ミャンマーの和平のプロセスを日本に監視してほしい 少数民族武装勢力の訴え - BLOGOS編集部
※この記事は2012年11月01日にBLOGOSで公開されたものです
日本財団がミャンマーの少数民族に対し、食糧や医薬品など300万米ドルをかけて緊急支援を行うことを決定し、2012年10月18日、支援物資の内容や輸送方法、実施時期などについて話し合う東京会議を開催した。この日、統一民族連邦評議会（以下、UNFC）に加盟するミャンマー少数民族武装勢力11のうち10の民族の代表者20人が集まり、民主化が進むミャンマー国内において少数民族がおかれる緊迫した現状を訴えた。（取材・撮影：濱田敦子）
国内避難民に対し日本財団が300万米ドルの支援
日本財団は2012年10月18日の記者会見で、ミャンマーの少数民族に対し300万米ドルをかけて食糧、医薬品を緊急支援することで、UNFCおよびミャンマー政府側のアウン・ミン大統領府大臣と覚書を締結したと発表した。このような大規模な緊急支援活動が行われることも、政府並びにUNFC双方合意の会議が開かれるのも初のケースだ。
昨年起こった軍事政権から文民政権への政治改革により、急速に民主化の波が押し寄せているミャンマー。その一方で、少数民族たちと中央政権による各地方の自治をめぐって60年以上も続く争いは終息する気配がない。この戦いにより、住んでいた地を追われて国外に流出している「難民」は22万人にものぼり、また、国内で避難生活を余儀なくされている国内避難民（IDP）にいたっては、現在把握できているだけでも100万人以上存在すると言われている。
これまでも人道支援が叫ばれていたものの、特に国内避難民に対しては、国内問題に介入することになるため、各国政府や国連など外から手を差し伸べることが難しく、また支援を行ったとしても極一部であったことから民族間に格差が生じるなど新たな問題となることが多かった。こうした中、今回の日本財団の緊急支援は、少数民族武装勢力の連合体であるUNFCと、中央政府双方合意のもとに会議が開かれ、一度に300万米ドルが投入されることから大きな期待が寄せられている。
今後の支援に繋がるスキーム作りを
日本財団の笹川会長は会見で、「今回の会議は、ミャンマー政府も、政府と少数民族の和平プロセスの一環として位置付けており、これを契機として少数民族側が積極的に政府との停戦協議、和平協議に挑むことを期待しているという言葉もいただいている。これまでも、テイン・セイン大統領やスーチー女史と会談を行ったが、少数民族問題の解決なくして、ミャンマーの真の民主化はありえないという点で意見が一致していた。今回の支援でこの成果を出し、またその成果を世界中に知らせることにより、今後の支援に繋がるスキーム作りのきっかけにしたい」と述べ、「ミャンマーが統一国家として進んでいけるよう、日本財団としても努力をしていきたい」と力強く語った。
クン・オカーUNFC副議長は、「停戦合意がきちんとした形で行われ、それが継続されることが少数民族の願い。そのためにも、テーブルを囲んでの政治的な会合を重ね、政治的な解決策を見出していきたい。」と述べた。
日本財団および、日本に期待することとしては、「これまで合意がなされても政府によりその約束が守らなかった歴史があり、私たちには中立を保ったオブザーバー的な組織が必要。日本及び世界には、是非この和平の状況をモニタリングおよび監視していただき、仲介役となっていただきたい。」と語った。
支援の内容や配布方法については、今回の会議で話し合われた内容を各組織が持ち帰り、詳細を検討することになっているが、「少数民族が住む地域は地形的に立ち入るのが非常に困難な山間部が含まれるため、ゾウや人力での配布も考えられる。場合によってはタイ・中国・バングラディッシュなど隣国からの物資を入れることも検討が必要だろう」と述べた。
平等に話し合いを行う機会を
会見後は、少数民族武装勢力の代表が順番に壇上にあがり、それぞれが置かれる現状を次々に報告した。どの民族も、過去の約束や合意の内容が政府によって破られている現状をあげ、「本当に政府が停戦をのぞむのであれば、政治的話し合いのもと和平を進めるべき」とし、またそれが平等に行われ、守られるように「日本や世界に監視をお願いしたい」と訴えた。代表それぞれが身にまとう民族衣装から、彼らの多様な文化がうかがえた。
