Jリーグ優勝争いの行方。横浜F・マリノス、サンフレッチェ広島、川崎フロンターレの三つ巴や残留争いを福田正博が解説
■残り10試合を切ってきたJ1だが、優勝争いはまだ混沌としている。一方残留争いは抜け出しそうなチーム、厳しそうなチームが少しずつ見えてきた。各チームの状況と、リーグのラストスパートの見どころを、福田正博氏に解説してもらった。
最後までわからなくなった優勝争いJ1は残り10試合を切ったが、優勝争いの行方は最後までどうなるかわからない状況だ。
9月7日終了時点で首位に立つ横浜F・マリノス
J1リーグ1試合を含めて、8月は4試合すべてに敗れたことが心配されるが、そこから立て直せるかがポイントだろう。それができれば、残りカードで上位陣との対戦を残していないだけに、ライバルよりも残り試合数が多いのはアドバンテージになるはずだ。
川崎フロンターレはまだ3連覇へ一縷の望みを残している。マリノスとは逆に、夏場になってから復調の兆しを見せ始めた。潮目が変わったのは、守備の大黒柱であるセンターバックのジェジエウが戦列に戻ったことだ。開幕からこれまでと同じように失点は重ねているものの、ここから本来の堅守を取り戻していきたいところだ。
ただ、川崎はアビスパ福岡戦でのケガによって、終盤戦はFWレアンドロ・ダミアンが使えない状況にある。攻撃陣では知念慶はがんばっているし、小林悠もいるものの、最前線で体を張ってきたダミアンの不在が大きく影響するようだと、リーグ3連覇は苦しくなる。
この川崎にとって、終盤戦で最大のポイントになるのが、9月10日に予定されているサンフレッチェ広島戦だ。9月3日終了時点では首位にも立った広島は、消化試合が横浜FMや川崎より多いものの、現時点のチーム状況や戦いぶりだけを見れば、優勝を狙える存在と言っていいだろう。
広島は横浜FMと川崎にプレッシャーをかけられるか今季から就任したミヒャエル・スキッベ監督は、ボールを保持しながら、縦にも速いサッカーをしながら、選手たちに自由と規律を与え、実に見事にチームを躍動させている。若い選手たちが多いが、彼らの自信にあふれたプレーを見ると、指導者の手腕ひとつでチームというのはこれほど変わるのかと感心してしまう。
広島は、実は今季3冠制覇の可能性も残されている唯一のチームでもある。ルヴァンカップでも準決勝に勝ち残っていて、天皇杯準々決勝もセレッソ大阪に勝利して準決勝に進出した。
森保一日本代表監督が率いていた2015年のリーグ制覇を最後に、タイトル獲得から遠ざかっているだけに、そこをクローズアップすると優勝への重圧が気になるかもしれない。だが、彼らにとっては横浜FMや川崎のほうが残り試合数も多く、「追い抜かれても仕方ない」と割りきれるだろうし、「タイトル獲得のチャンスが3回あって、どれかひとつ手にできればいい」くらいに気楽に臨めるのではないか。
これは強みにもなる。目の前の一つ一つの戦いで勝ち点を積み重ねることに集中できれば、横浜FMや川崎に対して逆にプレッシャーをかけられるからだ。横浜FMと川崎に「勝ち点を手にできなければ広島を上回れない」という重圧がかかれば、広島の7年ぶりリーグタイトル奪還が見えてくるだろう。
この3チームを追うのが、鹿島アントラーズと柏レイソルだ。しかし、鹿島はつい1カ月半ほど前までは、ACL出場権獲得圏内が固いと思っていたが、いまはそれも危うい。
レネ・ヴァイラー監督が解任され、あとを引き継いだ岩政大樹監督はよくやっているし、外部からは伺いしれない問題があったのかもしれない。ただ、現状の成績と、それまでの戦いぶりを比較しても、タイトルを目指して好調に戦っていたシーズン中に、これがどうしても必要な軌道修正だったようには感じられないのだ。
