8月の公式戦4連敗――。

 この半月ほどの間、J1首位に立つ横浜F・マリノスにずっと冠せられていた枕詞だ。

 それが意味するところは、言うまでもなく「このところ調子が悪い」である。

 確かに横浜FMは、8月の公式戦全4試合で1勝もできなかった。8月18日に行なわれたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の決勝トーナメント1回戦でヴィッセル神戸に敗れて以来、汚名返上のチャンスも与えられないまま、モヤモヤとした時間を長く過ごすことになったかもしれない。

 しかも、およそ半月ぶりに迎えた公式戦、すなわち9月3日のJ1第28節では、FC東京と2−2の引き分け。前半に2点をリードしながら後半に追いつかれた試合は、ネガティブな印象を強くした。

 公式戦4連敗中の横浜FMがまたしても勝てなかった、と。


FC東京に引き分けて首位の座を明け渡した横浜F・マリノスだが...

 だがしかし、そんな見方に反論するかのように、横浜FMを率いるケヴィン・マスカット監督は言う。

「結果には満足していないが、選手のパフォーマンスには満足している」

 FC東京との試合は、見応えのある好ゲームだった。

 互いに高い位置からプレスをかけ合い、それに対してどちらも腰を引かずにパスをつなごうと試み、攻守交代が早いテンポで繰り返されるなか、ゴール前でのスリリングなシーンも多かった。

 裏を返せば、横浜FMは絶好調時のように相手を完全に自陣に閉じ込め、圧倒的に攻め立てる展開にはならなかったわけだが、それについては相手のFC東京を称えるべきだろう。アルベル監督の目指すスタイルがようやく浸透してきていることをうかがわせる内容だった。

 それでも、試合をより攻勢に進めていたのは、横浜FMのほうだ。

 攻撃時間やチャンスの回数で上回っていたのはもちろん、最終的に相手の守備を崩しきるためのコンビネーションの確立や、そのためのアイデアの共有といった点では、明らかに一日の長があった。

「結果より内容でどれだけやれたか、だと思っている」と語るマスカット監督が、「パフォーマンスはよかった」と繰り返し話していたのも納得である。

 キャプテンのMF喜田拓也は胸を張り、堂々と口を開く。

「準備したものを発揮できた。攻守ともにアグレッシブな姿勢を感じとってもらえたのではないかと思う」

 そもそも8月の公式戦4連敗と言っても、そのうちJ1の試合はひとつだけ。あとはルヴァンカップが2試合と、ACLが1試合だ。

 もちろん、カップ戦だから負けていいということではないが、大会が違えば、(自分たちだけでなく、対戦相手も含めて)戦い方が変わり、試合に臨む姿勢も変わる。すべてをひとくくりにして論じるのは無理がある。

 また、8月唯一のJ1での試合にしても、川崎フロンターレと激闘を演じた末の惜敗である。その試合内容は、現在のJ1で考えうる最高レベルのものであり、たとえ敗者であろうと何ら恥じる必要のないものだった。

 だからこそ、喜田は語る。

「8月はACLとルヴァンカップで悔しい負け方をしたが、J1はリーグ戦で積み上げてきたものを発揮する場。自分たちからネガティブなものを持ってくる必要はない。そんなことをするのはもったいない」

 J1の試合だけに絞ったところで、横浜FMが絶好調時と比べて、パフォーマンスを落としていることは確かだろう。人数をかけ、ボールを奪うべきところで奪いきれない。そんなシーンは目につく。

 だが、それはあくまでも相対的なものであり、どんなチームにも長いシーズンに波はある。横浜FMが多少調子を落としていたとしても、依然として優勝争いにふさわしい水準のプレーを見せていることは間違いない。

 GK高丘陽平も「勝ちきれなかったのは反省点」としながら、「押し込まれる時もあって、大崩れというか、3失点目の可能性もあったが、それを食い止められた」と、前向きな言葉を口にする。

 横浜FMがこの試合に引き分けた裏で、サンフレッチェ広島が勝利したことにより、右肩上がりに調子を上げてきた広島が首位に立った。

 首位陥落――。またひとつ、横浜FMにネガティブな印象を与える材料が増える結果となった。

 とはいえ、首位の広島と、2位に転落した横浜FMとの勝ち点差はわずかに1。しかも、横浜FMは広島よりも残り試合数が3つも多いのだから、この首位交代もまた、単なる数字上のトリックだと言ってもいい。

「目の前の試合に魂込めて戦うしかない」

 キャプテンのそんな言葉どおり、やるべきことをやり続けていれば、きっと最後は先頭でゴールテープをきれるはずである。