日本は領土・領海を守れるのか－国内海外安全保障なう - BLOGOS編集部
※この記事は2012年11月06日にBLOGOSで公開されたものです
ブロガーのやまもといちろう氏が、初代内閣安全保障室長の佐々淳行氏、『ニューズウィーク日本版』元編集長の藤田正美氏と共に、国家論を軸に、外交、防衛、治安維持、食糧問題（TPP）・エネルギー問題などを考えるシリーズ国内海外 安全保障なう。日本の領土・領海をテーマに議論が進みました。■出演 やまもといちろう氏（ブロガー、個人投資家、作家）
佐々淳行氏（初代内閣安全保障室長）
藤田正美氏（ジャーナリスト、『ニューズウィーク日本版』元編集長）
アシスタント：木次真紀（元山陰放送アナウンサー）
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竹島問題を考える
やまもと：今回取り上げるテーマは、日本の領土・領海を守れるのかということですが、第２回の放送から今日まで、日本の主権であるとか領土について危機感が高まった1か月だったなと。今日はこのあたりのお話を伺えればと思います。まず竹島の件で、李明博大統領は、なぜあそこまで立ち入ったのか。
佐々：これは完全に韓国の国内問題だと思われます。そしてこうした行動によって世界の関心を、日韓関係に重大な領土問題があるということを教えてしまったということで、李明博氏の大失敗だと思います。
やまもと：非常に強いメッセージを送ることで、却って韓国側に領土問題に対応する国内的な余裕がないんだということが明らかになってしまったと。
佐々：竹島を自国の領土だとなぜ強く主張しなかったのかという批判もありますが、李承晩ラインが引かれた当時、日本は占領下にあったということを皆さんお忘れになっている。それで本来ならアメリカが調整すべきであったところ、サンフランシスコ平和条約が発効された昭和27年というのは、昭和25年に朝鮮戦争が始まったばかりですから、アメリカとしては韓国に不利益なことはできない。ですから日韓の領土問題についてアメリカは中立です。二国間の領土問題については、いずれにも肩をもたない、国連の問題でもないと、アメリカは李承晩に甘くしたんです。
やまもと：最近では対馬も韓国領だという主張もありまして、運動が広がっていっているようです。
佐々：韓国の反日デモを見ていると、横断幕に『対馬は我々のもの』、テロップの翻訳によると、そう書いてあった。それと機を同じくして中国の深?でも反日デモがあって、横断幕に『琉球返せ』って書いてあったんです。(領土問題が)沖縄と対馬に波及している。
中国が制定した領海法によると、石垣島も中国領に入ってしまっているんです。日中間には領土問題がありませんという、外務省の公式見解。あれだけ反日運動が起こっていながら、よくあんな非現実的な答弁が出来るものだと思います。これに関しては自民党の時から良くない。
やまもと： 今、政府は韓国・中国・ロシアから非常に強いプレッシャーを感じているところだと思います。従来の外交の姿勢をこのまま続けていっていいのでしょうか。
藤田：それそれ問題が違ってくると思います。北方領土にしても二島返還なのか四島返還なのか、結局外務省の方針はまとまらないままです。プーチンさんが大統領に最初になった2001年、森喜朗さんが首相だった時に経済援助と四島返還の話をバーターにロシアが持ち出そうとしたんです。その時に森さんは何と言ったか、『そういう話は経団連とやってください』。経済的な問題と政治的な問題と、バーターにしてやるのが外交であるとすれば、森さんはまさに外交音痴であったと、その時に露呈してしまったんです。
やまもと：シベリアパイプライン問題ですとか、資源の高騰局面直前で、ロシアは外貨が必要だった時期の話なんで、あの時に一気にやっていれば、もう少し状況は変わってきたのかもしれません。
藤田：それに比べると、尖閣と竹島の問題は、ちょっと違うと思います。
やまもと：竹島の問題は経済水域の問題があるにせよ、重大な二国間の経済問題を反映しているものではないはずです。政治的象徴としてクローズアップされすぎた問題でした。
藤田：李明博大統領の外交センス、ちょっとおかしいと思うんですけど。
佐々：同じことが、日本にも言えるんです。北京駐在の丹羽大使は元々経済人です。あの方を大使にすることには、猛烈な反対があった。中国13億人のマーケットと考えている人を大使として送り込むのは、不適当であると。大使は小村寿太郎みたいな侍でないと。いざとなったら命がけで国益を守る人でないと。
