“今こそ、民主主義の練習をしよう”－Change.orgのハリス鈴木絵美さんに聞く－ - BLOGOS編集部
※この記事は2012年11月30日にBLOGOSで公開されたものです
“「変えたい」を形にする ソーシャルプラットフォーム”、Change.orgに注目が集まっている。身近な困り事から、国政レベルの社会問題まで、あらゆるテーマについて、ユーザーが「キャンペーン」を立ち上げ、ネット上で賛同者を募り、決定権を持つ人々に届けるというオンライン・ペティション（嘆願・請願）サービスだ。すでに196カ国、2,500万人が利用しているというChange.orgの日本におけるキャンペーン・ディレクター、ハリス鈴木絵美さんに、日本におけるChange.orgの展開について話を聞いた。【取材／構成：大谷広太、村上隆則（編集部）】
「キャンペーン」の訳語が見つからなかった
―先日、米大統領選挙が終わったばかりで、日本では解散総選挙と、もうまさにそういう政治の季節ですよね。選挙とはまた違ったアプローチで、ウェブをベースに社会を変えていくというChange.orgのコンセプトは、これからますます注目が集まると思うんですけども、まず、Change.orgの日本語のローカライズが始まって４ヶ月 くらいが経ちましたね。私は高校卒業後10年間アメリカにいて、６月に日本に戻ってから３週間前までは１人で仕事をしていました。サイトもほぼ全て自分で翻訳して、８月の頭くらいから本格的に運用し始めていいます。その間、オーストラリアでの研修にも行かなければならなくて、本当に辛うじてベータ版を出したという感じですね（笑）。今は、積極的に色んな団体や個人の方にChange.orgの利用を働きかけていますけど、１人だとやっぱり大変ですね。
日本に帰ってきて私が一番ビックリしたのは、「キャンペーン」って何？と言われたことなんですよ。「キャンペーン」っていう言葉自体定着していない。Change.orgの説明を一度すれば、「キャンペーン」ってこういうことなんだ！普通の人でもできるんだな！という事例を出せば日本人にも出来ると思いますよ。
―「キャンペーン」という単語が持つイメージは、日本では、たとえば企業が一定期間、集中して何かをやることで、もしかしたら何かが当たったり貰えたりするかもしれない、みたいなイメージですよね（笑）。言ってみれば、企業プロモーションの一環。
他の言葉がないかなって、７月中は本当に困っていたんですよ。最初は「署名活動」って言葉を使ってたんですよ、友達に見せると「地味だなあ」とか「堅いなあ」とかって言われました。私の肩書きは「キャンペーン・ディレクター」なんですよ。もちろん「キャンペーン」という言葉に商業的なイメージがあるのは分かるんだけど、あえてその「署名」という言葉を使わずにいくには、やっぱり素直に「キャンペーン」しかないよねって話になって。
最初は誰も知らないけど、いつかはこれが「キャンペーン」なんだなって分かって貰えるんじゃないかってことで、結局その言葉にしたんですけど、本当に困りました。他にアイデアがあったら是非相談に乗ってくださいよ（笑）。
―感情をアクションに落としこんでもらう時に、その行動自体を何と呼んだら良いんだろうって、よくありますよね。BLOGOSも「支持する」というボタンがついているんですよ。今でもそのラベリングが適当だったかどうかは議論があります。「Agree」にしてしまうとちょっとニュアンスが違うし、とか。
「キャンペーン」ページのボタンも、「賛同！」が良いかなとか、漢字じゃなくてカタカナの方がいいのかなとか、色々考えたんですけど、あまり凝りすぎても駄目なんですよね。ある方の気持ちに対して私は賛同しているんですよというのは、信念としては合ってると思うんですが、ただその漢字と語感がちょっと堅いかなとかって思ってしまうんですよね。「署名」という言葉はなるべく使わずにしたかったので、「署名」してるっていうと政治っぽい色が付いちゃうってことで…
―「同意」だと、ちょっと弱いですよね。”まあそう思う”、”それ賛成だけど…”程度でも押せちゃうんじゃないかなとか。Facebookの「いいね！」も、それぞれに違った感情を持ちながら「いいね！」していますよね。
