「Chateraise PREMIUM YATSUDOKI(ヤツドキ)」汐留日テレプラザ店。ビジネスパーソンを中心に、昼から夕方にかけての来店が多いという(撮影:尾形文繁)

年間の家計支出を見ると、2021年のお菓子の年間支出は平均で約7万2000円。5年前より2000円のアップだ(総務省家計調査・総世帯)。コロナ禍にあっても、豊かな時間やハレ感を演出するツールとして、お菓子への需要は高まっている。さらに冷凍スイーツのネット通販、お菓子のサブスクリプションなど選択肢も増えた。おしゃれなカフェや観光スポットでイベントとして味わうスイーツのほかに、内食としてのスイーツの市場が活性化していると言えるだろう。

その需要を捉え、今、注目されているのがシャトレーゼだ。

最大の特徴は「種類の豊富さ」

国内にシャトレーゼ656店のほか、2019年から展開し始めたプレミアムブランド「Chateraise PREMIUM YATSUDOKI(ヤツドキ)」を24店展開(2022年6月末時点)する。同社によると2021年の売り上げは約960億円。


「Chateraise PREMIUM YATSUDOKI(ヤツドキ)」汐留日テレプラザ店の店内。2階にはイートインスペースも(撮影:尾形文繁)

最大の特徴である種類の豊富さが、コロナの内食需要にぴたりとはまった。1店舗内に約400種類の商品をそろえており、売り場には和洋の焼き菓子、生菓子のほかワイン、ピザ、カレー、パンなども並ぶ。

また広い売り場を確保するための郊外を中心とした立地戦略も、過密を避けるコロナ禍の社会特性に合っていた。

例えば一家で出かけ、広い駐車場に車で乗り付ける。子どもはケーキ、母親は低糖質パン、父親はワイン、祖父母は和菓子などなど、家族それぞれの好みのものを選ぶことができる。外出を制限される社会状況で、広い売り場で多種多様な商品から好きなものを選ぶショッピング体験に、イベント的な楽しみも加わったのではないだろうか。

ECの売り上げもコロナ禍で年率2倍のペースで伸びた。以前はフランチャイズ店への影響を懸念しECの運営を制限していたことも背景にある。しかしコロナ禍を通じ、ECサイトで見た人が店舗を訪れたり、店舗の客がECも利用したりといった、好循環が起こるようになった。コロナをきっかけに、ネット予約をして店頭で受け取れる仕組みを整えたことも功を奏した。

また大きな役割を果たしたのがSNSでの発信だ。

シャトレーゼがSNS戦略に注力するきっかけになったのが2017年に起こった出来事だそうだ。「田舎か都会かの基準はシャトレーゼがあるかないか」というコメントが拡散され、一気に注目が高まった。SNSの影響を確信した同社では、以後、SNSの発信を意識的に行うようになったそうだ。商品数が多いため、「どのスイーツが好きか」というテーマだけでもSNSを盛り上げることができる。

コンビニへの展開も後押し

さらにSNSと並んでブランドの認知を高めることになったのが、コンビニへの展開だ。同社によるとシャトレーゼのお菓子を食べたいが近くに店舗がない、という声に応え5年前より展開を開始。2018年の発売以来シリーズ累計2億本を出荷しているというシャトレーゼの看板アイス「チョコバッキー」のほか、人気スイーツがコンビニでも入手できるとして話題になった。FCを柱としているため、売り上げなどの詳細はやはり非公表だそうだ。

このように、以前からのSNS戦略でじわじわとシャトレーゼ人気が高まっていたところに、コロナの社会事情でビジネスモデルがうまく機能したことが、注目度アップ、業績の伸びにつながったのではないだろうか。

基盤となっているのはシャトレーゼが培ってきた商品力、ブランド力である。

シュークリームは108円、苺ショートケーキなら324円といった庶民の財布に優しいコスパのよさは、仕入れから販売までを一貫して自社で行う「ファームファクトリー」というビジネスモデルで説明がつく。小売りを挟まない分割安で提供できるというだけではない。直接契約農家から仕入れた素材、添加物を極力減らした菓子づくりというブランド価値にもつながる。低価格と並び、子どものいる家庭やスイーツ好きに支持されている大きな理由だ。

ただこのようなブランド力がある意味、足かせになり、例えば都市部への展開や、贈り物需要の取り込みといった多軸の展開を阻んできた。

そこで打開策として同社が打ち出したのが、プレミアムブランド「ヤツドキ」だ。2019年9月、あえてスイーツの激戦区、銀座に1号店をオープンした。以後も青山や自由が丘、白金台と、高級ブランドの並ぶ街での出店が続く。

ショートケーキ1つが1000円するような高級洋菓子店が並ぶエリアで、ヤツドキが勝負するポイントは、ファームファクトリーモデルで可能となる上質な素材と、やはりコストパフォーマンス。周辺の店に比べ2〜3割程度は安く設定されているという。

