ここ3年間、NBA入りを目指してアメリカやオーストラリアのリーグでプレーしてきた馬場雄大が、FIBAワールドカップ・アジア地区予選Window4のため、日本代表活動に参加した。

 2019年ワールドカップ本大会、昨夏の東京オリンピックを経験している馬場だが、トム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)体制下では初めて日の丸を身につけた。

 8月なかばに仙台で行なわれたイランとの強化試合2試合と、Window4での2試合の計4試合で、195cmのシューティングガードは平均19.5得点、4リバウンド、2.5スティールと、攻守で中心的なパフォーマンスを見せた。

 同指揮官の採用するバスケットボールスタイルへの順応と、そこで求められる自身の役割を体で理解するのに多少苦労した部分はあったとはいえ、総じて「さすがだった」と評していい働きぶりだった。


ホーバスJAPANで初めてプレーした馬場雄大

 ホーバスHCは日本代表のオフェンスにおいて、コートに立つ5人全員をアウトサイドに位置を取らせて3Pシュートを多用する「ファイブアウト」の戦術を導入している。

 そのなかでホーバスHCは、本来ドライブの得意な馬場に、より3Pを打つことを求めている。だが、馬場は「20何年間もずっとやってきたスタイルを変えるのは簡単じゃない」と口にしていた。パスをもらうと自然とドライブの動きをしてしまう、ということだ。

 だからといって、とにかく3Pを打てばそれでいい、というものでもないようだ。3Pを打つべきタイミングでドライブをして、ホーバスHCに「今のは打って」と言われるのは当然のことながら、3Pを打っても「今のはドライブ」と言われることもあるそうだ。

「もっと3Pを打て」という指示は、NBAを目指す馬場へのホーバスHCの「親心」でもある。イランとの強化試合前、ホーバスHCはドライブがありきでの3Pではなく、3Pありきのドライブといった具合に、馬場のマインドセットを変えているところだと話した。

八村や渡邊と比べて馬場は...

 馬場がそうすることで日本代表が強化されるのはもちろんだが、3Pシューターにならなければ、八村塁(ワシントン・ウィザーズ)や渡邊雄太(ブルックリン・ネッツ)のような2メートル超の体躯を持たない馬場のNBA入りの可能性も上がらないということだ。

「あの身長と体ですから、外からというのがうまくならない限りNBAには入れない。NBAに挑戦したいのであれば、3Pがうまくならないと。彼もそこはわかっているし、どれだけシューターのマインドセットにできるかどうか。今、チャレンジさせているんです」(ホーバスHC)

 もっとも、馬場もNBA入りへ向けて3Pの重要性は従前から理解しており、パス捕球からの速さなどスキル面で向上に努めてきた。シュートタッチひとつとっても、アルバルク東京在籍時までと比べてかなり柔らかくなっている。

 その成果もあって、イランとの強化試合とWindow4の計4試合で47.4%(19分の9)という高確率で3Pを決めた。ホーバスHCは、オフェンスでは3Pを中心に効率よく得点する"アナレティック(分析)バスケットボール"を重視しているが、今回の4試合での馬場個人の得点効率はよかった。

 たとえば、3Pが2Pよりも1点多いことを加味して考えるeFG(eフィールドゴール)成功率。得点効率のよし悪しを表す指標としてしばしば用いられるが、4試合における馬場のそれは平均で70.6%と、かなり高いものだった(世界の強豪と対戦した東京オリンピックでは45.6%だった)。

「ホーバスHCのバスケは、いいシュートセレクションで打てば、入る、入らないは関係ないというスタンスなので、1本1本、気負いなく打てるようになったというか。空いたら打つというリズムを繰り返していれば自然といいシュートが打てるので、確率も少しずつ上がってきているかなと思います」

 3Pを多く決めれば、多少確率が悪くとも2Pを入れるよりも効率よく得点できるのだから、空いたら打っていけ----。

 ホーバスHCのアナレティックバスケットボールをかなり平たく言うならば、そういうことだ。

河村が語る「馬場加入の効果」

 言うは易く、行なうは難し。これがなかなかできない。だが、馬場はそうした心持ちの獲得に手応えを感じているようだ。

 一方で、馬場は3Pだけで日本代表に貢献するわけではない。

 彼の魅力はスピードとアジリティを生かしたオールラウンドさにある。ディフェンスリバウンドに人数をかける必要もあって、馬場加入以前の日本はなかなか速攻を出せずにいたが、彼が加わってからは攻めのスピード感がアップした。

 イランとの強化試合の2試合目が印象的だった。この試合の第1クォーター終盤、馬場は河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)からのパスによって、2本連続で速攻からの得点を決めている。2本目のほうは、バックコートの河村がはるか前方を行く馬場を認め、長く強いパスからによるレイアップだった。

 先頭を走る馬場を追う相手ディフェンダーがいたにもかかわらず、躊躇なくパスをしたことについて、試合後の河村は「馬場選手なら(身体)能力もありますし、相手選手よりも飛べるという感覚があるので、思いきって投げても大丈夫かなという気持ちで投げました」と語っている。馬場加入の効果を示す例と言えるだろう。

 ホーバスHCは、オフェンスでは3Pとドライブインからのペイントアタックを重視し、ディフェンスはしつこく前から守ることで相手のターンオーバーを誘発し速攻につなげる......といったことをスタイルの根幹としている。馬場がそこで相当にフィットしていることが、今回の実践で証明された形となった。

 引き続きNBA入りを目指す馬場の次の代表活動参加は、現状では不透明だ。しかし、7月のアジアカップでホーバスJAPAN初参加となった渡邊雄太と同様、ワールドカップ本大会の前に一度、今の日本代表のバスケを経験しておくことは意味のあることだったはずだ。

 目標であるNBA入りのために、この3年、NBA GリーグやオーストラリアのNBL、NBAサマーリーグと、さまざまな場所で経験を積んできた。今回、ホーバスHC指揮下の代表でのそれも加わったことも、馬場にとっては大きく、NBAへ行くという点でも新たな「気づき」があったに違いない。