15万5000人の大観衆の前で、マックス・フェルスタッペンが母国オランダGPを2年連続の勝利で飾った。

 だが、楽勝だったわけではない。

「最初から最後までプッシュし続けなければならなかったし、ひと筋縄ではいかないレースだった。VSC(バーチャルセーフティーカー)やSC(セーフティーカー)が出た時に正しい判断を下し、常にどこかにクエスチョンマークはあったけど、最後はすべてがうまくいったよ」(フェルスタッペン)


フェルスタッペンは今季10勝目をマーク

 金曜はFP1でギアボックストラブルに見舞われてセッションを失い、マシンの仕上がりも思わしくなかった。それをファクトリーで必死の分析作業によって改善し、予選でポールポジションを獲得するところまで挽回した。

 そして決勝。予選で温存した新品のソフトでスタートしてフェラーリ勢を寄せつけず、楽勝の展開になるかと思われた。

 ところが、ミディアムでスタートしたメルセデスAMG勢が30周も引っ張り、1ストップ作戦を仕掛けてきた。しかも、ミディアム〜ハードの戦略にもかかわらず、ペースが速い。

 フェルスタッペンのミディアムタイヤより10周フレッシュとはいえ、ハードタイヤで0.5秒速いペースで追い上げてくる。レッドブルはもう一度ピットインし、ソフトタイヤに履き替えて猛プッシュでメルセデスAMG勢を追いかけ、逆転優勝を狙うつもりだった。

「2ストップ作戦のほうが計算上は速く、マックス(・フェルスタッペン)は新品のソフトを残していたから、それを第1スティントに使っていいスタートを決めるのがベストな戦略だと考えた。それらはすべて計画どおりに進んでいた。だが、(48周目の)VSCでトリッキーな展開になってしまった。

 メルセデスAMGのハードタイヤのペースが速く、なおかつ彼らは非常に長いスティントを走るつもりだった。だから我々としては、トラックポジションを失ってでも(第2スティントを引き延ばして)ソフトタイヤを履くつもりだった。そのタイヤオフセットがあれば、ペース差を生み出すことができるからね」(クリスチャン・ホーナー代表)

メルセデスAMGが攻めの戦略

 つまり48周目の時点で、実質首位はメルセデスAMG勢であり、フェルスタッペンは実質的にルイス・ハミルトンの5秒後方。そこから劇的な逆転優勝でフェルスタッペンが地元大観衆を沸かせるのか、それともメルセデスAMG勢が純粋なスピードでは劣っていても戦略でひっくり返して今季初優勝を飾るのか、いずれにしても劇的なレースになったはずだ。

 しかし、48周目に角田裕毅がコースサイドにマシンを止めて、VSCとなった。

 これでフェルスタッペンは、残る1回のピットストップをわずかなタイムロスでこなすことができ、メルセデスAMGに抜かれることがなくなった。だがその反面、残り25周を走りきるにはソフトは履けず、ハードタイヤを履くしかなくなってしまった。

「ハードタイヤは使いたくない、という希望は伝えていたよ。でも、ちょっと不運なことにVSCが入ってしまって、ハードタイヤに履き替えるとミディアムのメルセデスAMGよりも少しペースが遅かった。

 まだギャップは11.5秒ほどあったので、最後まで逃げきれると思ったけど、彼らが大幅に追い着いてきたことは間違いなかった。彼らがハードやミディアムであんなに速かったのは驚きだったよ。C1、C2はとても硬くてスイッチオンするのが難しいと思っていたけど、彼らはそれができていたからね」

 フェルスタッペンがVSC中にピットストップを済ませることに成功し、首位のポジションをキープすることになった。その瞬間、メルセデスAMG勢はそのまま2位・3位に甘んじるのではなく、自分たちもピットインしてミディアムに交換することを決断した。