「賛成」でも良いのかなって思ったんだけど、それは皆が盛り上がってるから何となく”賛成！賛成！”って言ってしまう感じがして、軽すぎるかなって。
―「別に僕は何もしないけど、とりあえず押しておく」っていう程度の温度感でも「賛成」とは言えちゃうから難しいんですよね。
そうですね。「キャンペーン」に賛同するっていうことはその「キャンペーン」が成功に導くまでのその道を一緒に辿ってくれるっていうことであって、最初にサインすることだけじゃなくて、オフラインのイベントに参加して貰ったり、Facebookでシェアして貰ったり、電話を掛けて貰ったりっていう、そういったアクションも起こしてもらえるってことで結局「賛同者」にしたんですけど、いやー日本語って本当に難しいなって思いましたね。「キャンペーン」のタイトルを考えてる時も、英語だとめちゃくちゃダイレクトに言えるのが、日本語だと微妙なニュアンスがね…難しいですよね。そういうのがすごく楽しくて仕事が充実しているなとも感じるんですけど。
―ローカライズのプライオリティで言うと、日本はどのあたりだったんですか？
今年中に20ヶ国でスタートアップしたいという目標で、ほぼデジタルとソーシャルメディアの普及度をベースにして選んでいます。結果、アジアでは日本、フィリピン、タイ、インドネシアで立ち上げることができました。南米やヨーロッパでも進めていますが、スタッフを探すのにも５～６ヶ月かかりますし、雇えるのも各国３人位までなんですよ。
日本では現時点で私を含めて２名で、来年の初めには３名まで増やしたいと思ってるんですけど、そういう投資の仕方からしてみても、Change.orgの日本への関心度は高いと思います。震災があってから社会運動に対する関心も高まっていますし、ネットリテラシーも高いし、スマホもこれだけ普及しているんだから、ポテンシャルもあると思っています。
―色んな事例が溜まってくるとやっぱり日本ではこうしたら良いんだっていう色んなノウハウが溜まってきますよね。
そうですね。勉強するのもすごく大事だと思うんですよね。Change.orgの仕事には５つのミッションがあるんですけど、その５つ目がラーニング。要は皆が勉強をしていて未知の世界だから、色々なものを記録して分析するのがすごく大事だと、特に日本だと「キャンペーン」という文化がまだないから、尚更重要だってことで重視していますね。
“民主主義の練習”を
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私も「日本に帰ってきてソーシャルメディアの使い方が変わったな」って言われますよ（笑）。日本のみなさんは、個人をブランドとしてプロモーションしてるような感覚で使ってるじゃないですか？
―そうですよね。若い人は特に。
やはり「実名で発信する」という、最初のステップに関してすごく抵抗を感じる人が多いと思いますね。日本文化のあり方とも言えるでしょうが、受けてきた教育も違うし、ネットの歴史からしてやっぱり匿名性が強い文化だと思っています。
それから、政治的な発言をするということに対しても抵抗があると思うんですね。特に私は（米）民主党の若い人を束ねていた団体のボードメンバーだったんですけど、アメリカでは政治への関心度がすごく高いし、政治的なニュースをFacebookにシェアしたり、それについて友達と議論になっても別に気を悪くすることはない、という文化でした。
日本がいきなりアメリカのような個人主義的で、ディベートができるような文化になることはないと思いますが、それでも３年前、２年前、半年前に比べると、社会や政治への関心の高まりがどんどん加速していると思うんですね。
だからこそ日本でChange.orgがすごく大事だと思っているんですよ。ビッグ・ピクチャーのポリティクスじゃなくて、もっとリトル・ピクチャーのポリティクスから始めて、民主主義の”練習”をしていかないと。だっていきなりデモに行くなんて、普通の感覚からしたらまだまだすごく難しいじゃないですか？だからそういう小さい所から始めないと駄目なんじゃないかなって思いますね。たとえば自分の家の近くにある木が伐採されてしまうことになってすごくかわいそうだから、30人の賛同者を集めてそれを食い止めたとか、そういう話です。