そこに尖閣列島の中国人船長の事件が起こりました。この時、丹羽大使は真夜中に中国の外務省に出頭を要求され、出向いているんです。国際常識としては、夜中、執務時間外に呼び出した方が非常識です。
それで船長を釈放しろと言われた、それを仙谷官房長官に報告すると、菅総理と前原外務大臣がニューヨーク外遊中で不在の中、仙谷さんは閣議にもかけないで超法規措置で釈放、その責任を政治主導と言いながら沖縄地検の次席検事の責任にしました。前代未聞の責任転嫁です。
そして先日、襲撃されて国旗をとられた。大使の車は日本の主権です。特に大使の公用車は、保護されるべき外交特権の典型的なものです。それを襲撃されたら、アメリカのシークレットサービスなら撃ちます。しかもそれは国際社会としては正当の業務行為になります。今度の件は旗を取られて、それを返せとすら言ってない。
やまもと：保護しないんですね
佐々：ただの旗であると言ってきたそうです。主権侵害もさいたるもので、あれだけのことをされたら、総理や官房長官、外務大臣が、激烈な怒りを示さなければいけない。
やまもと：丹羽大使が更迭された時に、中国から３つの条件、上陸しない、建設しない、調査しないであるとか、様々な条件を突きつけられて呑む形になってったそうですね。
佐々：今度の事件で、丹羽大使を更迭してはいけなかった。
やまもと：問題が起きて更迭ということは、問題を認めているということですよね
佐々：向こうが更迭を要求しているところに従って更迭するバカはありません。 怒っている時は、いてくれと言われても引き上げさせる。今度は出て行ってくれって言われているんだから、置いておく。相手の嫌がることをするのが、国益を求める外交です。
藤田：言われたことはやらないということです。矜持を保つということですから。そこは頑張らなければいけません。
やまもと：同じようなことがフィリピン沖に発生していて、フィリピンと中国の間で漁業権について強い対立が見られます。フィリピンが中国側の経済的なパージを恐れてむしろすり寄るような形ですけど、今、フィリピンと日本とが似たような外交をとっていて、難しい局面に追い込まれている。
粛々と現行法で対処しますよというのも大事な事なんですが、どういう外交的なオプションをとっていくのか。今のままでは先方のやり得になって、どんどんエスカレートしてしまうのは間違いありません。
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尖閣は誰が守る？
藤田：尖閣の場合、特に怖いですよね。韓国は竹島を実効支配している、あれは海上保安庁みたいなところですか？軍ですか？佐々：あれは軍です。
藤田：日本の場合は尖閣に何かあるわけでもなく、単に周囲を海上保安庁が警備しているだけなんです。それが実効支配だというなら、相手が上陸しようと来た時に、どうするのか。じゃぁあそこに海上保安庁だけではなく自衛隊を置けというのは、当たり前の議論なのかと。
やまもと：象徴的なのは、非公式ながら中国側から日本政府で尖閣を買ってくれという要望を強くいわれて、それを日本政府が承認。地権者と交渉した石原さんのグループが、国に土地を買わせることで合意をみたというリークが出て、情報が錯そうしています。寄付された側としては、あの14億円はどうされるのがいいと思われますか。
佐々：今の内閣は長くないから、次のまともな内閣に、尖閣諸島の実効支配を強化するための何等かの措置をすると言う人に14億円をあげてください。その中の一部に私の寄付金が使われるのは大歓迎です。そのまま渡してしまうのには反対です。それが寄付をした人の共通の気持ちだと思います。政府は漁民保護のために避難所を作るとか、無線状況がよくないので通信基地を作りたいと言っていますが、作るべきです。できれば交代勤務で、誰かが常駐していないと実効支配というのは主張しにくいです。
やまもと：最前線ですよね。
佐々：それをこの機会にやったらいいと思います。この内閣はダメだから次の内閣でやるということで、寄付金はそれまで東京都、もしくは石原都知事があずかってなさいと。
藤田：問題は、次の内閣でそれができるのか。
佐々：橋下維新の会というのも、何が出てくるかが分からない。でもこのままだと100議席ぐらいとる可能性もある。
