毎年800億円のカネが生まれる休眠口座 - BLOGOS編集部
※この記事は2012年10月19日にBLOGOSで公開されたものです
ニコニコ生放送とBLOGOSがタッグを組んでお送りしている「ニコ生×BLOGOS」 第12回のテーマは「休眠口座のより良い使い道とは？」10年以上お金の出し入れがない「休眠口座」。その数は、現在1300万件以上、金額にして毎年850億円にもなると言われています。本来であれば、持ち主に返還されるべきお金ですが、およそ500億円が銀行の雑所得して処理されている現状があります。
そこで政府は、休眠口座を社会のために活用しようというアイデアを出し、2014年度に正式にスタートすることが決定しました。今回の放送は、休眠口座とは何かをあらためて考えるとともに、現在の政府決定以上に適切な使い道はないのか、ゲストに、民主党の鈴木寛参議院議員、NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹氏を迎えて、徹底議論しました。
【出演】
司会：大谷広太（BLOGOS編集長）
アナウンサー：木次真紀（元山陰放送アナウンサー）
コメンテーター：須田慎一郎（ジャーナリスト）
ゲスト：鈴木寛氏（民主党・参議院議員）
駒崎弘樹氏（NPO法人フローレンス代表理事）
銀行の収入にすべき？国のために使うべき？
木次：休眠口座とはどういったものなのか説明させていただくと、銀行や郵便貯金に口座を作ったあと、長い間、お金の出し入れをしていない口座のこと。これが休眠口座なんですね。で、この休眠口座に預けたお金というのは、もちろん預けた方のものなんですが、中には忘れていたり、本人が亡くなってしまっていたり、また何かの事情で預けてはいるんだけれども引き出せないということもあります。そこで政府は、眠っているお金をそのままにするよりも、国のため、経済のために使ったほうがいいのではないか。こういうことを提案したわけなんですね。それでスタートしたのが、休眠口座のお金の使い道について話し合う有識者会議です。この会議では、「東日本大震災で被災した子供達の教育に使いましょう」とか、「社会福祉に使いましょう」といった意見が出されました。その結果、政府は、10年以上出し入れをしていない休眠口座の預貯金を2014年度から法的に活用するという方針を正式に決定したわけです。スタート時は、500億円から600億円規模を想定していまして、使い道としては、ベンチャー企業、NPO、震災などでお金に困っている企業へ、低金利での融資や出資などを想定しているということなんですよね。
須田：この休眠口座になぜ焦点が当たったのか、少し補足説明をさせていただきます。今、休眠口座がどういう風に処理をされているのかというと、税務署や国税の指導もありまして、10年以上経ったものについては、一旦利益として計上しなさいと。そのうち、法人税を納めなさいという税務署の指導があったために、銀行は利益にしているんですね。
そうすると、「元々、預金者のお金だったものを、銀行は懐に入れてるの？」という批判も少なからずでてくる。だとすれば、それをもっと、社会のために使うべきじゃないのか…というのが、そもそもこの問題の背景にあるんですね。
大谷：この問題でふと気づいたんですけど、自分も学生時代にアルバイトをやっていて、そこで口座を作ってくれって言われて作って、多分、数百円とか残っているような口座が複数あると思うんですよね。話によると、統計上、日本人は平均で、１人10口座前後を持っているというのがあるんです。海外では、１つか２つらしいんですけど、日本人はたくさん口座を持っていますので、それがチリも積もればで、ものすごい額になっていて、そこをどうしようかというお話が最近でてきたんですね。
木次：その金額っていうのが、年間でどのくらいでているんですか？
須田：800億円って言われているんですよ。
木次：毎年、毎年？
須田：ええ。毎年、毎年、休眠口座で処理をされているお金がそのぐらい出てくるんだと。というところで、このお金の使い道の是非を言うよりも、そもそもなんでこういう議論がでてきて、使い道のないお金があるとするならば、それを有効に活用する。それは私も大賛成なんですけど、その使い道を含めて、駒崎さんに伺いましょうか。
駒崎：国の会議で、休眠口座を活用した新しいセーフティーネットを作ったらどうかという提案をさせていただいたのが2011年でした。それを2012年に取り上げてくださったっていう経緯の中で関わりをいただきました。
元々ですね、我々はNPOで、貧困状態にある１人親の支援をしてきたんですけど、その中でふと気づいたのが、貧困状態にある家庭の人達がお金を借りる場所がないなと。銀行はもちろん貸してくれないですし、あるとすれば消費者金融ですよね。
しかし、消費者金融というのは、厳しいですし、利子も高い。闇金になるともっと高いですね。そうなると、これはかなり厳しい状態になるなと。だから、「子供が塾に通いたい」とか、「学校に入りたい、でも入学金は？」と思った時に貸してあげることができれば、どれほど助かるだろうにと思ったんです。そんな時、ある外国の人から「うちの国に、休眠口座を使って少額融資をする仕組みがあるんだよ」と言われて、「それを日本でも出来ないかな」と思って、調査し始めたのがきっかけだったんですね。それから色々なNPOの人たちが興味を持ってくださって、今はNPO業界全体で、この休眠口座を使って、社会的によりよい融資や投資をしていこうじゃないか…という雰囲気になりつつあります。