それこそTPPとか原発とか、大きなテーマから入るんじゃなくて、自分の身近な問題に対して何か言いたい時にこういうChange.orgという、ツールがあるっていうことを知っておいて、何かきっかけがあった時に使ってもらいたいというのがあるんです。
―日本で最近話題になった「こどもの城」のキャンペーンは、”あれがなくなると困るな”という、自分の生活に近い問題について発言したい人たちが集まって動き出しましたね。活動がメディアに取り上げられてもいますし、本当に行政の決定が覆るようなことが起きるかもしれない。あれはChange.orgの使われ方として、すごく良いケースなのかなと思いました。
一方で、ネット選挙運動の解禁を求める「One Voice Campaign」がありますよね。BLOGOSも、スタッフにインタビューをさせてもらいましたし、なんとか後押ししたいなあと思っているのですが、説明すれば誰しもが反対する理由なんてないよねって言うんですけど、そこからFacebookの「いいね！」を押す、Twitterでシェアする、というステップになかなか踏み出せない。簡単そうに見えてその壁はとても大きいなと感じています。
そうですね。ただ、実際に賛同して、アクションしてくれる人と言うのは、要はその選挙自体に興味があって、尚且つ選挙のあり方に対して興味がある人。実はこれどの国でもめちゃくちゃ少数の人たちなんですね。アメリカでも、選挙で使うお金の額をリミットしよううというファイナンスのレギュレーションのキャンペーンがありましたが。めちゃくちゃ大事な課題だけど全然集まらないんですよ。システミックな課題っていうのはすごく難しいし、現行の仕組みで当選した現職の方にとっても動かしにくいんですよ。
でも、国レベルのトピックでも、自分が何か声を出して変えられるんだって信じていれば参加すると思うんですね。だってアメリカの大統領選だって、あれだけの人が自分の行動を何か起こすことでこの選挙の後に何か変わるって信じてるからあれだけ盛り上がるんですよね。だから私が日本で一番変えたいのは、その自分の個人の力を信じて欲しいんですよ。それがないから皆政治にも参加しないし、投票しないし、結局政治家はああいう感じで民意が届かないんだよね、って軽く片づけちゃっている感じじゃないですか？（笑）それはすごく残念で、もうちょっと日本人にも自分に自信を持って欲しいですね、はっきり言って。
―アメリカの民主主義ってもともと結社というか、人々が自発的に集まっていって…という歴史持っているじゃないですか？それは日本にはあまりないので、そこをおっしゃるように”練習”していければいいなってすごく思いますね。
日本でも、集まってないわけじゃないと思うんですよ。ウェブを見てると、mixiだってそうだし、２ちゃんねるだってそうじゃないですか？実際に集まってるけど、実名制が低いこともあるしオフラインでの展開が難しいのはあるとは思うけど、集まってないんじゃなくて集まってる課題が今はまだ政治的なものではないというのが一つと、それがなかなか実際の行動に繋がりにくいということがあると思います。でも、根本的な部分はそんなに違わないと思うんですよ。ただその集まった場所とか、集まった力をどういう風に放てば上手くいくのかっていう事例がないから、皆行動に繋げにくいだけだと思うんです。
―そうですよね。２ちゃんねるを見ていると、自分の好きな事には熱く語っているし、結束感もありもんね。
パッションはあると思うんですよね。
ユーザーを信じるオープンなプラットフォームだから、使い方も自由。
コワーキングスペースにあるChange.org。 写真一覧
いやいや、Change.orgはオープンなプラットフォームなので本当に何でもアリなんですよ（笑）。むしろ実はそういうのをやって欲しいと思っています。そういうのからChange.orgに入っていっても良いと思う。
―そうなんですね。公共性が高いものでないと駄目なんじゃないかと（笑）。逆にChange.org的に、こういうのには使ってくれるな、というのもあまりないと？