 このままでは、勝利のチャンスはもうない。しかしここでミディアムに履き替えれば、フェルスタッペンとのギャップは広がるが、逆転のチャンスも生まれる。ほんのわずかな可能性であっても、勝利のチャンスに賭けた。開幕から苦戦を続けてきたメルセデスAMGにとっては、今季初めてのことだ。

最大懸念は2対1になること

 48周目のVSCで、2ストップのレッドブル対1ストップのメルセデスAMGという戦いは結末がわからないまま幕切れとなってしまった。だが、レッドブルはレッドブルで厳しい判断を迫られ、メルセデスAMGはメルセデスAMGで戦いの第二幕へと挑んでいった。

 ハードのレッドブル対ミディアムのメルセデスAMG。約12秒のギャップで、ペース差は1周0.5秒。ここからどんな最終決戦になるかと思われた矢先の56周目、今度はバルテリ・ボッタスがコース上にマシンを止めてSC導入。またしても戦いの結末を見ることなく、終了となってしまった。

「SCが出るまでは、ハードタイヤのまま最後までいけると思っていたよ。僕のほうが少しペースは遅かったけどね。ただSCが出た瞬間、僕は『ハードタイヤのままじゃ最後まで耐えきれないよ!』とチームに言ったんだ。だからピットインして、ソフトタイヤに履き替えた」(フェルスタッペン)

 メルセデスAMG勢はステイアウトして、ハミルトンが首位に浮上する。ここでもメルセデスAMGは、優勝のチャンスがなくなるピットインではなく、わずかでも優勝の可能性があるほうの戦略に賭けた。

 レッドブルにとってはプレッシャーのかかる状況下での判断だったと、クリスチャン・ホーナー代表は振り返る。

「地元ドライバーが15万人のファンの前でリードしているのをピットインさせて、ソフトタイヤに交換して2台のメルセデスAMGのうしろにするのは難しい決断だった。ミディアムタイヤのメルセデスAMGとハードの我々のペース差を見ると、あのまま走り続けるよりもソフトに換えてアタックするほうがいいと判断したんだ。

 最大の懸念は、2対1になることだった。しかし、メルセデスAMGはジョージ(ラッセル)をピットインさせたので、おかげでマックス(フェルスタッペン)は自由になり、ルイス(ハミルトン)と1対1の戦いになったね」

瞬時の決断が冴えたレッドブル

 SCからのリスタートでミディアムのハミルトンはタイヤの温まりが遅く、フレッシュなソフトタイヤを履いたフェルスタッペンはいとも簡単にオーバーテイクを果たした。もしラッセルも2位にとどまっていれば、2台を抜くにはもう少し時間を要したことだろう。

 しかし、純粋なペースで優るレッドブルとフェルスタッペンにとっては、時間の問題だった。それがわかっていたからこそ、メルセデスAMGは後方のシャルル・ルクレールやセルジオ・ペレスに抜かれて表彰台を逃さないよう、1台だけでもソフトタイヤに交換する保険をかけたわけだ。


母国GPを2年連続で制したフェルスタッペン

 レッドブル対メルセデスAMGの2ストップ対1ストップの戦い。ハード対ミディアムの戦い。いずれもその勝負の行方がわからないまま終わってしまったのは残念だが、苦しい状況のなかで確実に正しい戦略を決断して勝利をモノにしたレッドブルとフェルスタッペンの強さが光った。

「大観衆が大きな期待感をマックスに寄せていたが、昨年、非常に感心したのはそれをシャットアウトしてうまく戦い、今年はチャンピオンとしてここに戻って来て、さらに大きな期待感のなかでさらにうまく戦った。

 金曜はFP1をマシントラブルで失い、FP2はマシンの仕上がりがよくなかった。しかし、夜に大きくマシンを変えて予選でポールポジションを獲得してみせたのは、本当にすばらしかった。もちろん、決勝の勝ち方もね。プレッシャーに対して非常にうまく対処してみせたね」(クリスチャン・ホーナー代表)

 フェルスタッペンが王者としてさらに成長した姿を見せつけた勝利だった。