木次：政府への提案者ということですか？
駒崎：みんなで提案していますので、提案者の１人ですね。
須田：今、駒崎さんのお話を伺って思ったのは、逆から考えてみると非常に分かりやすいんじゃないのかなと。今、日本国内においてお金を借りたいんだけど、借りられない。かといって、所得が少ない、あるいは資産が少ないということでお金が不足している人たち。そういったところにお金を提供する、融資をする、資金提供するということが、ほとんどないんですね。
かつては、消費者金融やヤミ金が、弱者金融の最たるものだったんですが、「そこに任せといて大丈夫なんですか？」という問題提起があるんだろうなと。そうすると、経済的に恵まれていない弱者にどうやってお金を出していけばいいかという中で、休眠口座を活用できないか？そういったお話ですよね？
木次：鈴木さんも大きく頷いてらっしゃいますが、今回は与党代表という雰囲気でお越しいただいた雰囲気もありますけど、いかがでしょうか？
鈴木：一番最初の場は、「新しい公共推進円卓会議」。ここで、駒崎さんから提案がありました。その会議では、これまで所得から経費として引いていた日本の寄付税制を、税額控除というものに変えました。これは寄付文化を作っていこうという意味があります。それと同時に資金調達ができない。そういう中で、駒崎さんから提案があって、それは是非、前向きに受け止めて進めていこうと。そんなわけで、１年弱ぐらい検討しまして、政府与党としては2014年からやりましょうということになりました。
ただ、使い道ですとか、どういう風に運用していくのかというのは、これからなので、今日の議論を通じて、深めていきたいと思います。
それと、先ほど須田さんが話していたことが非常に重要で、これまで休眠口座は、銀行の雑所得になっていたんですね。それはそのままでいいのか？それとも、世の中のために使うのか？この２者選択の議論なんだということは、みなさんにもご理解いただきたいと思います。
須田：そのへんは、駒崎さんが銀行に、粘り強く説明されたんですよね？
駒崎：そうです。
須田：段々、銀行の理解も広がってきている。そういった意味で言えば、社会的な金融のほうも、盛り上がってきているんじゃないかなあということですよね。
韓国とイギリスでは、すでに実現
木次：先ほど、「海外でこういうケースがありました」という話をされてたんですけど、海外はどういう状況なんですか？駒崎：例えば、イギリスではジェームズ・キャメロン首相が、“大きな社会政策”という考え方を打ち出したんですね。これは“小さな政府で、社会は大きく”ということです。
例えば、これまで、貧困などの様々問題を国が解決していたけれども、なかなかそれを政府が解決できない。むしろ国がやるとムダが多い。だから、政府は小さくしようと。だけども、NPOとか企業など、社会の色んなところがドンドン解決して主役になっていくというのが、イギリスの今の政策です。それの軸となる政策として“ビッグ・ソサエティ・キャピタル（大きな社会銀行）”を作ったんですね。それで、この原資が休眠口座だった。つまり、イギリスでは、こういうことを先行して行なっている。そして、NPOであったり、社会福祉団体にもお金を貸してますし、貧困層への貸し出しというのも行なっているんですね。
これはイギリスだけでなく、お隣の国・韓国でも実現しているので、そういった意味では日本にできないってことはないですよね。だから、日本でもやっていきましょうという話になっています。
木次：問題点はなかったんですか？
駒崎：もちろん、やっていこうと打ち出した時、イギリスの一部の銀行からは「えっ！？」みたいな話はありましたし、韓国でもそういうことがありました。
大谷：銀行とか民間からも、お話としては上がってきていたんですか？
駒崎：そうですね。特に、韓国の場合は、国民がかなり“やっていこうよ”と。“銀行も休眠口座を自分の物にしちゃうんじゃなくて、国がこんなに大変なんだから。やっぱり国民に行き渡らせようよ”という強い動きがあったと聞いています。
大谷：確かに使い道としては、国が音頭を取って、国が使い道を決めてという風になってくると、“それは税金でやったらいいんじゃない？”という議論も出てきてしまうと思います。国がやっているところと、銀行側や民間から出ている使い道も含めて決めていくという点が、今は非常に見えにくいのかなと思っています。
駒崎：「税」という形で、徴収した場合は“国庫”に入ってしまうので、そこで見えなくなってしまいますね。だけども、今回は「税」ではありません。国民から税金を集めるというよりは、滞留されているお金を使っていきましょうねと。
あとこれは大切なんですけど、返して欲しいという方が来た時には必ず返すそうです。だから、持って言っちゃうとか、盗まれるという話ではないんです。
じゃあ、そこで「税」でやれないことをしていこうと。例えば、少額の貸付。これは今まで税金ではできなかったので、やっていきましょうという話になっています。あと、国や機関の天下りという話も出てくるので、どちらかというと民間寄りで、透明度の高い経営をして、きっちり国民に見える形で貸していこうという感じにはなっています。