やまもと：安倍さんが大阪維新の会と合流して、治安防衛に関してフォローアップするという可能性はないでしょうか？
佐々：あると思います。今年の２月、私は橋下さんの維新八策について、憲法９条、治安防衛外交、国防のことを論じない八策は違いますと産経新聞の『正論』欄に寄稿しました。その朝刊が出たあと、彼はツイッター上で、「佐々さんの言ってることは正論です。それを実現するのに２年ください」といいました。
憲法第96条、日本国憲法の改正手続きについて規定されている条文について、橋下さんは各議院の総議員３分の２以上の賛成が改正に必要なところを過半数にしますと、一部修正した維新八策の中で提案しているんです。この方針は斬新な着想です。それで安倍さんも石原慎太郎もこれであればと、それで最近の動きが出てきているわけです。
やまもと：佐々先生の御本でもお書きになってますけど、中央集権をやって、いかに日本が周囲の国から自立していかなければいけないというお話しでしたが、橋下さんの考え方はむしろ逆で、船中八策と言いながらずいぶんニュアンスが違うのかなと。
佐々：この間、『救国の八策』という幻冬舎からの本の紹介をしたんですが、その中で、一番大事なのは海防だと申し上げました。
今日の『国内海外安全保障なう』のテーマである領土・領海の守りは、海防の弱さという点においては江戸時代に戻っています。その弱みに付け込まれて、北方領土から竹島、尖閣まで一斉に火を噴いてしまったのが今年なんです。
そのきっかけは2010年、尖閣漁船体当たり事件の中国船長の超法規釈放。これが引き金になっているというのを見極めなければいけません。
メドベージェフ首相は尖閣に対する日本の対応の仕方を見て、胡錦濤国家主席と会っています。ふたりで日本に対する領土問題は強硬に行こうという合意を得て、それで国後島に行っているんです。ロシアは国後に行く、中国は尖閣に行く、それを見ていた李明博大統領は個人的な点数回復のために竹島に行っている。
ですから、今起こっている事には相関関係があるんです。
北方領土を何で自衛隊が取り返さないのか、竹島の占領状態をなんとか排除したらいいじゃないかという主張もありますが、武力行使は最後の手段です。外交手段で交渉の機会が残っている場合は武力行使しないというのが、自衛権の定義です。そういう理由で実効支配されていても外交手段で交渉しますという答弁をずっと自民党政権時代から繰り返しています。それが今、限界に達してしまっているということです。
今後、これらについてどういう交渉をしたらいいか。北方四島については、日ソ共同宣言に平和条約締結後に二島を返すと書いてある。それをメドベージェフ首相が一寸たりとも返さないと、四島ともわが領土であると言いました。あれは共同宣言違反です。それを言うべきなんです。
ゴルバチョフのペレストロイカが行われた時、ソ連が大変動揺した時期がありました。日本政府・外務省がその時に何をやったのかというと、シベリア抑留の賠償を求めたのです。1945年８月15日に終戦したはずなのにソ連は９月６日まで攻撃を続けました。その結果60万の日本軍将兵をシベリアに抑留、強制労働させました。
これは将校を強制労働させてはいけないという国際条約違反をソ連が犯したことになり、その結果、６万人が亡くなったのです。日本はこの国家賠償を求め、国連に提訴します、という事を日本政府が申し入れると、ゴルバチョフは大変動揺しました。その証拠に大慌てで６万の将兵のお墓を作ったんです。
お墓と言ってもコンクリートで固めて、墓標も何もない、誰が誰だか分からないものです。私は当時、日本国際救援行動委員会、略称JIRACのNGO活動でシベリアに行きました。ソ連の崩壊で老人ホーム、孤児院の人たちが飢えと寒さで死にそうになっているという、アメリカの要請があっての救援活動です。そのときアルチョムという、ウラジオストックの空港のすぐそばに日本人墓地が作られたというのでお参りに行った経験があります。三百一柱のコンクリートの四角い墓地でした。
ゴルバチョフはカチンの森事件(ソ連軍が捕虜としたポーランド将校の大量射殺事件)があったポーランドからも国家賠償を請求されていました。日本にも同じことをやられると大変だと、北方四島に関してはソフトな姿勢をとったんです。そのあとのエリツィンは60万人の捕虜と６万人の死者を出した事を陳謝しました。あの時がチャンスでした。