●パオー民族自由組織（PNLO）
「私たちは平和と自由を求めているが、政治的対話を行う平等な機会がない。そして、もし2008年の憲法（武力を持てるのは国軍のみとしたもの）に基づいて活動が行われる場合、それは受け入れられない。政治的対話なくしてミャンマーの問題は解決できないと考えている」
●カチン独立機構（KIO）
「私たちの望みは、ビルマがひとつの連邦国として再出発すること。守れない停戦合意は、和平に繋がらない。もし、ミャンマー政府と大統領が本当に手選を望むのであれば、国軍に対してKIO地域からの撤退を命ずるべきである。政府の支配地域ではなく、KIOの支配地域ばかりで戦闘が行われているのも紛争が終わらない理由のひとつだ。
●カレン民族同盟（KNU）
カレン民族は多様なコミュニティーをもっており、それぞれ言語も文字も異なる多様な文化がある。和平プロセスが実現されには、それぞれの民族が集まってひとつの声を作ることが必要。私たちは平等を欲しており、自決権を求めている。武装だけでは、こういうような問題を解決できないと考えている。また、苦しんでいる民に、食糧や医薬品、教育を適用していきたい。
●アラカン民族評議会（ANC）
私たちの地域には豊富な天然資源がありインドや中国などの投資で開発が進められているが、全くその恩恵が地元に還元されていない。アラカンにはゲリラとミャンマーの軍事政権との衝突により生まれた多くの避難民がいるが、世界から目を向けられておらず支援をいただけていない。ジャングルや山岳地帯で生活を送っている人たちに、どうか目を向けてほしい。
●チン民族戦線（CNF）
私たちは、1948年までビルマ・ミャンマーの一部ではなかった。自治権を認めるとするパンロン協定を結んだが、それによってもたらされた自由は非常に短命なもので、以降戦いが始まった。現在、協議を重ねているが、チンに存在するさまざまな党・市民組織と共に恒久的な和平を達成したいと考えている。また、かつて外国人は立ち入れないとするインドのミゾラム地域の法律が撤廃され、海外からの人道活動を受け入れられるようになった。この地域は支援が特に足りていないので、ぜひ足を踏み入れてほしい。
●カレニー民族進歩党（KNPP）
60年に及ぶ政府との戦いにより、多くの犠牲者が出ている。停戦合意を行っても政府によって約束が破られ、多くの人が自分たちの集落を去らなければならない状況となった。多くの子どもが犠牲者となり、栄養不足や皮膚病に苦しむ事実を知ってほしい。避難民が自分の郷里に戻って生活ができるようにするためにも、国際社会からのミャンマー政府への圧力を望む。それが停戦合意につながると思っている。
●ラフー族民主同盟（LDU）
私たちは軍事政権によって人権を侵害され、平等のために戦い続けている。私たちがもつ独自の文化、地域を守りたい。山岳地帯のため教育が不足しており、幼いうちから労働に従事する子どもがたくさんいる。農業も厳しい状況で、十分な収穫を得ることもできない。地域に内にはびこる麻薬の生産に終止符を打ちたいと考えており、これに代わる作物を見出そうとしている私たちに手を差し伸べてほしい。これら開発のご支援をお願いしたい。
●新モン州党（NMSP）
私たちも他の少数民族と同じく、政治協議を強く望んでいる。政治協議を行うためにも、全てのモン州の州民がこれに参加することが重要だと考えており、州内で話し合いを重ねている。これを続け、和平・合意に向けて努力していきたい。
●パローン州自由戦線（PSLF）
長い闘いの中で、捕虜は拷問やレイプなどを受ける劣悪な環境にある。国軍に食料を強制的に差し出さなければならず、協力姿勢を見せないと、厳しく罰せられる。また、地域の中で麻薬の売買が行われ、アヘンの栽培などが続いていることも問題。教育についてもミャンマーでは初等教育が無料ではないため、通えない人がいっぱいいる。食糧難や、医療の不足も深刻化している状況だ。
●シャン州進歩党（SSPP） 私たちも自由・平等を求めて60年戦っている。パンロン協定での約束は、政府により全て破られてきた。今年も銃撃戦が行われている。政府の言う停戦は、ほんの一時のこと。本当の和平を望んでいるなら約束を守り、さらに国際社会がする中で、話し合いを行うべきだと考える。