官と民間で形成する新システム
須田：これまで信用力の低い人達に対する資金提供は、なかなかできてこなかったんだけれども、国民金融公庫みたいな機関があるじゃないですか。こういったところが、機能を拡充して、そういった役割を果たすことはできないんですかね？鈴木：元々、日本の民主主義の在り方みたいなもので。これまでの日本というのは、とにかく全部国家にいれて、国会議員の中で決めていくとした。先ほどの寄付の税額控除の話にしても、それと違う公のお金の流れを作るのか、作らないのかという話なんですよね。
アメリカっていうのは、むしろ税で使う以外に、自分の意志で、本来税金にまわる部分を、寄付先に決めていく、融資先に決めていくんです。もちろん、公共性の高い分野ですけれども。
間接民主主義で、税金の使い方も、代議士とか選んだ議員に全部任せるのか。その部分はもちろん、社会の中心としてあるんだけど、それ以外の部分を少し膨らませていくのかという国の在り方なんです。
さきほどの須田さんの議論でいうと、これまでも政府系の金融機関はありました。今でもあります。いわゆる政府系の低金利融資はあります。しかし、これも国会議決事項なんですよね。だからこれは、従来型の間接民主主義で、我々を含めて、国民のみなさんに選んでいただいた議員やあるいはそれの原案を作る官僚に丸投げするのか。当然、融資の仕組みも、役所が原案を作って、国会議員が承認していくということですから。
それで全部、世の中がうまく回っていたのか？しかし、それよりも２つのシステムをうまく組み合わせたほうが、もっともっときめ細かい大事なところに行くんじゃないかっていうのが、元々の発想で。従来、「官」のみが担っていた、公の仕事というものを、まさに市民のみなさんが直接担っていく部分も作っていこうという流れなんです。
大谷：駒崎さんが、今まで国がやっていた保育の部分をやろうとしている点と、リンクする部分があるかもしれませんね。
駒崎：そうですね。国だけにそういう…
鈴木：「国」っていうか「官」ね。
駒崎：「官」ですね…まあ、官だけだと不安定といいますか。幾重にもセーフティーネットが張られているという状況をこれから作っていかなきゃいけないという意味においては、民間でやる意味はあるんじゃないかなと思いますね。
資金提供による貸し倒れは起こらないのか？
須田：そうすると、駒崎さんがイメージしているのは、先ほどの休眠口座の活用法でいうと、やはり経済的な弱者というところが、資金提供する主体ですよ…ということですか？駒崎：我々はNPO側の人間なので、日々触れているのが、そういう人々ですよね。できたら、なかなか金融の恩恵を受けられない人にお金が回るようになったらいいなという思いはあります。ただ、政府は政府で思いがあると思うので、そこはちょっと議論していかなければいけないんじゃないかなと思いますね。
鈴木：そこはまだ白紙なんですよ。白紙なんですけども、民間といっても２つあって。いわゆるビジネスの論理とそれからまさにNPOなどのノンプロフィット組織。
例えば、ベンチャーについては、ベンチャーキャピタルなどの、ベンチャーに対する金融のマーケットがあるわけですから。それもまさに、ビジネスでやれるところを、休眠口座でやる必要はないわけですよね。今もすでにできているわけですから。
「官」の論理にもハマらないし、いわゆる民間ビジネスの論理にもハマらないところで、抜け落ちている分野に、こうした資金が回っていく。そこに意味があるんです。結局、500億というのは、ものすごい金額なんですけども、日本全体の金融マーケットからすれば、非常にパーセンテージは少ないわけですよね。
そういう意味では、いわゆる採算性という点だけ考えると、小さいNPOとか、社会性の高いソーシャルビジネスとかには、民の論理では、人件費や経費といった管理コストのほうがかかってしまう。そのために、なかなか着手されないというところを、NPOなどがみんなで協力すれば、そういうマーケットは生まれるんじゃないかと思います。
実際、マイクロクレジットの貸し倒れ率は、民間の金融取り引きよりもよっぽど低い。ほぼゼロに近いような事例も出ていますからね。
須田：数年前に、グラミン銀行が脚光を浴びて、日本でもマイクロファイナンスの必要性といえばいいんでしょうか。信用力の低い人達、経済的な弱者に小口のお金を貸すことの必要性がずっと言われてきたんだけど、なかなかその仕組が整ってこなかった。そういった意味で言うと、今回、それに対する１つの解決策が出てきたのかなと思います。
しかし、その一方で、「この人に貸したら本当に返ってくるのか？」「貸し倒れは起こらないのか？」など非常にテクニカルな部分では、専門性が強いところはありますよね。例えば、新規参入した新銀行東京や日本振興銀行が大失敗に終わってしまった。休眠口座を使うという点は賛成なんだけども、ノウハウを持たない人がやってしまうと、結果的に不良債権の山を築いたということにはならないんですか？