やまもと：最高にして最大のチャンスだったのは間違いありませんね。
佐々：ゴルバチョフ、プーチンの時に強気にやっていれば何とかなったかもしれませんが、今からでは手遅れです。プーチンではとても敵いません。ただ時効にはさせない点で、要求し続けなければいけないと思います。
２番目に竹島。国際司法裁判所に提訴。これは正しいと思います。すでに2回やっています。相手が応じないということで諦めていますが、時効にさせないために国際司法裁判所に付託を言い続けているというのは、いいことです。
やまもと：実効支配が50年続くことをにらむということですよね。
佐々：国際司法裁判所への提訴については、昨年8月、超党派の領土議連が付託を求める決議を採択し、最近は政府もたびたびこの主張をしはじめました。
それから尖閣。こういう状況になったいきさつですが、サンフランシスコ平和条約で台湾を中国に返しました。台湾は中国から日清戦争で奪ったものかというと、実はそうではないんです。
1895年の下関条約で、李鴻章に対して伊藤博文が台湾どうします？と言ったら、あれは化外の民である、つまり野蛮人が住んでいる、清国は関係ありませんと。それでは無主物ですねということで、台湾とおよび付属島嶼を日本が領有したんです。しかし、国民政府に台湾を返還した時に領海の線引きをキチンとしなかった。日本は当時占領されていましたし、強く主張できなかったんでしょう。その後中国は、領土法で尖閣は台湾の一部であるという理由で自国の領土としたんです。ところが日本側の解釈では尖閣諸島は沖縄の一部だと思っている。その意識のずれを誰も直そうとはしない。
やまもと：中国のいう、核心的国益に対する認識が中国と日本とでは違うんですね。
佐々：食い違っていることを、サンフランシスコ平和条約だけではなく、1895年の下関条約にまでさかのぼって、キチンと議論すべきだと思います。外務省の怠慢です。 みんな知っているのに、議論を避けています。
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世界の中で考える
藤田：安全保障でいうと、もうひとつ重要なのは、日露・日韓・日中というだけではなく、日中の話をするときは、日本とASEAN東南アジアまで含めて、また中国を相手にする時は、日本とロシアとの関係まで、周りとの関係をどうしていくのかまで考えていかなければいけない。どうしてもいつも日中の話に限定されてしまう。佐々：もうひとつ、付け加えさせてもらうと、日米の関係。クリントン国務長官と胡錦濤国家主席が９月５日に会談しています。ですから日本はアメリカにも根回しをしておかなければいけないと思います。日中、日露、日韓と、外務省の課の縦割りではなく、外務省としてクリントンが中国との間で何を言いに行くのか、また、そういうことをクリントンにやらないように言わなきゃダメなんです。それが外交というものだ思います。
藤田：クリントンはインドネシアで、南シナ海では中国はおとなしくしていてくださいねと言ってるんです。ウォーニング、警告という言葉を使っているんですから、北京に行った時に、尖閣についてクリントンが物を言うことがあってもいいわけですよね。 あるいは日米安保の第5条の規定によって、尖閣は安保条約の対象であると、改めて確認をするだけでもいいと思います。
佐々：ただ、現実的な問題として、尖閣はこのままでは守れません。 海上保安庁の権限を強化する法律はやっと通りました。実は逮捕権について、警察と海上保安庁との間で長い間、問題になっていたんです。
海上保安庁は陸上に捜査権が及ぶようにと主張し、警察庁は領海まで500ｍ・12海里まで、海の上でも警察の捜査権が及ぶようにしろと。公安は警察が捜査した方がいいと、三者で揉めていました。それで警察庁側として権限を調整する協定を結んだのが、私のかつての任務でした。その時に、海保は水際から500ｍ上陸して警察権を行使していい、一方警察は警備艇で500ｍ出ていっていいという妥協案を出したんです。
藤田：海岸線を中心に両側1キロを、海保と警察が入り込むということですか
佐々：相互に立ち入ると。ずいぶん昔にその協定を結びました。 そういう視線で香港の活動家が尖閣に上陸したニュース映像を見ていると、海上保安庁がなるべく岸近くまで行かせて、500mのところで沖縄県警に捕まえさせたいわけです。一方で沖縄県警はそうはさせじと水際で大格闘しているように見えました。
