「夢見るレアル・ソシエダ」(「マルカ」紙)
「オールドトラフォードで歴史を作る!」(「アス」紙)
「記憶に残るラ・レアルの勝利」(「エル・ムンド・デポルティーボ」紙)

 スペイン国内大手スポーツ紙はこぞって、レアル・ソシエダがマンチェスター・ユナイテッドを敵地で0−1と撃破した歴史的勝利を祝っている。

 世界有数のビッグクラブであるマンチェスター・ユナイテッドは、ヨーロッパリーグという舞台をやや甘く見たのか。カゼミーロも、クリスティアーノ・ロナウドも、本来のパワーは感じさせなかった。各所でほころびが出て、ハーフタイムに選手交代で修正を施そうとしたが、むしろ悪化した。

 レアル・ソシエダはもたつく強豪を、堂々と破った。決して受け身にならず、うまく試合のペースを作り、後半勝負どころの攻勢でリードに成功し、勝ち名乗りを上げた。聖地オールドトラフォードでこれだけの試合をすることがどれだけの偉業か――。

 その中心のひとりが、日本代表の久保建英(21歳)だった。


カゼミ―ロ(マンチェスター・ユナイテッド)と競り合う久保建英(レアル・ソシエダ)

 久保は4−3−1−2の2トップの一角で先発したが、FWというよりはフリーマンに近いと言っていいかもしれない。トップ下の元スペイン代表ダビド・シルバと関係性を作りながら、流れるべきところに流れるというプレーになった。序盤からボールを持った時、前に運ぶ強度で違いを見せた。カゼミーロに背後から強引に倒される場面もあったが、それも警戒されていた証左だろう。

 ただし、前半はチーム全体に攻撃の迫力が出なかった。

 その理由として、単純にナイジェリア代表FWウマル・サディクが不調だったことが挙げられる。ボールを収められないだけでなく、強力なマークを嫌がってしまい、攻撃のブレーキになっていた。直近のアトレティコ・マドリード戦では移籍早々、ポテンシャルの高さを示したが、まだ若く経験も少ないだけに、会場の雰囲気に飲まれたのか。

 そこで、名将イマノル・アルグアシル監督はすかさず動いた。後半からサディクに代え、ノルウェー代表FWアレクサンダー・セルロートを投入。少なくとも、前線に高さのターゲットを作ることで、敵のセンターバックと消耗戦ができる仕組みを整えた。

決勝点を生んだ久保のプレー

 そこで水を得た魚になったのが、久保だった。

 52分、左に流れた久保はボールを受けると、アーリークロスを長身のセルロートの頭にピンポイントで合わせる。シュートは枠に飛ばなかったものの、これでチーム全体が攻勢に転じることになった。54分には、後半から右サイドバックに回っていたスウェーデン代表ビクトル・リンデロフと1対1になると、久保は相手を手玉に取っている。わずかに下がって、1対2になりそうな気配でわざと食いつかせ、一気に縦を抜いて、再びセルロートへ際どいクロスを送った。マンチェスター・ユナイテッドのディフェンス陣に後ろ向きの守備を余儀なくさせている。

 56分、そのプレーで得たCKのショートコーナーからだった。ダビド・シルバからのパスを右サイドで受けた久保は、立ちはだかったブラジル代表フレッジを一瞬のフェイントで置き去りにし、縦に切り込み、マイナスのクロス。これをエリア内、フリーで受けたダビド・シルバが左足で蹴り込むと、飛び込んできた選手の手に当たってハンドになった。このPKをブライス・メンデスが左足で流し込み、決勝点になっている。

「久保は輝かしいふたつのプレーの後、CKからの流れでも主役となり、ダビド・シルバをフリーにしていた」

「アス」紙がそう絶賛しているように、「試合を決めた選手」と言えるだろう。

 もっとも、この日の勝利の最大の功労者はアルグアシル監督だろう。マンチェスター・ユナイテッドのエリック・テン・ハーグ監督の采配がことごく裏目に出たこともあったが、選手の質やキャラクターを見極め、戦況を見通し、選手をピッチに送り込む選択は秀逸だった。

 リードした後も抜かりはなかった。64分、ダビド・シルバが下がった後はシステムを4−3−3に変更。久保を左アタッカーで使い、時計の針を進めた。77分、アンデル・バレネチェアを久保と交代で投入するなど、相手のパワーをいなしながら逃げ切った。

 久保はアルグアシル監督によって、その能力が最大限に引き出されつつある。ダビド・シルバとのコンビネーション確立は、大きなインパクトを生みつつあるだろう。マンチェスター・ユナイテッドを相手にしても、ふたりの阿吽の呼吸は脅威だった。

 この歴史的勝利によって、久保は殻を破ることになるかもしれない。今シーズンは、ピッチでボールを蹴るたび、確信が増しているように映る。各国の猛者との対決を、心ゆくまで楽しんでいるのだ。

 もっとも、久保は快挙の甘味に浸ることはないだろう。今後はリーグ戦とヨーロッパリーグが並行した週2試合のペースが続く。厳しい日程のなか、一流選手としてタフさも問われるはずだ。