駒崎：実際、新しく作る社会的な金融機関が直接困っている人に貸し付けるということになると、同じような問題が出てくると思います。ただ、今でもNPOバンクというのは、あるんですよね。非営利の銀行のようなことをしている人たちとか、信用組合や信用金庫と呼ばれる非営利な金融機関です。そういったところに、無利子で貸すと。そしてそこが低利子で貸すっていう形にすれば、実際の貸し手というのは顔が見えて、ノウハウもある人達なので、そういった問題に対するリスクは、かなり下げられるんじゃないかなと思いますけどね。
ですから“コールセール”というと、専門用語になってしまいますが、対団体・対金融機関に貸して、そこが小口で貸していくというイメージですね。
須田：専門用語でいうと、“第二貸付”というのが、それに当たりますよね。お金はあるんだけども、営業拠点がない場合に、既存の金融機関と提携をして、代わりにお金を貸して、手数料を支払いますよというやり方は、十分成り立つんだろうなということですね。
鈴木：ただ、新銀行東京の場合は銀行ですから、当然、銀行法に基づいて、BIS規制を始めとする金融庁の基準とかになりますよね。その問題は何かというと、数値化できないものは、判断材料として扱いづらい。本来、金融というのは、昔は“目を見てます”っていうところになっていたんだけども、かなり金融っていうものが数値化された。しかも、大きくなってしまうとそうならざる負えない。
NPOバンクというのは、厳密にいうと金融機関ではないわけで、まさに人と人との関係性、あるいは、財務諸表などと同じような数字の状況であっても、貸す相手であるNPOがどういう活動をこれまでしてきたのか。それから、我々はソーシャルキャピタルという言い方をしていますけど、そのNPOがどういう社会関係資本を持っているのか？そういうことにも着目しながらNPOバンクは貸す相手を選んでいる部分があるんですね。
ただ、既存の金融機関は、社会関係資本のような、客観数値化が難しいものは、金融判断の指標にはならないんですね。もちろん、全くゼロというわけではありませんが、それをもって、決済を通す、あるいは社内の手続きを通すということはできませんので、それはやっぱりNPOバンクと既存の金融機関は決定的に違うと。ですから、NPOバンクへ流していくことにニーズがあるんですね。
借りるためのルール作りが必要
木次：須田さんは、活用する時にはどういう風に運用していったらいいと思いますか？須田：休眠口座の預金といっても、非常に公共性が高いんだろうと思うんですよ。だから、その資金の行き先が特定の場所に偏ったり、特定の人達がお金を借りられるような状況は避けなければならない。やはり公共性が高い形でお金を貸していく。そういう点から考えていくと、そこには、資金使途であったり、借りるための資格といった一定のルールが必要になってくるんではないのかなと思います。そのルール作りというのを、どういう形でやっていくのかということも、大きな課題だろうなと。
木次：審査基準というのは、どういう形であったらいいと思いますか？
駒崎：それはこれから国民的な議論をしていったほうがいいかなと思いますね。例えば今、クラウドファンディングっていう分野がありますよね。インターネットで「私、こういう人達を救いたいから寄付して」と呼びかけて、100円ずつ寄付してもらって、10万円集めるみたいなものがボコボコ出てきているんですよね。
つまり、インターネットを介した直接金融というのがスタートしています。これってすごく民主的だなって思うんですよね。そういう形で、ある程度みんなが参加できるような金融の在り方っていうのを、ここで模索してみようじゃないかというのも可能ではないかと。
これまでは銀行の一部の人だけが審査をしていた。それもある指標に基づいて行い、連帯保証をとっていったのかもしれない。だけども今後は、「こういう人達が“貸して”って言ってるんだけど、どうですかね？」という風に、例えばネット上でポイントをつけるなどして、開かれた直接金融の形っていうのがとれるんじゃないかなという思いもあります。“どういう風に貸していくか”という国民的な議論をしていかないといけない。そういう意味において、政府が勝手になんとなく作りましたというのではなく、ニコ生の人達から意見をもらったり、色んな人達から意見をもらう中で、形作っていくというのが望ましい方向なんじゃないかなと思いますね。
須田：私、こう考えるんですよ。借金というのは、銀行から借りようが、闇金から借りようが、NPOから借りようが、どんな形を取るにせよ、将来所得の前借りなんですよ。将来所得を前提にお金を借りてくるわけだから、必ず返さなきゃならない、返す必要がある。その分だけ、将来的には限界があるんですね。
そう考えていくと、経済的弱者っていうのは、このままで行くと、低所得がずっと続いていくけども、マイクロファイナンスなどがお金を貸す事によって、将来的には所得がアップしていくんじゃないか。経済的には豊かになっていくんじゃないかと。
何もそれは、直接商売のお金を貸すんじゃないですよ。例えば、教育資金を貸して、高卒・大卒の資格を得られれば、当然収入が増えてくるようなこととかね。そういったことも含めて、使われるべきじゃないのかなと思いますけどね。
鈴木：今の須田さんのお話は全くその通りで。今、金融機関以外で公的なファイナンスとして、歴史やボリュームもあるのは、奨学金の世界なんですよね。基本的に、金融機関の場合は、未成年には貸せません。私は大反対したんですけれども、実は2001年ぐらいに、日本育英会を廃止しちゃって、国民金融公庫にすればいいんじゃないかという話がありました。