そういう制限は基本的につけてはいません。実際に毎月１万５千件の「キャンペーン」が発信されている中、Change.orgとしても、イデオロギーを決めつけるとか、これは良くてこれは駄目だとか、そんな制限をするスタッフもいないんですよ。ソーシャルメディアで盛り上がるものがより注目度を集めますし、パーセンテージとしてそういう「キャンペーン」を増やしていくのがChange.orgのスタッフの仕事だと思っています。これこそが根本的な”ネット主義”だと思うんですけど、ユーザーを信じるオープンなプラットフォームだからこそなんですね。
―海外でのユニークなキャンペーンや、オススメの事例はありますか？
色々ありますよ。毎日、毎週のように成功事例が出ていて、だからこそ仕事がすごくやりがいがあって楽しい場所なんです。
私のフェイバリット「キャンペーン」は、オレゴン州の小学４年生の子たちが作ったキャンペーンです。 ドクター・スースという、作家の絵本が原作の『ロラックスおじさんの秘密の種』という映画があって、その子どもたちは原作を読んでから映画を見に行ったんですね。絵本は環境問題を重視していて、地球を大切にしましょうねというメッセージがあったのに、映画には無かったと。それをどうにかして欲しいということで、映画の内容は変えられないかもしれないけれど、オフィシャルサイトに環境に関するコンテンツを追加して欲しいという要望をChange.orgから発信した結果、３、４万人の方が賛同して、ユニバーサル・スタジオが対応してくれたという話があります。
社会を変えるのって、もちろん行政も大事だけど、皆が日々行動していく上で変えられる部分なんていくらでもあるんですよ。だからもっとクリエイティブに「キャンペーン」というものを捉えて欲しいなと思いますね。
―使い方も、誰が使っても自由、ということであれば、逆に行政機関や企業が主体的に使うのも特に構わない？
そうですね。ただ例えば大きな会社が「キャンペーン」を発信したからといって、そこに多くの賛同者が集まるのかどうかはわかりません。ユーザ１人１人がそれを決断しなくちゃいけないんですけど、英語で言うとauthenticity、要はその団体がこれをやってるのは何の理由なのか明確にしないと賛同者って集まらないんですよね。
だからそういった面でもすごくソーシャルメディア的だなと。これおかしいよねって言われてしまったら「キャンペーン」は眠ってしまいます。
―Change.orgはあくまでプラットフォームというか、場の提供だけであって、アウトプットを相手に届けます、という主体的なサポートはしないのでしょうか？
もちろん大きな「キャンペーン」でChange.orgが後押ししているものはスタッフが付いて、上手くいくように広報のサポートをしたりすることはありますけど、それは本当に１万５千件の内、数百にも至らない「キャンペーン」です。それらは事例として皆に分かってもらうために回している「キャンペーン」なんですね。
私たちは発信者を力づけることを主なミッションとしているので、なるべくChange.orgが関わらなくても良いように、発信者に対してアドバイスのメールが自動的に送られるようになっています。署名を届ける時に一番インパクトがあるようにビジュアルな物を作るだとか、なるべく多くの人を集めるだとか、宛て先にプレッシャーを掛けるにはどうすれば良いのか、などのアドバイスが盛り込まれています。
―政治家にも企業にも、或いは役所にも、日々沢山の署名が届いていると思いますが、日本だと「請願」と言って、定められた書式があったりしますよね。スタンダードなのものは自筆で氏名と住所を書いてもらって、ハンコもついてと。
僕たちもネットのメディアを運営していて残念なことなんですけど、まだまだネットで集まった声というのは、何か信頼性に欠けるんじゃないかと見られてしまうことがあります。署名もおそらく、自筆のものに比べると…というのがあるでしょう。海外ではそこは別け隔てなく受け止めてもらえていますか？
マーケットによりますね。例えばアメリカだと、私たちがやっているようなデジタルな「キャンペーン」の文化がこの５～６年で根付いていて、特にホワイトハウスのウェブサイトなんて、実際に５千人集めれば、絶対に誰かが対応してくれるんですよ。アメリカではむしろ、色んな他の工夫をしないともう署名だけでは声が届かない状態になっていると思います。
