チーム事情から見るドラフト戦略2022〜ヤクルト編

 9月に入り、ペナントレースはいよいよ大詰めを迎え、優勝、Aクラスをかけた白熱の試合が続いている。その一方で、「ドラフト」も来月(10月20日)に迫っており、各球団ともそろそろ来季の戦力補強に目を向け始める時期となった。ペナントレースも100試合を超えれば、チームの「今」と「来季」は見えてくる。というわけで、恒例の「チーム事情から見る12球団のドラフト戦略」を始めることになった。まずは、セ・リーグ連覇に向けて首位をひた走るヤクルトから見ていきたい。


最速153キロを誇る東京ガスの益田武尚

慢性的な左腕不足

 ここ連日、スポーツ紙の一面は「村上宗隆」で埋め尽くされている。日本人選手として松井秀喜氏以来となる50号本塁打を放ち、さらに三冠王に向けて驀進中なのだから無理もない。そしてチームも2位・DeNAに7ゲーム差をつけており、優勝街道突進中である。
※成績はすべて9月7日現在のもの

"村神様"といった言葉が生まれ、大きな見出しになっているように、一見、村上あっての今季の好調な結果に見えるが、「もし村上がいなかったら......」という視点で、彼の打点をチーム総得点から引き、さらに本塁打数をチーム総本塁打から引いてみたが、意外と2位のDeNAと大差はないのである。

 つまり、チーム防御率はほぼ同じなのだから、仮に村上がいなかったとしても、そこまで大きく打線が落ち込むわけでもなく、結構しぶとく上位争いをしていたかも......そんな空想も浮かぶ。むしろ、ヤクルトというチームの「総合力」が徐々に充実してきたと言える。

 徐々に......なんていう用心深い言い方をしたのは、みんな忘れているかもしれないが、わずか2年前は5位の広島に12ゲーム差、優勝した巨人とはなんと25ゲーム差をつけられた「堂々の最下位チーム」だったのだ。まだまだ油断しちゃいけない。もっと強くなれるチームだ。

 チーム防御率3.53(リーグ5位)の投手力でも首位独走なのだから、攻撃力は「さすが」なのだろう。ならば、まず狙うべきは「投手」からだ。

 今年、マウンドに上がった投手たちの顔ぶれを見ると、誰が見たって「左腕」が足りない。レジェンド・石川雅規がいなければ、先発の高橋奎二、リリーフの田口麗斗だけ......というのが実情だろう。先発、リリーフとも即戦力左腕を、可能なら何枚かほしい。

 昨年も、左腕の隅田知一郎(西日本工業大→西武)を1位指名するも抽選で外し、同じく左腕の山下輝(法政大)を獲得したが、ようやくイースタンリーグで投げ始めた段階だ。来季の見通しは立っておらず、トレードも含め、"左腕"はヤクルトの緊急課題であることに違いない。

1位で確実に即戦力投手を

 即戦力左腕なら、今年は曽谷龍平(白鴎大/183センチ・79キロ/左投左打)の一本かぶりになるだろう。

 左腕窮乏は、巨人、西武、ソフトバンク、ロッテなども同じ悩みを抱えており、重複指名の可能性は高い。それでも指名すべきか......。いや、いくべきではない。

 なぜなら、このままヤクルトが優勝するとドラフト2巡目の指名は最後になる。つまり、通算で24人目の選手を2巡目で指名することになる。ただでさえ、「人材不足」と評される2022年のドラフトだ。まず1位は確実に戦力になってくれる投手を......となるのは当然だ。重複は避けたいから、名より実をとって、社会人の実力者を獲得したい。左腕が見当たらなければ、右腕でもいい。

 吉野光樹(トヨタ自動車/176センチ・78キロ/右投右打)は静かな人気があって、重複の可能性がある。ここは益田武尚(東京ガス/175センチ・86キロ/右投右打)の実戦力と伸びしろを買いたい。

 益田は1年目の都市対抗で初戦に先発して153キロをマークするなど快投を演じたが、次戦の初回に脇腹を痛めて降板。しかし2年目の今夏、都市対抗で完封勝利。体調さえよければ、なかなか打てない"快腕"であることは証明できた。

 140キロ後半のスピードを維持しながら、ホームベース上で鋭く変化するカットボールとスプリット、そして気迫ある投げっぷり。先発なら5、6回は安心して任せられるし、意気に感じで投げるタイプだから、後半の1イニングならもっと威力を発揮するはずだ。

 そして左腕だ。

 緩急と変化球の制球力を駆使して都市対抗での快投が印象的だった佐藤廉(ヤマハ/178センチ・70キロ/左投左打)に、小柄でも145キロ前後のクロスファイアーで右打者の懐を突ける攻撃的なピッチングが魅力の伊原陵人(大阪商業大/170センチ・72キロ/左投左打)を、2、3位あたりで狙いたいところだ。

長岡秀樹の競争相手も狙いたい

 あまり目立たないが、今季のヤクルト躍進の立役者のひとりが、高卒3年目の遊撃手・長岡秀樹である。119試合に出場して、打率.241、守備率.979はセ・リーグの遊撃手でトップの数字である。

 昨年までファームだった20歳の選手が、心身の負担が大きい一軍の遊撃手というポジションを1年間守り続けたのだから、その"反動"は考えておきたい。今季の奮闘を肥やしにして、たしかな存在になってくれればいいが、逆の可能性もある。

 小力があって、小技も効いて、脚力とディフェンス能力が即戦力級となると、村松開人(明治大/171センチ・80キロ/右投左打)と門脇誠(創価大/171センチ・80キロ/右投左打)が候補に挙がる。ともに長岡と同世代の元気者だ。お互い刺激し合いながら成長できれば......そんな期待も込める。

 また将来の投手陣を支えてくれる左腕も補強しておきたい。

門別啓人(東海大札幌高/182センチ・85キロ/左投左打)に坂本拓己(知内高/180センチ・85キロ/左投左打)は、昨年の木村大成(北海→ソフトバンク3位)に続いて、北海道から現れたサウスポーの逸材だ。どちらかが獲れたら、4、5年先のヤクルト投手陣の未来が一気に明るくなる。