増加の一途をたどる欧州組に対して、チャンピオンズリーガーは数えるほど。欧州最高峰の舞台に立つ日本人選手がいっこうに増えないことは、あまり触れられたくない、日本にとって頭の痛い問題のひとつである。

 ところが今季のチャンピオンズリーグ(CL)には、守田英正(スポルティング)、鎌田大地、長谷部誠(フランクフルト)、前田大然、古橋亨梧、旗手怜央(セルティック)らが出場する。カタールW杯まで2カ月半。日本にとってそれは暗い材料ではまったくない。

 9月6日に行なわれたグループリーグ第1週。その先陣をきって日本人選手3人を擁すセルティックが登場した。昨季の覇者、レアル・マドリードを本拠地セルティック・パークに迎えた。

 セルティックと日本人選手とCLの関係で思い出すのは、中村俊輔が在籍していた2006−07、2007−08シーズンだ。成績はいずれもベスト16で、2006−07シーズンのセルティックは、優勝したミランと決勝トーナメント1回戦を戦っている。

 その頃と比べてどうなのか。王者レアル・マドリードとの一戦は、昨季のスコットランドチャンピオンという、実力がわかりにくいチームのマックス値を占う意味でも重要な試合となった。

 さらに、監督がアンジェ・ポステコグルーであることも観戦意欲に輪をかけた。2シーズン前まで横浜F・マリノスで監督を務めたJリーグのチャンピオン監督であり、同時に攻撃的サッカーの普及発展に貢献した、大袈裟に言えば哲人でもある。3人の日本人をチャンピオンズリーガーに押し上げたという意味では、日本サッカーの恩人といってもいいだろう。


レアル・マドリード戦に先発、チャンピオンズリーガーとなった旗手怜央(セルティック)

 3人のうちスタメンに名を連ねたのは旗手だった。4−2−3−1の2の左。4−3−3を敷くレアル・マドリードの右インサイドハーフ、ルカ・モドリッチの対面に立つことになった。前田と古橋が6月に行なわれた代表戦4試合に招集されていたのに対し、招集外の身だった旗手。しかし守田や田中碧(フォルトゥナ・デュッセルドルフ)らのライバルに十分なり得ることを証明するようなプレーを披露した。

前田大然のゴールが決まっていれば...

 そのプレーのリズムにレアル・マドリードの選手は対応できていなかったのだ。ボール操作、ステップワーク、ポジショニングなどに、旗手は独得の存在感を発揮した。味方には頼もしく、相手には嫌らしく感じられるプレーである。20分に勘のいいミドルシュートを放ったかと思えば、26分には左を深くえぐり、マイナスの折り返しも送っている。気負うことなく淡々と。前半が0−0に終わったことと、旗手のそうしたプレーは密接に関係していた。

 レアル・マドリードは前半30分、カリム・ベンゼマが負傷。エデン・アザールと交代した。ベンゼマといえばチームにとって、ヴィニシウス・ジュニオールとともに変更のきかない重要な選手である。接戦続きだった昨季CL終盤のトーナメントは、この2人のコンビで勝ち抜いたようなものだった。そのひとりが欠けたことも、前半が0−0に終わった理由である。

 後半、ポステコグルーは頭から前田大然を投入。右ウイングの位置にイスラエル代表のリエル・アバダと交代で据えた。アバダがどちらかといえば張って構えたのに対し、前田はディフェンスラインの裏狙いで、ポジションもやや内側に構えた。

 レアル・マドリードは後半11分、ヴィニシウスが先制ゴールを決めると、その4分後にはルカ・モドリッチが、ベンゼマがベンチに下がった後に0トップのようなスタイルでプレーしたアザールとの連係で追加点を奪う。後半の早い段階で勝利を確定させることに成功したが、セルティックが後半2分に掴んだ決定機をものにしていれば、結果はどうだっただろうか。

 チャンスを作ったのはセルティックの右SB、ヨシップ・ユラノヴィッチで、その折り返しをゴール正面で受けたのが前田だった。ほぼ、「どフリー」。まさしく決定的なチャンスだった。インサイドのどこか骨張った硬い場所にボールが当たっていれば、ゴールは決まっていたはずだが......。

 こう言っては何だが、前田はこの日、アンラッキーボーイだった。後半のあるときまで外に張らず、ラインの裏を狙おうとするスピード重視のプレーが、試合展開とマッチしていなかった。右サイドにボールが収まらなくなってしまったことで、レアル・マドリードに流れを持っていかれたという印象である。

 旗手が効果的にボールに触れる機会も減っていき、後半27分にはピッチをあとにすることとなった。と同時に、ポステコグルーは古橋を投入。この時間になったのは、スコットランドリーグで左肩を負傷していたためである。

 見せ場を作ったのは、レアル・マドリードに完璧に崩されアザールに3点目のゴールを奪われた直後の後半33分で、左ウイング、ジョタからのトリッキーなセンタリングを、左膝で合わせたプレーになる。シュートはボール左ポスト1個分、逸れていった。

レアル・マドリードのCBには後半の頭から、ブラジル代表のエデル・ミリトンに代わり、ドイツ代表のアントニオ・リュディガーが入っていた。カタールW杯絡みの視点で見ると、もう少し見たかったとは正直な印象である。

 前田は終了間際、対峙するフランス代表左SBフェルラン・メンディを持ち前のスピードで軽やかに抜き去った。初めて見せ場を作り、可能性を示したが、中央でリュディガーにクリアされた。

 最終スコア0−3で、セルティックはホーム戦を落とすことになった。ちなみにセルティックの次戦の相手は、この日、ライプツィヒとのアウェー戦に1−4で大勝したシャフタール・ドネツクだ。