Change.orgがまだ定着してない国の場合、ネットを使って「キャンペーン」を回すということ自体が新鮮じゃないですか。宛て先もこんなの貰ったことないってなるんですよね。例えば「こどもの城」の「キャンペーン」の場合、彼らはFacebookとTwitterでも情報を発信しているし、オフラインの活動もしているんですね。届けるときも賛同者のコメントや写真を大きく印刷して届けるとか、そういった工夫をして、ネットだけじゃないんだよ、これは本当に人々がいるんだよと訴えているんですね。
デモの時に日比谷公園が使えなくなったとき、「キャンペーン」で24時間で1300人分の署名を集めて、実際に役所に届けに行って、人が集まってる写真と署名とコメントを全部印刷して持って行きました。私も同行したんですけど、ちゃんとお話を聞いてくれたし、「これって貰っても良いんですか？」って紙を貰ってくれたんですよ、面白かったから。だからいきなり総理大臣に宛てるのは難しいけれど、小さな所から始めることで社会は変わるんじゃないかなって思いますね。
―今伺っていて面白いなと思ったのが、Change.orgのプラットフォームを使って「キャンペーン」を実施するだけではなくて、メディア的なことをしたり、リアルなことをやったり、きちんと情報発信を組み合わせていかないとパワーにならないというのはありそうですね。
例えば堀米ゆず子さんのバイオリンの件では、友人の方が一人で、ほぼ自力で5400人の賛同者を集めて、そのことをドイツ大使に伝えただけで次の日にはバイオリンが無償で返されるっていう話になりました。別にオフラインの活動もせずに、署名も届けなくて良かったんです。
このように、署名だけで動いた事例も山程ありますから、全ての「キャンペーン」をオフラインで展開しなくちゃいけないって訳ではないんですけど、長期戦になりそうなものは、本当に人々が関わってるんだなっていうことをアピールするに、実際に人が集まる場所を取り上げてもらうのが一番効果的だと思いますね。
デモもキャンペーンも、宛先、具体策、目的が重要。
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一方で、ああやって首相官邸前に集まって声を上げることで、本当に世の中が動くんだろうかとか、変わるんだろうかという疑問を持つ人もいるんですよね。そういう状況を見ていて感じることって何かありますか？
私からしてみれば、発信している事自体がすごく良いことだと思うんですよ。デモも注目されて、それをきっかけにパブリックな場で議論が行われている事自体、日本の歴史からしてみればすごく重要なファーストステップなんじゃないかなと思えるんです。アクティビストの人じゃなくて、普通の人が参加しているのに衝撃を受けました。子ども連れのお母さんや仕事帰りサラリーマンの方も沢山いたじゃないですか？
デモが効果的かどうかって言う人は、今の実態だけ見て、それが歴史的にどう展開していくのかをあまり見てない人だと私は思うんです。デモは戦略を立てていく内の一つの戦術であって、それにメディアが注目して、議論している課題が変わればそれだけでも良いんですよ。
“Occupy Wall Street”だってそうだったじゃないですか。あれ自体でなにが変わったかと言うと、そんなに直接的な影響は無かったかもしれないけど、そのことによってメディアも経済的な格差に注目し始めたし、その時NY市に住んでいた私には、政治がシフトしたのが見えたんですね。
だからそれらを極端に批判する人は、社会の動かし方が分かってないんじゃないかなって思います。Change.orgもそういう批判を良く受けますよ。オンライン・ペティション（嘆願・請願）なんかで変わるわけないじゃないか。どうせネットだけの自己満足なアクション、つまりスラクティビズムだろうと。でも、アラブの春とか見てもそうじゃないですか。FacebookやTwitter自体が社会を変えたというわけではなくて、情報が拡散しやすいツールとして、変革に一つの貢献をしたということです。
また、反対するだけじゃ駄目だとも思っています。官邸前デモも、”再稼働反対”、”野田はNOだ”とか、トップラインのメッセージとしてはそういのうのが多かったじゃないですか。もちろんそれも大事かもしれないんだけど、もっと具体的な提案を出して、「そうじゃなくてこういう風にして欲しいんだ」って言うのを説明しないと、政治家だって対応しにくいんじゃないですか？否定するだけでは社会は変えられなくて、課題を提案していく上で議論が高められるんじゃないかなって思うんです。
