9月7日からタイ・プーケットで車いすバスケットボール男子U23世界選手権が開催される。前回大会(2017年・カナダ)で4位とメダルに手が届かなかった日本。東京2020パラリンピック銀メダルの流れに乗って、U23でも2005年以来のメダルを獲得することができるのか? 真っ赤な闘志を燃やすレッドドラゴンこと21歳の赤石竜我、そして京谷和幸HCに話を聞いた。

 赤石竜我の持ち味はスピード&クイックネスで持ち点は2.5のミドルクラス。20歳で初出場した東京2020パラリンピックでは、高いディフェンス力で何度も相手の攻撃の芽を摘み、銀メダル獲得に大きく貢献した。日本の武器のオールコートでのプレスディフェンスは、同時に赤石の十八番でもある。


東京パラを経てさらに成長を遂げている赤石竜我

「東京パラリンピックで僕に求められていた役割は、ディフェンスはもちろん、起爆剤でした。変にうまくやろうとせず、ひたすらがむしゃらにプレーすることでチームに勢いをつけることを求められていました。泥臭く、かっこ悪く、僕がダサくてもチームが勝つなら、それでいいやと思いながらやっていました。自分自身の評価としては、エラそうですけど(笑)、満点に近い出来だったと思います。周囲からも『初戦のコロンビア戦と決勝のアメリカ戦は、まるで別人だった。大会中に成長したね』と言われて、うれしかったですね」

 日本は戦う毎にチームとして成長し、強くなっていった。なかにいる赤石たち選手はどう感じていたのだろうか?

「1戦1戦、強くなっていったことを実感していました。何がよかったかというとチームが目の前のことだけに集中していたことだと思います。『この試合に勝ったら次の相手は○○だよね』ではなく、とにかく目の前の相手とどう戦っていくか、どう勝っていくか、そこだけに集中できていました。今振り返っても夢のような時間でした」

 赤石が東京パラリンピックで一番印象に残っているのは準決勝のイギリス戦に勝って、メダル獲得を決めて鳥海連志と泣きながらハグしたシーンだと言う。

「連志さんは自由奔放と言うか、マイペースな選手。見た目もカッコいいし、プレーに華がありますよね。僕はコツコツ積み上げるタイプで、ディフェンス志向でプレーも泥臭い。連志さんとは性格的にも合わないですし(笑)、キャラも違いすぎて、お互いになかなか理解できないところがありました。でも東京パラリンピックの過酷な連戦のなかで、連志さんが僕のディフェンスを頼りにしてくれていることを感じたし、僕も『ここを決めるのが連志さんでしょ!』ってボールを託すことができて、その信頼にしっかり応えてくれたんですよ。

 勝利に向かって苦楽を共にしていくなかで互いに認め合い、高め合うことができた。キャプテンの豊島英さんがチームのスローガンに掲げてくれた"一心"という言葉はこういう意味だったのか、なるほどな〜って納得しました。東京パラを経験したことで、今では連志さんは良きチームメイトであり、良きライバルだと思っています」

 赤石と鳥海が初めて日本代表の一員として一緒に闘ったのは、2017年にカナダ・トロントで開催されたU23世界選手権だ。京谷和幸HC率いる日本代表は、赤石と鳥海のほか、古澤拓也、岩井孝義、川原凜という、のちに銀メダルメンバーとなる逸材を揃えた布陣で世界と闘った。


8月の東京パラ1年記念イベントで行なったエキシビションマッチ

「僕にとって、ターニングポイントになった大会でした。京谷HCから『ディフェンスができない奴は試合に使わねえから』と言われたことで、ディフェンスへの意識が変わり、選手として成長することができました。そう考えると僕は"京谷チルドレン"ですね(笑)」

 高さがない日本は最大の武器であるトランジションバスケが冴えて、予選では優勝候補のイギリスを破るなど、下馬評を覆す大躍進を見せた。しかしオーストラリアとの3位決定戦では前半に14点のリードを奪うが、後半に入ってオーストラリアに逆転され5点差でメダルを逃してしまう。

「大逆転負けのあと、ロッカールームで号泣しました。これを取ったらまだイケるというところで、僕がパスミスをしたんです。トラウマみたいになって、何度もそのシーンが夢に出てきましたよ。僕のバスケ人生でダントツ悔しい試合です。東京パラリンピックで銀メダルを獲っても、あの屈辱は消えなかった。結局、U23世界選手権での借りは、U23世界選手権でしか返せないんだとわかりました」

 今回のU23日本代表では、東京パラリンピックのメダリストとして若手を引っ張る役割も求められている。

「自分が自分がという感じではなく、後輩たちのよさを引き出すことを考えたいですね。彼らの声を聞いて委縮させないようにポジティブに声をかける。先輩たちが僕にしてくれたように、失敗を恐れず伸び伸びとプレーできるようサポートしたいです。僕自身の目標は、東京パラリンピックの時よりもさらに磨きがかかったディフェンスで、日本の勝利に貢献すること。ディフェンスでは僕がリーダーになって、チームに流れを生み出します。メダル......いや、金メダルを獲って悪夢を終わらせます。はっきり言って今回のU23は強いですよ。期待してください!」

 赤石とともにU23の核になる鳥海もリベンジに燃えている。先日行なわれた東京パラリンピック1周年記念イベントではエキシビションマッチが実施され、ますます存在感のあるプレーを披露し、5000人の観客を魅了した。久しぶりの有観客でのプレーに鳥海も満足そうに頷いていた。

「東京パラリンピックで叶わなかった、スタッフ、運営、ファンの方を含めて会場全体でこの試合を作り上げるということが今日できたのがうれしかった。U23の本戦もすぐに迫っています。調整して、タイ・プーケットでしっかりメダルを獲るべく頑張りたいです」

 コロナの感染者を多数出してA代表は世界選手権予選を棄権し、本大会出場を逃してしまった。京谷HCはU23世界選手権を直前に控え、忙しい合宿の最中、心境を語ってくれた。

「今年の5月にタイ・プーケットで開催されたA代表の世界選手権予選は我々にとって地獄でした。結局、選手とスタッフからコロナ陽性者が多く出てしまい、最後、村上直広が感染した時点で『無理です』と自分から連盟に言って棄権という選択をしました。選手たちには『もう東京パラリンピック銀メダルの貯金はないよ。むしろマイナスだよ』と伝えました。なので、U23世界選手権では是が非でも勝ちたいと思います。

 棄権したA代表の世界選手権予選と同じ会場ですし、リベンジのつもりで乗り込みます。前回の反省も踏まえてコンディションのいい選手を連れて行こうと思っています。今は限られた時間の中での合宿だけど、日数を重ねるごとによくなっています。藤本怜央をはじめとしたA代表の選手が手伝ってくれているから充実した練習ができています。やるからにはもちろん、メダルを目指して頑張ってきます。まあ、やることをしっかりやればメダルも見えてくるし、獲って無事に(苦笑)、日本に帰って来たいと思います」