「ロケット発射」

 チャンピオンズリーグ第1節の注目カードとなったグループH「パリ・サンジェルマン(PSG)対ユベントス」の一戦。ホームのPSGが2−1で勝利を収めた翌日、地元『レキップ』紙の一面にはそんな見出しが躍っていた。

 開始5分のキリアン・エムバペのシュートも、まさに火を噴くロケットがネットに突き刺さったかのような、衝撃的な一撃だった。


観客の度肝を抜いたエムバペのスーパーゴール

 敵陣左サイドでボールを持ったエムバペの前には、前線から戻ったユベントスのFWアルカディウシュ・ミリクと3人のMF、さらにその背後には5人のDFが自陣ペナルティエリア前でラインを形成していた。

 とてもゴールをこじ開けられそうにない場面だったが、DFラインの前にいたネイマールが相手MFのライン間に下がってエムバペからのパスを受けると、パスしたエムバペはそのままスルスルっと3バックの右を務めたブレーメルの背後を狙って一気に加速。

 その動きの狙いを一瞬で読み取ったネイマールは、エムバペがブレーメルを追い越す前段階で背後のスペースに浮き球のパスを配球すると、そのままエムバペがフィニッシュ。そのボレーシュートはもちろんだが、なにより、エムバペの走る速度と方向にピタリと合わせ、落下するボールをそのままシュートできるようなピンポイントパスを配球したネイマールの絶品プレーを見逃すわけにはいかない。

 それは、まるで血の通う兄弟が漫画さながらのコンビプレーでゴールをこじ開けたかのような錯覚に陥るほど、奇跡的なシーンだった。最近は、ふたりの関係性をメディアに取りざたされることが多かったが、このゴールを見れば、彼らしかわからない"ふたりの世界"が存在することがよくわかる。とにかく、めったに拝めない夢のようなゴールだった。

 さらに20分にも、エムバペはアクラフ・ハキミとのワンツーからこの試合2点目のゴールを奪い、試合はPSG優勢で展開することになった。

S・ラモスを狙った作戦は?

 この試合のPSGの布陣は、ジャパンツアーから継続する3−4−2−1。負傷が心配されたヴィティーニャも先発してマルコ・ヴェラッティとダブルボランチを組み、現状の"鉄板メンバー"で今シーズン最初のビッグマッチに臨んだ。

 対するユベントスのマッシミリアーノ・アッレグリ監督は、基本とする4バックではなく、PSG対策として3バックを採用。GKヴォイチェフ・シュチェスニーをはじめ、FWアンヘル・ディ・マリア、MFポール・ポグバ、FWフェデリコ・キエーザら主力の不在も痛恨だったが、即席の3バックもうまく機能しなかった。

 ユベントスの狙いは、今シーズンのPSGが唯一苦戦したリーグ・アン第4節のモナコ戦(1−1)を参考に、ハイプレスを仕掛けることにあったはず。ところが、モナコ戦を教訓にしたPSGが修正を施し、ユベントスのハイプレスを回避した。

 ポイントは、両WBと3CBの右を担当するセルヒオ・ラモスだ。3−4−2−1の相手にハメられたモナコ戦では、ほぼマンツーマンでプレスを仕掛けられたことで完全にボールの出口を失い、両WBのヌーノ・メンデスとハキミが前に出られず、ボールを失っては5バックになって自陣深い位置で守るシーンが多かった。

 しかし今回のユベントス戦では、3−5−2のユベントスがPSGの3バックにプレスを仕掛ける際、2トップがマルキーニョスとプレスネル・キンペンベに、2列目左のファビオ・ミレッティがセルヒオ・ラモスにプレスをかけようとしたが、ミレッティがセルヒオ・ラモスに到達するまでに時間がかかり、逆にそこで空いたスペースを、ヴェラッティとマルキーニョスがローテーションしながらポジションをとって、ボールの出口を作った。それにより、両WBは容易に高い位置をとることができた。

 また、敵陣でボールを握る際には、ユベントスが5−4−1の陣形をとったため、1トップのドゥシャン・ヴラホヴィッチに対してマルキーニョスとキンペンベが残って数的優位を維持しながら、浮いたセルヒオ・ラモスがハキミの背後をカバーすべく高い位置に立った。つまり、PSGの陣形は左右非対称の2−5−3に変形し、中盤で数的優位を保つことができた。

疑問の残るガルティエ采配

 まさに22分の追加点は、それが効果を示したシーンだった。ヴェラッティがセルヒオ・ラモスとワンツーで前進すると、大外のハキミにパス。そこからハキミとエムバペのコンビネーションプレーによって、エムバペの2点目が生まれている。

 ただし、この試合のPSGが完璧だったかと言えば、そうではなかった。それが、後半の戦いぶりである。

 苦しい展開に追い込まれたアッレグリ監督は、後半開始にミレッティを下げてウェストン・マッケニーを投入。4−4−2に陣形を修正し、PSGのダブルボランチの両脇から前進する作戦に変更すると、それが奏功してボール支配率がアップ。PSGが5バックになる時間が増え、試合の流れは大きく変わった。

 たしかに今シーズンのMNMは、守備的タスクもよくこなす。特にネイマールとリオネル・メッシが守備をするシーンをよく目にするが、それでも、ダブルボランチの両脇を埋めるようにブロックの列に加わり、守備に専念するほどではない。

 そうなると、苦しくなるのがヴェラッティとヴィティーニャだ。5バックの前で横幅68メートルのピッチをスライドしながらカバーするのはさすがに無理がある。中盤で数的優位になったユベントスは次第に勢いを増し、PSG陣内で試合を進める時間が増加した。

 問題は、それをベンチから見ていたクリストフ・ガルティエ監督が特に修正を施せなかった点だ。

 件のモナコ戦でもそうだったが、この試合でも3−4−2−1の陣形はそのまま。しかも、MFマヌエル・ロカテッリ(68分)、DFマッテア・デ・シリオ(74分)と、次々とフレッシュな選手を投入したアッレグリ監督に対し、ガルティエ監督が最初に動いたのは、ハキミに代えてDFノルディ・ムキエレを、ヴィティーニャに代えてMFダニーロ・ペレイラを投入した78分のことだった。

 すでに53分にはコーナーキックからユベントスのマッケニーが反撃の狼煙をあげるゴールを決め、スコアが2−1となっていたにもかかわらず、である。

PSGにプランBはあるのか?

 今シーズンはこの試合を含めて公式戦8試合を戦い、7勝1分と無敗街道を突き進むPSG。だがその一方で、採用する布陣は3−4−2−1(3−4−1−2)のみで、まだオプションを持ち合わせていないのが現状だ。

 対戦相手の分析が高度に進む現代サッカーにおいて、ひとつの布陣だけで戦い抜くのはほぼ不可能と言われている。そんななか、以前からオプションの4バックのテストをほのめかしているガルティエ監督は、いまだに同じ布陣とメンバーで戦い続けている。

 果たして、PSGの「プランB」はいつ拝めるのか。それが、今後の注目ポイントになる。