Change.orgでも、「キャンペーン」作成時にそこを明確にしてもらっています。３つの質問で「キャンペーン」ページが作成できるんですけど、１つは宛先を明確にすること。その問題に対して誰が直接担当しているのか。総理大臣じゃなくて、政府の中で誰が担当しているのか。あるいは企業の担当者は誰なのか。そこまで明確にすることで声が届きやすくなる。まずそれが一点。 ２つ目はその人に何をして欲しいのかを本当にクリアにすること。どちらかと言うとポジティブなものの方が受けが良いですよね、具体性があって賛同しやすいですから。 ３つ目は、ちゃんと説明をする。自分は誰なのか、なぜこれを「キャンペーン」として発信するのか、なぜ皆に呼びかけているのか。これが３つ揃った所でやっと「キャンペーン」ページが作成できます。
―なるほど、それが大事ですよね。なんとなく嫌だ嫌だとうだけではなく、こうして欲しいとか、自分はこの部分については賛成だけども、この部分は反対なんだということをちゃんと表に出すと。
政府のエネルギー政策にも批判されていましたけど、結構頑張ってるなって思えたのは、３つのチョイスを出してたじゃないですか？これとこれとこれ、と。そうやって具体化していきながら進めるのは悪くないと思うんですよ。議論にあれだけエネルギーを費やしても、具体的にこういった政策があるんだという明確なポイントがないと、NOだけになってしまう。すごく勿体無いなって思いました。
日本のNPOは変わるのか。
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しかし、NPOやNGOの担い手に目を向けると、学生さんがサークルで関わるけれども働き始めると活動から少しずつ離れていってしまうパターンや、主婦の方がメインで活動していたりする。それが欧米では、大学卒業後の就職先でNPOを選択する人がとても多いと聞くんですよね。むしろ企業以上に人気の就職先だと。
日本に帰ってきてすごく嬉しくてエキサイティングだったのは、社会起業家やNPOを立ち上げる若い人がめちゃくちゃ増えていたことです。先日、世界経済フォーラムの若い人たちと交流する機会もありましたが、皆20歳代でNPOを立ち上げたり、社会的企業を回したりしてるんですね、大学生からも、どういう風にすればこういう仕事に就けるのかって、質問が来ることもあります。
日本の経済が上手くいっていないからかもしれないんですけど、卒業して優良企業に就職できる人は良いけど、そうじゃない人も大勢いるじゃないですか。実際に今の経済が自分たちのためにワークしていないから、じゃあ新しい価値観を持たなくちゃいけないんだなっていうことを問われていて、そのなかでNPOに入るとか社会的企業に入るというのが一つの選択肢として生まれてきていると思うんです。
アメリカも本当にそうで、リーマン・ショックの後に社会起業がホットになりました。NYでも、元バンカーの人たちがNPOを立ち上げたり、もう全くキャリア・チェンジをしていました。あれだけ稼いでたけど実際に僕は幸せだったのかなということを問われて、初めてそういう仕事に向き始めるっていうのは絶対あると思うんですね。
日本のNPOに関して私がすごく残念だと思うのは、例えばアメリカのGDPのうち、10%はNPOなんですよ。トップクラスのNPOを見ると、本当にプロフェッショナルな組織として回っているし、実際にそれがキャリアになる状態ですよね。もちろん寄付もあって、資金があるからスキルがある人を雇えるし、ポジティブスパイラルで回っていくのですが、日本だとまだNPOがキャリアとして認められていない。良い子ぶってる人が土日にボランティアをしてやることだ、或いは寄付を集めてもスタッフのお給料にしちゃいけない。そういうイメージがありますよね。
―もっと言うと、儲けちゃいけないんじゃないか、というイメージがありますよね。「清貧」という言葉がありますけど、良いことはできるだけお金をかけずにやらないと駄目なんじゃないかというのが、どうしてもあるんですよね。NPOでもしっかり事業をやっていくには資金が必要だし、プロフェッショナルを雇うためにはやっぱりそれなりの給与も必要だし、という所はまだこれからだなという感じはしますよね。