その理由は、国民金融公庫といえども、結局親に貸すことになるんですね。あるいは、成人以上に貸すことになるわけで、大学１年生とか大学２年生は貸し手になれないわけですね。奨学金の場合は、18歳であっても、19歳であっても、学生に貸していくっていうことになります。ここは既存の金融機関ではカバーできない話です。
それから、使途なんかも、まさに“学費”みたいなところで。まずは、若い人達の奨学資金プラスアルファ。今は、奨学資金もかなり充実してきましたから、むしろ、国立なんかは、授業料の部分はほぼ賄えるけれども、生活もある。そういった点は、今はまだどうしても民間に頼らなくてはいけない部分もあります。あるいは、私立の学生だと、今の枠ではなかなか対応できないという部分もありますからね。まあそういったようなことからはじめて行くのも手かなとおもいます。
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教育を平等に受けられる社会へ
大谷：昨年震災も起きましたので、“復興に充てる”というのは、みんなの合意が得やすいという気がしているのですが、どうしてもベンチャー企業への投資というのは、合意が得にくいものなのかなと、お話を伺っていて思うんですよね。須田：今、奨学金という話がでましたけど、東京都板橋区では非常におもしろい試みをやっています。それは、生活保護受給世帯の子供達に対して、全日制の私立高校に入る授業料・入学金をゼロ金利で貸しているんですよ。
なぜそんなことをやっているのかというと、生活保護の受給世帯の子供達っていうのは、きちんとした教育が受けられないんですね。それで、今の教育システムの中で、公立の小学校・中学校を９年間学習しても、全日制の公立学校に入れない。そうすると、当然のことながら選択肢は２つしかなくて、１つは公立の定時制、もう１つは私立の全日制。
しかし、定時制に入ると、なかなか卒業率が上がっていかないんですね。とはいっても、全日制の私立だと、入学金だとか授業料が払えない。結果的にそういった子供達は、“中卒”という学歴しかもらえない。つまり、板橋区の狙いは、そのような子供達が将来の生活保護受給予備軍になる可能性があるかもしれないということで、そこに歯止めをかけたい。そのためにはまず、高校卒業ぐらいの学歴を持って欲しいということで、融資をはじめていったんです。
今は板橋区がやってますけども、そういった取り組みというのは、今の仕組みの中ではフォローできない状況になっているわけですよね。だから、大学うんぬんというところよりも、もっともっと底辺の、生活保護受給世帯、経済的弱者に対する融資というのが、非常に馴染み深いんじゃないかなという感じがしますよね。
駒崎：一方で、児童養護施設っていうのもあります。昔で言うところの孤児院です。今は虐待された子供達が入っていることが多いんですけども、その子達って、大学に行きたいと思ってもなかなか行けない。一般の家庭の子供達の大学進学率が約50％に対して、児童養護施設の子供達の大学進学率は約16％。なぜかというと、それはお金がないからなんです。高校を出るとすぐに「はい、生活してください」ということになってしまう。それはやっぱり公正ではないですよね。
どんな家庭に生まれたとしても、頑張ればチャンスはあるという形で、機会を提供できるような社会じゃなきゃいけないなという風に思います。そういう子達に、４年分の生活費プラス授業料といった奨学金を渡せればいいわけです。現に今、児童養護施設のすべての希望者に奨学金を与えたとしても、210億ぐらいしかかからないんですよ。だから300億あったら、すべての児童養護の子供達が大学に行けるわけですね。だから、やっぱり有効に使わないといけないなと思いますね。
融資のポイントは、どうやって取り立てるか。
大谷：管理団体について、今は一括して預金を管理する組織が立ち上がるという構想もあると思うんですが、それは順番として、使い道が決まってから、そこの団体を作るのか？あるいは、使い道に応じて、例えば、複数の団体を作っていくのか？その点に関してはどういったイメージになっているでしょうか？鈴木：今は、国とは切り離された団体を１つ作って、そこは非常に透明性を高くする。管理監督は金融庁でするけれども、基本的に天下りなどはできないような形で、そこが休眠口座の管理をしていますよと。「貸し先は、基本的にそういった団体にして、制度を作ってリスクを下げます」となんとなく言われている感じなんですけど、詳しくは金融庁が調査中です。
大谷：なぜ気になったのかというと、やはりどの分野にというので、専門性や批准など、そこに必要な人材というのも、やはり相当違ってくるんじゃないかと思っているんですね。だから、そこが決まらないまま、そういうところができてしまうと、使い道などを含めて、基準がぼんやりしちゃうんじゃないかなという気もしているんですが。
鈴木：例えば、参考までにいうと、イギリスの休眠預金の管理財団は22人のスタッフで運営しています。韓国の場合は20人。なので、大体そのぐらいで運営できるだろうと。他のプロフェッショナリティに関しては、そういうプロフェッショナリティを持ったNPOと連携するとか、企業と連携していくというような形でやっていけるんじゃないかという風に思いますね。