結局５人は陸上で沖縄県警が、９人は抗議船上で海上保安庁が捕まえたのですが、今度はどこが連行するんだということになりました。沖縄県警には留置所がありますが、県警は受け取らない。水際で逮捕したんだから海保でしょうと。でも海保には留置所がありません。それで消極的権限争議で、入管に引き渡して強制退去です。
やまもと：不思議な解決方法でしたね。
佐々： 30名が待ち伏せしていたわけですから、海保、警察、入管、あの三者の共同責任です。どこが逮捕するかは本来内閣、官邸が決めなければいけません。 領海侵犯は国家主権に対する犯罪です。先ほどの丹羽大使の公用車も、日本の主権、領土なんです。それに立ってる旗は国旗なんです。国旗は保護しなきゃいけない。どうしてこういう違いがこの内閣は分からないのか。
藤田：それは民主党だからなんですか？
佐々：この件に関しては自民党の頃からダメでしたが、尖閣に対する民主党内閣の姿勢に国民が不満を持っている証拠が、東京都への14億円超の寄付金なんです。それを踏まえたら、尖閣に対する、とくに領海侵犯を漁業法で取り締まるなんて馬鹿な法律はやめて、安倍内閣がやろうとしていた領域警備法、これをもう一度早急にやるべきです。香港の活動家がもう一遍来た時にどうするのか。前例によれば、これは領海侵犯も咎めない、何か投げてきても公務執行妨害を問わない、上陸した中国人も、ほかに悪い事をしていないなら沖縄県警の外事課の判断でこれを不処分にする。これはどういうことですか。 悪しき前例にならって同じことをやったら、国民は怒りますよ。
藤田：ふとありえないシナリオを思いついたんですけど、その時まで野田内閣は続いているとして、国民的な不人気を一挙挽回するためには、大挙して押し寄せてくる中国船を止める。国境線で、もしくは領海で。そうすると巡視艇と船がぶつかる、活動家が死ぬ…、なんていうシナリオになると、これは大変ですね。
佐々：同じシナリオで、こちら側の海上保安官が死ぬという事態だって考えられます。
やまもと：韓国の警備艇でも、韓国の海上保安官に一名死者が出ました。
佐々：韓国大統領は、その時の中国の船長に対して懲役30年、2000万ウォンの罰金刑を下しました。中国は抗議しましたけど、これを蹴飛ばしています。これが領土、国家主権ってものなんです。
やまもと：李明博が突っぱねたんで、まだ体面を保てていたところがありますよね。
佐々：日本も法律を少し変えて、1年の行政犯である漁業法違反による領海侵犯を、国家主権の侵害ということで、長期10年にしたらいい。そうすると武器が使えます。ご存じのように、今、武器使用は警察官職務執行法を準用して第7条の正当防衛と緊急避難。刑法第36条と第37条です。プラス死刑、無期、もしくは懲役3年以上の凶悪な罪を現に犯したものの逃走抑止、あるいは抵抗、公務執行妨害、抑止のために銃が使えます。今のままだと、海上保安庁の船は漁業法違反では撃てないんです。
やまもと：重大な犯罪じゃないから。
佐々：領海侵犯罪を10年の懲役にすると、撃つことができます。撃った行為というのは刑法第35条、正当業務行為で、「これを罰せず」になります。国家の主権に対する行為ですから、自衛隊が防衛出動によって敵兵を殺し戦車を破壊する、器物毀棄罪も殺人罪も適用になりません。国家主権というのはそういうものです。
日本はどういうわけか江戸幕府の時代に戻っている。取締の法規がないんです。林子平という水戸藩の下級武士が『海国兵談』を著して、帝国主義ロシアがどんどん南下してきている、これを阻止するためには沿岸警備と砲台を作って、海軍を作らないとダメだと書いて、自費出版。これを幕府が鎖国令違反だということで、逮捕して版木を没収しました。一部写本を隠し持っていたものが、坂本竜馬や吉田松陰らから、薩摩の島津斉彬、水戸藩藩主の徳川斉昭に伝わって、海軍を作ったり軍艦を作ったり砲台を作ったりする。江川太郎左兵衛門が作ったのはお台場です。
今、その時代に戻っている。これだけの海洋国家でありながらアメリカの第7艦隊に任せて、海防をやってこなかったツケが今年一気に来ているんです。
やまもと：向こうもそこを突いてきているんだと思うんですね。