それはすごく残念で、これから事例を増えて、NPOへの信頼度もどんどんアップすると思うんですけど、実際に社会を変えるのってプロフェッショナルが必要なんだよっていうのを日本人の方にも分かって欲しいです。Change.orgもソーシャル企業としてやっていますから、その話も皆に知って欲しくて、こういう企業があるんだよって本当に知って欲しいですね。
―このChange.orgの事業も、日本単体でランニングさせられるのか、つまりその収益の問題をどうするのかということを気にする人は絶対にすごくいると思います。
良い質問だと思います。現在、Change.orgとして世界で２千万人のユーザーがいますが、その人達は社会問題に対して意識が高く、既にアクションを起こした人ということで、アメリカやスペイン。イギリス、インド、オーストラリアでは既にビジネスモデルが成り立っています。
マーケティングのバジェットを構えているような大手のNPO法人の方がメンバーシップを増やすとか、寄付を増やすために、Change.orgのユーザーにすごく興味を持つんですね。結局は広告のモデルになるんですけど、"スポンサード・キャンペーン" という形で団体が「キャンペーン」を出して、例えば私が動物愛護の「キャンペーン」に賛同した後に、動物愛護団体が”その「キャンペーン」に関心があったなら”これもやってますよ。是非賛同して下さい”という形で繋がりを作る。それでクリック毎にお金を少し頂いてるんです。
社会的企業としてのミッションを重視しているということであって、資金をアメリカとかイギリスとかからかき集めて、日本を含め、そんなにお金を持ったNPOがないアジア各国、民主主義が活性化できるような国でバンバン立ち上げています。
そのビジネスモデルが日本でも成り立つのかということですが、結局ユーザーがいないと話にならないので、今は重視していない状態です。どっちかと言うと日本では「キャンペーン」を定着させるということがステップワンであって、これが上手く行けば日本のNPOのセクターに対しても良いことになるんですよ。
こうやって社会意識がある人が集まってる場所にローコストで広告が出せる状態は、日本のNPOにとっても良い状態になるんですね。ビジネスモデルとミッションが一体化した会社だなって思ってるんですけど、それが何年後に日本でうまくいくのかはまだわからないですね。
―難しいですよね。やっぱりBLOGOSも広告収益がメインなんですけど、エンターテイメントの分野でもないですから、莫大なトラフィックが集まるわけでもなく、現在のクリック数やページビューが重視される世界観の中では収益化が難しいんですよ。
結局そうですよね。持続させるのが難しい。社会的貢献をして経済的に成り立つビジネスモデルって本当に難しいと思います。
―最後に、Change.orgは流行ると思いますか？
いや流行らなかったら困るんだけど私は（笑）。いや、流行るまで私はやるつもりです。
これをするために日本に戻ってきたんですよ。NYに素晴らしい生活があったのに、それを置き去りにして、日本を変えたいという思いで帰ってきたので、いや、これはもうやるしかないですよ（笑）。
最初は絶対これなんて上手くいかないよとかって皆否定するじゃないですか。Facebookだってそうでした。だからそれを踏まえた上で何年かは頑張らなくちゃいけないんじゃないかって思っています。本当に毎日のように「キャンペーン」の相談のメールも来ています。それをどうやって日本の文化に基づいた、日本人の「キャンペーン」にするのか、トライ＆エラーで。
―ありがとうございます。
楽しかったです。（11月16日、目黒区にあるChange.orgのオフィスにて）
プロフィール
ハリス鈴木絵美（はりす すずき えみ） 米国人の父と日本人の母の間に生まれ、高校卒業まで日本で育つ。米イェール大学卒業後はマッキンゼー＆カンパニー、オバマ氏の選挙キャンペーンスタッフなどを経て、Change.orgの日本キャンペーンディレクターに就任。・Change.org のキャンペーンを発信するにはこちら