須田：もう１つ心配な部分があって。融資っていうものが一番大事なところは、お金を貸す時の審査とかじゃないんです、回収なんです。どうやって取り立てるかなんですよね。だから、借りる時は仏様みたいな扱いをしていて、「返せ」と言ったら「鬼だ！」みたいなところがある。特に経済的な弱者からどうやって回収していくのか。そのノウハウっていうのは相当難しいんじゃないのかなと。
大谷：育英会もお金が返ってこないというのが統計上問題にはなっていますよね。
須田：ただ単純に、さら地にお金を撒くような形になってしまうと、この制度そのものの有効性に疑問符がつけられてしまうわけですから、そのあたりの見通しっていうのはどうなんでしょうか？性善説に立っていると、あとで手痛いしっぺ返しを食らうんじゃないかなという感じがするんですけども。
鈴木：本当に大事な問題だと思いますね。ただ先程、NPOバンクの話がありましたけど、すでに日本でもいくつかのNPOバンクができていて、回収も含めて、普通の金融機関よりよっぽど健全な経営をしているわけですね。
もちろん、最終的な責任や制度設計、運営の責任というのはしっかりとしていかなければいけないんですが、様々な部分で日本には専門家がいますから。そうしたところと、委託をするにしても、連携をするにしても、総力を結集してやっていくということですね。
今後も増える！？休眠口座
大谷：今の時点だと、直近で大体年間800億円ぐらい休眠預金と呼ばれるものがでていて、そのうち300億円ぐらいが元々預金していた人に還っていく。そうなると残りの500億円ぐらいをどういう配分でやっていくかという話になるんですけども、これは10年後も、20年後も同じぐらいの額が入り続けるということなんでしょうか？極端に減少する心配はありませんか？鈴木：人口の減少と共に、微減していくでしょうね。ただ大幅に下がっていくということはないんじゃないかなあと思いますけどね。
須田：むしろ、しばらくは増額していきますよ。やっぱり団塊世代の預金というのは、ものすごい大きな塊であるんですよね。恐らくそういった人達が少しずつ死んでいく。それに伴って、今回の休眠口座っていうのがしばらく増額していく方向で、10年、20年ぐらいはシフトしていくのかなと。
退職団塊世代の休眠口座が発生する前に、それをうまく活用する仕組みを作っておくことに意味があるんじゃないかと思います。そこで一旦プールしたお金が出来上がれば、それを回していけばいいわけですから。
駒崎：確かに、今自分が亡くなった時、自分の銀行口座を誰が引き出せるのかというと、かなり難しいんですよね。そういう活動をしていたNPOの人に聞いたら、ブラックユーモアで「亡くなる前に、自分の銀行口座はきちんと引き落としておこうね」と話すぐらい大変なわけです。ですから、亡くなったりすると、口座が休眠しやすい部分があるので、我々預金者も注意しなくてはいけないですよね。
大谷：それとセットで、亡くなった方のご家族に、預金を戻しやすくするといった制度も必要かもしれないですね。
駒崎：おっしゃるとおりですね。イギリスでも韓国でも、自分の休眠口座を探しやすくするという措置を取っているんですね。あと「口座を忘れないでね！取りに来てね！」という広報もちゃんとしているんですよ。ですから、活用すると同時に、休眠口座に対する啓蒙・啓発という事業も一緒にやっていくべきかなと思います。
須田：駒崎さんと鈴木さんに、本音の部分を伺いたいんですが、マイクロファイナンスであるとか、グラミン銀行的なモノの必要性というのは、常に日本でも指摘されてきましたよね。それに対する答えが、休眠口座の活用しかなかったというのは、少しさびしくないですか？もっと他に仕組みはないのか、整備されてこなかったというのは、ものすごい寂しい感じがするんですけども、その点はどうなんでしょうか？
鈴木：おっしゃるとおりだと思いますね。もちろん、NPOバンクでも頑張っている方がいらっしゃいますから、ゼロではないと思うんですけども、やはり一番の問題は、まだまだ原資が集まりにくい。それは結局、「公の仕事というのは、税金で官がやればいいんだ」というのが、まだ根強いですよね。
須田：それは、我々の側に問題があったと？意識の問題ということでしょうか？
鈴木：逆に言うと、「官に公のことは任せておけばいいんだ」ということの裏返しでもあるんですけども、そこを今まさに転換していこうというのが、新しい部分ですよね。グラミン銀行なんかは、官のシステムがしっかりしていないところでやっていましたし、国連も色々なことをやってましたけど、どうしても光の当たらないところに、ああいう仕組みが入っていくわけですよね。
そういう意味では、もちろん休眠口座も１つのやり方ですけど、それ以外のことも、もっともっとやっていかないといけない。そうなると、個人から寄付を集めて、それを原資にして、NPOバンクをもっと充実させるとかですね、税制は先程申し上げたように、１年前に変わりました。
あとはやはり、国民のみなさんの意識も含めて、そうしたことに対して、自分達の身銭を投じていくのかと。一番最初の議論に戻ってしまいますけども、公というものを、お金を含めてどういう風に作っていくのかと。