「ヤツドキ」とシャトレーゼの違い

ただ、ヤツドキではアイスや糖質カット商品など、シャトレーゼと同じ商品も販売されている。違いはどこにあるのだろうか。

大きな差別化ポイントは、素材の調達先を八ヶ岳エリアに限定したオリジナルスイーツだ。また仕上げを店舗内厨房で行うことによる、できたてのフレッシュ感もヤツドキならではの付加価値だ。ヤツドキでしか手に入らないスイーツもあるという。


6月16日に発売された八ヶ岳しぼりたて牛乳とはちみつのジェラート(172円)。さっぱりとしたジェラートに、濃厚なはちみつがアクセントを加えている(撮影:尾形文繁)

中でもカフェを併設する汐留日テレプラザ店では、店舗限定の「しぼりたて生モンブラン」(1100円)を提供している。これは「シャトレーゼ」のエッセンスを詰め込んだようなスイーツだ。

まず驚くのがその大きさ。栗ペーストは国産和栗と砂糖のみを使っており、約130gと気前よく盛りつけられている。中心部には和栗と生クリームを詰めた最中、牛乳アイスクリームを配置。シャトレーゼらしい和と洋の融合で、濃厚な栗の甘味を、ひんやりとしたアイスと最中で和らげられるのも嬉しい。

アイスクリームを使うところからイートイン限定となっており、注文を受けてから作り始めるので、まさにできたてをその場で味わえる。


(写真左)汐留の店舗の限定スイーツ、しぼりたて生モンブラン(1100円)。ボリュームのある和栗ペーストに加え、中心部にはアイスクリーム、最中、生クリーム、和栗4つがしのばせてあり、満腹になる/(写真右)しぼりたて生モンブランの製造風景。注文を受けてから作り始める(撮影:尾形文繁)

ヤツドキオリジナルで開発され、その後シャトレーゼの定番商品になったのがプレミアムアップルパイだ。ヤツドキでは店内で焼き上げたものを購入できる。

価格については、ヤツドキオリジナルスイーツに関しては若干高めのようだ。例えばシャトレーゼの「無添加特濃プリン 生クリーム仕込み」が162円に対し「八ヶ岳明野町契約農場うみたて卵のプリン」は270円。シャトレーゼの商品は価格を変えず販売されている。人気商品も、「八ヶ岳明野町契約農場うみたて卵のパイカスタードシュー」などオリジナル商品のほか、プレミアムアップルパイやバターどら焼き、苺のショートケーキと、シャトレーゼとかぶるものも多数ランクインしている。


7月16日までの期間限定商品、さくらんぼと苺のフロマージュタルト(529円)と、シャトレーゼでも人気の高いプレミアムアップルパイ(399円)、バターどら焼き(162円)。和菓子には南アルプスの天然水で炊いた小豆を用いており、同社のこだわりが込められている(撮影:尾形文繁)

ただ同社によると、夏以降、オリジナルの新商品が多数発売されるとのことだ。


素材を厳選した、シャトレーゼよりちょっと高級感のあるスイーツが並ぶ(撮影:尾形文繁)

なおシャトレーゼでは「樽出し生ワイン」通い瓶ボトルサービスのファンも多いが、ヤツドキ店舗でも同様に行っているそうだ。シャトレーゼホールディングス傘下のワイナリーと同様のサービスを店舗でも行うようになったもので、非加熱、無濾過ならではのフレッシュなワインを産地に行かなくても味わうことができる。初回は容器の料金157円がかかるが、次からは容器を持ち込めば、容器代は無料となる。ワイン自体が非加熱のため、店舗で洗浄済みの容器に交換したうえでワインを詰めてもらえる。

「値上げをしない」宣言

これまでは郊外にあり、自家用車を持っていない人には近寄りがたかったシャトレーゼ。ヤツドキの出店により、シャトレーゼと同じワクワク感を都市部でも味わえるようになったほか、ちょっと高級なスイーツを買う楽しみもできたことになる。すでに大阪や京都のほか、北海道、宮城といった地方にも展開しており、シャトレーゼの都市型モデルとして出店が加速しそうだ。

昨今の原料費値上がりは同社にとっても打撃となっているが、「値上げをしない」旨の宣言をしており、ヤツドキの店舗内にもポスターの掲示が見られた。シャトレーゼと合わせて国内680店舗、海外140店舗を展開しており、仕入れのボリュームメリットにより、ある程度のコストアップを調整する。

そのほか社内で「改善提案制度」を展開し、例えば生産ラインの自動化促進や配置替えによる効率化、使用包材のスペック変更といった小さな改善を積み重ねている。月500件以上の現場提案が継続的に提出されており、2022年の1〜4月で約2億円のコストダウンを達成したそうだ。

不安に満ちた社会状況の中、人はスイーツにひとときの幸せ、やすらぎを求める。大手企業が軒並み値上げをする中、庶民の味方を貫く同社の姿勢に、改めてブランド価値を感じる消費者は多いことだろう。

(圓岡 志麻 : フリーライター)