冒頭の言葉で相手を称えると、こう続けている。

「最初の25〜30分くらいしか自分たちの攻撃的なサッカーができなかった。前半の残り15分は、ゴールも含めてフロンターレのすばらしい攻撃に翻弄された。後半も同じような展開になり、追いつくことができなかった」

 スキッベ監督が言うように、立ち上がりは広島の積極果敢なプレスが目を引いた。低い位置から攻撃を組み立てたい川崎にとっては、厄介な展開だったはずである。

 ところが、川崎の選手たちはハイプレスにもまったく慌てる様子を見せなかった。

「自分たちらしい強気に攻め倒すサッカーがしたかった。怖がらずにボールを持つところは自信を持ってできた」

 川崎のキャプテン、DF谷口彰悟がそう振り返ったように、試合序盤こそプレスをかわすのに精一杯というパス回しも見られたが、次第に敵陣へボールを運ぶ回数を増やしていった。

 川崎の鬼木達監督が「(前節まで5連勝で)一番ノッてるチーム」と評した広島も、最大の武器であるハイプレスをかいくぐられたとあっては、この時点で勝負は決していたのかもしれない。

 前半もなかばを過ぎると、川崎が完全に押し込む時間が長くなり、広島はただただゴール前で耐えるしかなくなっていった。

 はたして前半34分、川崎が鮮やかなパスワークで左サイドを破り、最後はFW家長昭博が決めて先制。その後の展開は、スキッベ監督の言葉どおりだ。

 川崎は後半、選手交代で流れを変えようと試みる広島に反撃を許さなかったばかりか、3点を加えて圧勝した。


サンフレッチェ広島のハイプレスをかわして4−0と圧勝した川崎フロンターレ

 鬼木監督が満足そうに語る。

「相手のアグレッシブな前からのプレスがあったが、アグレッシブであればあるほど、空くスペースがある。そこへ、人が走っていくこと。そこへ、ボールを落とすこと。そういうことを意識しながらやった」

 川崎は前節、湘南ベルマーレに1−2の逆転負けを喫していた。残留争いに苦しむ湘南を相手に、先制しながら勝ち点1さえとれなかった試合は痛恨だったに違いない。

 しかし、そこからの1週間を振り返り、「自分たちのサッカーは何か、を突き詰めていく時間になった」と鬼木監督。「しっかり全員がボールを動かす意思があった。頭が研ぎ澄まされた状態でプレーできた」と、嫌な流れを引きずらなかった選手たちを称えた。

 会心の勝利を飾った川崎は、これで2位浮上。広島と入れ替わって首位に立った横浜F・マリノスとは勝ち点3差のまま、残り7試合に逆転優勝をかけることになる。

 3連覇がかかる川崎は今季、コロナ禍にも見舞われ、苦しいシーズンを過ごしてきた。

 J1ではおよそ4年ぶりの連敗を喫するなど、一時は6位まで順位を落としたばかりか、AFCチャンピオンズリーグではグループリーグ敗退。天皇杯とルヴァンカップでも早々に敗退し、リーグ戦を除くタイトル獲得の可能性はすべて消滅している。

 だが、王者の意地とでも言うべきか、よろめきながらも倒れず、ファイティングポーズをとり続け、J1ではどうにか優勝戦線に踏みとどまってきた。

 谷口が語る。

「3連覇が簡単なものじゃないのはわかっているが、(現在2位で)つかめそうな位置にいる。みすみす逃すことはない」

 川崎に完敗を喫して3位に後退した広島は、首位の横浜FMとは勝ち点5差、2位の川崎とは同2差だが、上位2クラブよりも試合消化が早く、残り試合数は2試合少ない。見た目の勝ち点差以上に状況は厳しく、優勝争いの行方は事実上、"2強"に絞られたと見ていいだろう。

 スキッベ監督も「一番大事なのは、今日の相手が本当にすばらしいプレーを見せたということ。それに対して、我々はリスペクトしなくてはいけない」と語り、こんなことを話している。

「今日の試合と似たような敗戦をF・マリノスとのアウェーゲーム(J1第20節、0−3)でもしている。この2チームに関して言うと、現状では自分たちより力が上だと思っている」

 粘る川崎が横浜FMを逃さず追走する一方で、3位以下は徐々に後退。今季J1の優勝争いは、いよいよマッチレースの様相を呈してきた。