ただ、僕はこのことを全然悲観しているわけではなくて、1995年に起きた阪神淡路大震災の時に「日本ではボランティアは流行らない」とまことしやかに言われていたわけですね。
しかし、阪神淡路大震災以降、今回の東日本大震災も含めて、日本のボランティアってすごいですよね。あるいは、教育関係でも、今や１年間に647万人のボランティアがいるんです。これは、この２、３年で急増しているんですけども、ボランティアが定着しましたよね。まさに休眠口座の議論も含めて、寄付税制というのが抜本的に変わったと。税制だけで言えば、アメリカに相当近づいたと思います。
あとは「寄付文化」というものが、これから５年、10年かけて、私は出てくると思いますし。今回の東日本大震災を見ても、あれだけの募金が集まったわけですから、それはこれから大いに期待できるし、みなさんに色々なことを考えていただく１つの起爆剤になっていけばいいなと思います。
銀行は何もしてこなかったのか？
木次：BLOGOSの中でも、休眠口座については、多くの意見が寄せられているんですよね。大谷：そうですね。今回、鈴木先生と駒崎さんにお話を伺っていると、財源として休眠口座があるということだと思いますけれども。どうしても一般論として“10年経ったら、銀行の利益になっているっていうのは、けしからん”みたいな話がありますよね。
寄せられたご意見も、「銀行は本当に努力をしているのか？」というものが多くて、そこから議論が出発しているような感じもあるんですけども。
駒崎：そこをフォローすると、銀行も一応「今返して！」と言われたら、10年経って人でも返しているという意味では努力していると思いますし、そこの部分にかかる税金っていうのも、払ってらっしゃるはずなんで、「銀行が悪者です」という感じよりも、システム上、そういう風にされているんだと思います。
ただ滞留してしまっていることだけは事実ですし、まだ銀行が貸せない領域があるっていうのも事実ですから、これを機会にそういう金融の恩恵を、より広い人たちに対して提供していこうよという風に捉えていただけたらいいんじゃないかなと思います。
須田：仕組みの上からにしても、私は合致するんじゃないかと思います。どうしてかっていうと、ちょっと難しい話になりますが、銀行のバランスシートでは、負債っていうのは預金なんですよ。資産っていうのが、貸し出しだとか株式で成り立っているんですね。
シンプルに言えば、預金を負債で預かって、貸し出しという資産に計上していく。これが銀行ビジネスなんですよ。そうすると、こういう休眠口座というのがあって、これを何らかの形で運用するのは合って当然なんじゃないかなと。
仕組みの上からも、金融の上からも、これは非常に正攻法なあり方なんだろうなと。今までそれが活用されてこなかったということが、逆に言えば残念だった。
ただその一方で、預金を集めるというのは、銀行にとっては非常に聖域なんですよね。勝手に預金を集めることはできなくて、不特定多数からお金を集めると出資法違反になって、刑事的責任が問われてしまう。
ということで、銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫などしかお金というのは預かれないんですよね。ですから、銀行はそれに対してものすごく責任を感じていて、表には出てこないけれども、一生懸命、追跡調査をやっていることは間違いない。銀行に対する批判があるのはわかるんだけども、銀行はそれなりにこだわりを持ってやってきた。じゃあそれを、両方が折り合えるところで、うまく活用するにはどうすればいいのかというと、先ほど申し上げたようなバランスシートをイメージしてもらえれば、当然合っているシステムだと思いますよね。
鈴木：おっしゃるとおりだと思います。それに日本というのは、諸外国に比べて、口座管理手数料が非常に低いですから。そういう意味でもWin-Winでがんばっていただければいいんですけど。
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海外での認識は？
木次：番組をご覧の方から質問をいただいております。大谷：埼玉県にお住まいの40代の方から。「休眠口座について海外では国民の認識は高いのでしょうか？私は今回初めて聞いたのですが、世論の合意は取れたのでしょうか？」
そもそもみなさんあまり知らなかったという話もありますが、海外では使い道など、どうやって合意形成しているのでしょうか？
駒崎：国にもよりますが、アメリカだったら、問答無用で州の金庫に行っちゃって、よほどのことがなければ返してもらえない…という州もあります。一方、シンガポールみたいに、銀行が手数料を取るのは当たり前だから、休眠していたら、手数料をバンバン取られて、口座維持費用がなくなり、口座そのものがなくなる国もあります。
国によって様々なので、一概には言えないんですけど、休眠口座を社会的基金にしたイギリスは、国民がそういったところにお金を回して欲しいということをきちんと届けたわけです。韓国も同じです。やっぱり国民の同意がないと、こういう政策はどの政党であってもできません。
ただ、国民の同意が取れたのかというのは、何で調べていいのかわからないですけども。「ここまでいったから取れた」ということでもないと思うので、これからもっともっと議論していって、コンセンサスを広げていく必要があるかなと思います。
