8月26日からスロベニアとポーランドで開催されている、男子バレーボールの世界選手権。日本は予選ラウンドを2勝1敗としてグループBを2位通過し、16チームによる決勝トーナメントに駒を進めた。トーナメント1回戦(日本時間9月6日の朝4時に開始予定)の相手は、東京五輪で金メダルを獲得したフランスとなった。


世界選手権で決勝トーナメントに進出した日本代表の選手たち

 1949年にスタートした世界選手権は、バレー界で最も歴史がある最大の大会だ。近年の日本の成績は、2006年に32年ぶりとなるベスト8に進出したものの、2010年は2次ラウンドで敗退。2014年にいたっては初めて出場権を逃して不出場。前回の2018年も一次ラウンドで敗退していた。今年は2006年以来の「ベスト8入り」を目標にしている。

 日本は主将の石川祐希が、7月に行なわれたネーションズリーグファイナルラウンドの直前の練習で左足首を故障し、練習に参加できない状態だった。そのため予選ラウンド第1戦のカタールとの試合では、アウトサイドの対角を「たつらん」こと大塚達宣と郄橋藍の大学生コンビが担った。石川は3セットとも途中出場となったが、日本は余裕のあるプレーでセットカウント3−0のストレート勝ちを収めた。

 ほぼフル出場した大塚は「世界選手権は初めてで、今シーズンで一番大きな大会なので緊張もありましたが、『いよいよ世界選手権が始まるんだな』というワクワクもありました。試合の入りも、全体の内容も、自分の中では安定してプレーすることができたのかなと思います。もっと精度を上げていきたいです」と振り返った。一方の郄橋も次のように話した。

「日本男子バレーは誰が出ても強いということを証明しなければならないので、石川選手のプレー時間が短くなることを言い訳にはできません。自分たちがしっかりキャプテンの仕事を補って、逆にプラスにしていかないといけない。自分や、対角を組んだ大塚選手も若い年代なので、すごくいい経験になっています。とにかくプラス思考でプレーしています」

 続くブラジル戦では、第1セットは日本がリードを奪うも、中盤で追いつかれたところで大塚に代わって石川が投入される。しかし、ブラジルは日本をよく研究してきており、石川が試合後に「ブラジルのディフェンスがすごくよくて、今までだったら決まっていたスパイクを上げられた」と語ったように流れを掴めなかった。

 守備面でも、ブラジルのサーブに崩されたこともあって関田誠大のトスも低くなることが多く、被ブロックが増えた。石川もスキルフルなスパイクで対応することもあったが、"らしくない"ミスが目立つようになった。

 2セットを先取された時点で、セッターを関田に代えて大宅真樹、石川に代えて大塚を戻すといったプランもあっただろうが、関田や石川はコートに残り、途中でオポジットを西田有志から宮浦健人に代えたのみ。それについて、試合後にケガの状態について質問された石川はこう説明した。

「6対6の練習ができるようになってまだ1週間くらいなので、不安がないと言ったら嘘になります。特にセッターとのコンビ合わせがまだ......。でも、おととい(カタール戦)よりは確実によくなっているし、最初から『キューバ戦がカギになる』と言われていたので、そこに照準を持ってくるようにしています」

 大会前の会見でも、フィリップ・ブラン監督は「キューバ戦が最も大事な戦いになる」とコメントしていた。現在の世界ランキングの順位ではキューバ(13位)は日本(7位)より格下だが、以前は「海外クラブでプレーする選手はキューバ代表として活動できない」という規定があり、代表が弱体化していた影響が大きい。2019年にその規定が撤廃されてからは、ロベルランディ・シモンといったスター選手も戻り、力を取り戻しつつある。

 だからこそブラン監督には、ブラジル戦で関田と石川を使い続け、少しでもコンビを合わせようという意図もあったのだろう。そうして迎えたキューバ戦は、スタートから初めて石川と郄橋藍が対角を組んだ。

 この試合は西田のスパイクが面白いように決まり(チーム最多の19得点)、さらにミドルブロッカー・小野寺太志のクイック、ブロックも光った。セットカウント2−1とリードしたあとの第4セット中盤は、ミスが出はじめた石川に代わって大塚がコートへ。その大塚は入ってすぐのサーブで相手を崩して得点につなげ、終盤でもサーブからラリーに持ち込み、自らバックアタックでマッチポイントを握る。最後はキューバのミスで勝利し、2位通過を決めた。

 それまでの2戦で、石川の調子を上げるためにプレー時間を増やし、満を持してのスタメン起用。その石川にミスが続いたと見るや、すぐさま大塚を投入。そんなベンチワークでの勝利でもあった。選手たちが言う「誰が出ても勝てるチーム」を体現できるようになってきている。

 石川はキューバ戦の第4セットについて「集中力が切れていた」と反省しつつも、「代わりに入った大塚選手が頑張ってくれて助かりました。今はまだ試合後に(左足首の)痛みが出ますが、悪化することはなく、よくなってきています。長い時間プレーできたことは、集中力を維持するという面でもよかったですし、いい形で予選を突破することができた。決勝トーナメントは一発勝負になりますが、勝ち上がっていきたいです」

 予選ラウンドでは、ブラジル戦こそ苦戦したものの、小野寺、山内晶大の両ミドルブロッカー陣も健闘した。特に小野寺は予選が終わった時点で、ベストブロッカーランキングで全体のトップ。この部門で日本人選手の名前が挙がることはかなり珍しく、小野寺自身もキューバ戦後に「自分でもいいプレーができたと思っています」と胸を張った。攻撃についても、「サーブレシーブがBパス以下になっても速攻を使う」という目標を、勝利した2戦では十分にできていた。

 決勝トーナメント1回戦で戦うフランスは、東京五輪のあと、今年度のネーションズリーグでも優勝している現在の"王者"だ。しかも、フランスのキャプテンで司令塔のベンジャミン・トニウッティに油断はない。「世界ランキング7位の日本は、真剣に対応しなければならない」と、次のように分析した。

「ネーションズリーグのファイナルでフランスは日本を3−0と圧倒したが、この時は主力の石川祐希がいなかったため、参考にはならない。日本はネーションズリーグの予選ラウンドでわずか3敗しかしておらず、今回の世界選手権でもカタール、危険な存在のキューバを簡単に破っている。サーブレシーブがよく、ミドルブロッカーと、石川や西田といった点取り屋をうまくセッターの関田が操っている」

 得失点差によって、トーナメントの初戦で王者フランスと戦うことになってしまったのは、不運と言ってもいいかもしれない。それでも今の日本男子は、トニウッティが分析したように"石川頼みのチーム"ではない。若い郄橋藍、大塚、西田らが躍動し、弱点と言われて続けてきたミドルブロッカー陣も機能。それによって石川も余裕を持ったプレーができるようになっている。

 大会が行なわれているスロベニアのリュブヤナ市は、龍がシンボルの街。最大の強敵を迎える"龍神NIPPON"にも力を与えてくれるだろう。