キャラクター性の強い部員たちが歴史を変えられるか。京大野球部が狙う優勝へプロ注目の逸材もついにフル参戦
進撃の京大野球部〜秀才軍団に何が起きたのか(後編)
前編:京大野球部が春のリーグ戦で快進撃。秀才軍団に何が起きたのか>>
中編:京大野球部が史上最多タイのリーグ戦5勝、ベストナイン3人>>
8月15日、16日と京都大は秋季リーグ戦に向けて関東遠征を戦っていた。
15日の東京大戦は「双青戦」と銘打たれた定期戦で、7対2で勝利。翌日は慶應義塾大戦とのオープン戦に4対1で勝利した。東京六大学リーグの名門相手に連勝を飾り、実力がフロックではないことを見せつけた。
プロ志望届を提出した京大医学部の水口創太
慶應義塾大はリーグ戦の主力投手が登板しなかったとはいえ、野手はほとんど主力が出場していた。それでも、京大の選手たちは試合後に過度に喜ぶわけでもなく、淡々と勝利を噛み締めていた。
主将の出口諒(栄光学園)は言った。
「大きなミスさえしなければ、戦えることはわかっていたので」
東大戦での収穫は、大型右腕・水口創太(膳所)が2回2/3を投げて無失点と結果を残したことだ。
水口は身長194センチ、体重100キロの大型右腕で最速152キロの快速球を武器にする。そのポテンシャルはプロのスカウトも注目しており、水口自身も強いプロ志望を抱いている。
ただし、今春のリーグ戦で水口が登板したのは4試合7イニングのみ。医学部人間健康科学科に在学する水口は理学療法士の病院実習があるため、土日しか野球部の活動に参加できなかった。練習量が限られ、悪天候などでリーグ戦の日程が平日にずれ込むと参加できない。そんな事情があり、登板機会が限定されたのだ。
水口自身、フラストレーションが溜まるシーズンだったと明かしている。
「もとからわかっていたこととはいえ、やりきれない感じがありました。平日は実習が終わってから夜に体を動かす程度で、ブルペンにもほとんど入れませんでした。でも、実習がほぼ終わった今は野球の練習がしっかりできて、一日一日を無駄にできない思いが強くなりました」
大学最後の秋季リーグはフル参戦できるため、「秋にかける思いでずっと練習してきた」とすべてを出しきる覚悟だ。角度のあるストレートだけでなく、スライダー、カットボール、フォークなどの変化球を自分のイメージどおりに操る器用さもある。
気になる進路について聞いてみると、「育成(ドラフト)でも指名してもらえるならありがたいと思っています」とキッパリ口にした。京大からドラフト指名されるとなると、2014年ロッテ2位の田中英祐以来になる。
監督の近田怜王は期待を込めて、水口についてこう語った。
「以前までは投げた瞬間にボールとわかる、まったくチャンスのない球も多かったんですけど、その確率が減ってきました。高めのストレートで見逃しのストライクが取れるようになってきて、変化球でも器用にストライクが取れる。ボールに角度がありますから、バッターは嫌だと思いますよ。プロに行きたいという目標があって、自分に何が足りないのかを自覚してしっかり取り組んでいます」
春のリーグ戦以上の結果を目指す京大野球部
だが、9月3日のリーグ開幕節で京大を待ち構えていたのは、強敵・同志社大である。春のリーグ戦でも、2試合連続完封負けを喫した分が悪い相手だ。とくにエース右腕の高橋佑輔(豊田西)には、春の第1戦で15三振を奪われ4安打完封に抑え込まれている。学生コーチの三原大知(灘)も「連盟で一番いいピッチャーだと思います」と警戒心を強めていた。
結果的に、京大は春のリーグ戦と同じように0対2、0対4と2試合連続完封負けを喫する。初戦では高橋に対して8イニングで7安打を放ったものの、2つの牽制死などで足を封じられ二塁さえ踏めなかった。
京大の投手陣は第1戦で水江日々生(洛星)、徳田聡(北野)、水口、牧野斗威(北野)と4人の主力投手が力を発揮。9イニングを2失点にまとめた。
そして敗れたとはいえ、京大が「らしさ」を見せたのは第2戦だった。この日は先発した牧野が5回まで3失点と最低限の仕事をして降板。2番手以降は定石なら徳田や水口を投入するところだろう。だが、投手起用の権限を持つ三原の判断は違った。2年生右腕の西宇陽(大教大池田)をマウンドに送ったのだ。
京大投手陣のキーマンに挙げられた2年生の西宇陽
西宇は身長168センチ、体重70キロと小柄な右投手で、ストレートの球速は130キロにも届かない。長身右腕の徳田や水口と比べると頼りなく映るが、三原は「どんな展開になろうと2番手は西宇に決めていました」と高く評価していた。
「ストレートが動く球質で、球種が豊富なので攻めのバリエーションがすごくある投手なんです。制球も安定していて、オープン戦でも結果を残していましたから」
そして、三原は西宇を「投手陣のキーマン」と断言した。
「チームの柱は水江、水口、徳田、牧野の4人ですが、4人だけでは長いリーグ戦を戦いきれません。西宇は4人に次ぐメンバーのなかで実力が抜けていますし、秋を戦いきるためのキーマンだと考えています」
そんな高い期待を受けて登板した西宇は、2イニングを無失点と抑えた。続く1年生右腕の米倉涼太郎(洛星)はバッテリーエラーで1点を失ったものの、貴重な経験を積んだ。投手陣は収穫の見えた戦いぶりだった。
一方、2試合連続完封負けになった打線について、監督の近田怜王はサバサバとした口調でこう語っている。
「優勝が消えたわけじゃないですし、切り替えるしかないですから。他大にもいい投手はいますけど、同志社以上の投手はいないと思います。なので、春もそうだったんですけど、『完敗』と認めること。『いいピッチャーが見られてプラスだった』と、いい意味でとらえています」
打線は全体的に湿りがちとはいえ、3番打者の伊藤伶真(北野)は2試合で3安打2四死球と好調をキープしている。なお、伊藤は3年生の時点で公認会計士の試験に合格した秀才でもある。独特の感性の持ち主で、「ふくらはぎを圧迫したくない」という理由でユニホームのパンツ裾をスネ付近まで下げて履いている。伊藤は「自分の間で打ちにいけています」と好感触を得たようだ。
まだ秋のリーグ戦は始まったばかり。悲観するには早すぎる。
元プロ野球選手であり元鉄道マンでもある若き指揮官、野球プレー経験のない投手コーチ、アンダースローの正捕手に194センチのプロ注目投手、公認会計士の資格を持つバットマン......。キャラクター性の強いメンバーたちが、この秋に奇跡を起こすのではないか。そんな予感がぷんぷんと漂っている。
(終わり)