佐々：だから、いまからでも間に合います。香港の活動家が再上陸すると言っていますから、これにどう対処するのか。世界中が日本をダメな国と見てしまいます。何やっても文句言わないっていう、大使の車を襲ったって大丈夫っていう、本当に日本の権威失墜。
やまもと：そこでダメだったので、次どうしましょうという議論になるのかなと。
佐々：そうなるでしょうね。でも現に領土問題はあるのですから、この問題を直視してくれる人を次の総理にしないといけません。選挙活動しているわけじゃないけど、このままでいくと、また同じことが繰り返されます。
やまもと：ロシア、中国、韓国、どこから見ても領土問題があると、当然今まで色んな交渉があったわけですが、なかなか改善の見込みがない。特に尖閣に関して、問題はより悪くなる一方の話で、国内法で解決できるなら国内法をしっかり整備していって、しかるべき体制をとる、予算も積み上げると。それは早くしなければならない、早くするのは今後の声の上げ方だと思います。ただ大阪維新の会の、地方分権の話の方に目が行ってしまうと、そういう必要な法整備に関して後手に回らざるをえなくなるのは、怖いところですね。
佐々：原点に戻れと申しあげたい。1972年の日中共同声明には、軍事力で何かやろうとするのは止めようと書いてあります。今の中国の尖閣に対する態度は共同声明違反なんです。明らかに武力で脅かしてきています。それを原点に戻って議論すべきです。そして警察問題として尖閣問題をやりましょうと、中国に申し入れる。領海に入ってくると撃ちますよと、そういうくらいの体制でいかなければいけません。
韓国に対しては国際司法裁判所に出てきなさいよ、そこで大いに議論しましょうと。 北方領土はまず二島返還。そしてシベリア抑留に対する国家賠償を求める。 それぞれ基本条約に戻ったらどうですか？と。
やまもと：それが一番早いですよね。
今夜21時からの放送
・国内海外安全保障なう 第四回 「石原新党、日本維新の会は救国の第三極となりうるのか」出演者プロフィール
佐々淳行（さっさ あつゆき）初代内閣安全保障室長。
1930年生まれ。東大法学部卒業後、国家地方警察本部（現警察庁）入庁。在香港日本国総領事館領事、警察庁・警視庁の調査・外事・警備課長、 監察官などを歴任。1977年からは防衛庁に出向、防衛審議官、官房長、防衛施設庁長官などを歴任。1986年には内閣安全保障室長を務める。1989年、昭和天皇大喪の礼を最後に退官。
現在は、各省庁委員会の委員などを務めるかたわら、講演・執筆を通じて、「危機管理」思想の普及・啓蒙活動・政策提言を行なっている。
・佐々淳行ホームページ
藤田正美（ふじた まさよし）
ジャーナリスト。『ニューズウィーク日本版』元編集長。
1948年生まれ。東京大学経済学部卒業後、『週刊東洋経済』の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年、『ニューズウィーク日本版』創刊プロジェクトに参加。1994年～2000年、同誌編集長。2001年～2004年3月同誌編集主幹。インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテータとして出演。2004年4月からはフリーランスとして現在に至る。
著書に、「ドル帝国の崩壊」（監修）がある。
・@m_fujita2332 - Twitter
・藤田正美の世の中まるごと”Observer”
・藤田正美の時事日想 - Business Media 誠
やまもといちろう
ブロガー・投資家・イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役。
1973年生まれ。1996年、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2000年、イレギュラーズアンドパートナーズ株式会社を設立。
著書に「ネットビジネスの終わり (Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」、「リーダーの値打ち 日本ではなぜバカだけが出世するのか？ (アスキー新書)」など。
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木次真紀（こつぎ まき）
フリーアナウンサー。
1974年生まれ。元山陰放送アナウンサー。
・マイペース！ マイリズム！ 楽しく幸せにイキマショ！