この状況に陥った要因は、やはり上田綺世が海外移籍した穴埋めをできなかったところにある。前半戦にリーグ最多のゴール数を誇ったストライカーが抜ければ、チーム力が落ちるのは目に見えていたからだ。
それだけに残念なことだし、だからこそ終盤戦は来季につながるような意地を見せてもらいたいたいと思っている。
残留争いで厳しい戦いが続く4チーム残留争いに目を向けると、ジュビロ磐田、ヴィッセル神戸、ガンバ大阪、アビスパ福岡が苦しいように映る。その上には湘南ベルマーレと京都サンガF.C.がいるが、この両チームは勝ち点ほどサッカーの内容は悪くない。湘南にいたっては、現状は上位陣がもっとも対戦したくないと感じるのではと思うほどチーム状態がいいだけに、ここから順位をさらに上げていくように思う。
最下位のジュビロ磐田は、今夏に伊藤彰前監督から渋谷洋樹監督へと指揮官交代に踏みきったが、苦しいチーム状況に変わりはない。こうした現況を招いた要因は、監督の手腕だけではないように感じている。
その理由のひとつが、この夏の補強にある。前半戦で苦しい戦いが強いられた他チームは大きく補強に動いたのに対し、磐田の補強はシント=トロイデンから松原后を獲得したのみ。守備面での脆弱さがあったとはいえ、昨季J2を攻撃力で制したチームにとって本当に必要なのはFWだったはずだ。
なぜなら今季苦戦している要因は、昨季J2で得点王になったFWルキアンの福岡移籍による得点力不足にあるからだ。それなのに補強がDF1人では、あまりにも苦しい。
ヴィッセル神戸は2度目の監督交代をしてから少し持ち直したかに見えたが、その効力はふたたび弱まってきたように感じる。ひとたび狂った歯車を修正するのは、やはり容易なことではないのだ。
選手たちは、チームがうまく行っている時なら、ベンチに座ることを受け入れざるを得ないし、ピッチに立つための努力もできる。しかし、チームが不調のなかではそうしたメンタリティーにはなりにくい。しかも、神戸のように実績のある選手が揃っていると、その傾向は強くなり、なかなかチーム一丸という雰囲気にはならないのではないか。
それだけに、監督交代の手段をもう一度使う手があってもいいかもしれない。アンドレス・イニエスタというスペシャルな存在を抱える特殊なチーム事情を理解する難しさや、戦術を落とし込む時間的な制約があるので、新監督に求められる仕事は簡単なものではないが、だからといって手をこまねいていても、現状の雰囲気が大きく変わる期待は薄い。
考えられる手はすべて打ったほうがいい。そう思えるほど現状は厳しい。
ガンバ大阪も8月に片野坂知宏前監督を解任し、コーチだった松田浩氏に指揮官を託した。今夏に元日本代表FWの鈴木武蔵や食野亮太郎なども補強したなかで、攻撃的なサッカーをする監督から、守備構築に定評のある監督になった。降格圏を脱するための現実路線への切り替えが、どんな結果を生むのかは興味深い。
順位争いだけではない楽しみも今回は上位と下位の争いにフォーカスしたが、中位勢もここにきて見ごたえのあるサッカーを展開している。
たとえばサガン鳥栖は、開幕前に続いて今夏も選手を抜かれたにもかかわらず、チーム力を落とさずに戦っているが、選手が次々と台頭する理由を探す楽しみがある。
浦和レッズの試合なら、ストライカーの必要性の有無を考えさせられる。順位だけではなく、こうした楽しみ方もあるのがJ1リーグでもある。
そのJ1の最終節は11月5日。まだ2カ月あると思われがちだが、日本代表の海外遠征などの中断期間もある。決着の日はあっという間に訪れるはずだ。そこに向けてラストスパートに入ったリーグの動向を、しっかり見守ってもらいたい。