大谷：千葉県の30代男性からはこんな質問が届いています。「海外ではビジネスと低所得者層への支援。どちらが中心になって行われているのでしょうか？」使い道としてどうやった分野が多いのかということですが。
駒崎：国によります。韓国は低所得者支援とか、子どものための保険とか、弱者支援の要素が強いですね。イギリスの場合は、ビジネス。企業の立ち上げの時に、社会的な意義を持っているようなNPOやソーシャルビジネスへの支援が手厚いですね。
大谷：東京20代男性。「10年以上使われていないお金ということですが、こうした発想は土地などにも適用できないでしょうか？今まで使われていない資源を使うという発想は、休眠口座以外でも使用してみては？」
これはまた、相続税などの考え方の問題にもなってくるとは思うんですけども。
須田：これは、財産権の問題にも抵触しますからね。やっぱり休眠口座の活用で乗り越えなければならないのは、個人のものをいくら強力な理由があるにせよ、それを勝手に使っていいのか…っていうね。そのあたりの、超えなきゃならないハードルが高いんだろうと思うんですよ。だから、先ほどから出ているように、国民的な合意形成をどうしていくのか。この手続きを丁寧に慎重にやっていくべきだと思いますけどね。
鈴木：おっしゃるとおりで、これまでのいわゆる休眠口座について、新しい使い方をしようというわけではないんですよ。当然、国会で決まった法律で「今後こういう風にしますよ」という国民的議論と当然国会でも議決権があって。「何月何日以降は、こういう取り扱いにします」という話ですから、今ある預金が、遡って使われることでは全くないんです。
大谷：発表では2014年からという話がありましたが、それから何か決まった場合は、口座を作った時には、「10年以上出し入れがなかった場合には、銀行に残ったお金が奨学金に使われるかもしれませんよ」みたいな話が「運用」という形になっていくわけですよね。
新たなセーフティネット
木次：最後に、休眠口座のお金でどんなことができるのか。鈴木議員からお聞きしましょうか。鈴木：やはり私は若い人達ですよね。若者に対する投資・融資。やっぱり返ってきますからね。そこをさらに、充実させていきたいなと。どうしても今までの“官の論理”だとか、民間企業の論理とかがありますからね。
木次：駒崎さんはいかがでしょうか？
駒崎：みなさんのコメントで「政府決定したんじゃないの？」と書いていらっしゃる方がいました。確かに政府決定で「やろう」というところまでは、大枠で決まったんですけど、どういったところでしようかというのは、まだ白紙なんですよね。ですから、みなさんがドンドン色んな意見を言っていただいて、それを政策化していくというプロセスなので、関心を持っていただけたら嬉しいなと思います。
また、今後、政権交代が起きたとしたら、休眠口座の使い道が忘れられてしまって、おざなりになっちゃう可能性もあるんですよね。ですから、国民のほうから、きちんと声をあげて「決めたんだからやろうよ」という風に言っていくことが、すごい重要かなと思いますね。
須田：そういった意味で言うと、まさに駒崎さんが番組冒頭で言われたキーワード「セーフティーネットの１つなんだ」。これは非常に大きな意味があるんだろうと思うんですね。今年の１番大きなテーマといえば「税と社会保障の一体改革」というのがありましたよね。この前の社会保障制度というのは、年金・医療・介護なんだけども、その一方で、生活保護の不正受給問題などがでてきて、社会保障制度がほころび始めているぞと。経済的弱者に対して、非常に厳しい世の中がでてきている。
その結果、どういうところにハレーションが出てくるのかというと、例えば失業の問題であるとか、自殺の問題であるとか、色んなところに負の影響が及んでいるんですよ。それって１つのことだけをやれば解決するのではなくて、政策総動員でやっていかなくてはならない。その総動員の中の１つが、休眠口座の活用であると位置づければ、非常に意義のあることではないかなと思います。
木次：休眠口座に関して「使ってください！」と思う方もいらっしゃるかもしれないんですけど、今一度確かめて見ることも必要なんじゃないかと、最後に思っちゃったりするんですけどね。
須田：仏壇の引き出しとかね（笑）
木次：色んなところにあるんじゃないかなと思うんですけどね。
駒崎：まあ、取りに行くために大阪まで行かなきゃいけないとか、休眠する理由は色々あるので。本当に確かめながら、休眠口座のお金で世の中を回していこうという思いがあれば、関心を持ってもらって、声をあげてもらえたらいいんじゃないかと思いますね。
大谷：税金っていうのは、なんとなく天引きされていくので、もちろん、いいことに使って欲しいという思いは必ずみなさんあると思うんです。ただ預金となると、元々自分の持っていたお金が、どっかで使われちゃうことになるわけで、心理的抵抗みたいのがないのかなと思うんですよね。
そんな中で、鈴木先生もおっしゃっていたように、寄付の発想なんです。マイクロファイナンスとか、見せ方とか、どういう説明をしていくのかっていうところで、口座を作る時に、そういう説明をきちんとしてあげれば、数百円とか数十円かもしれないけれども、良い事業に使われるんだったら…というところをどうやって浸透させるのかが重要なんじゃないのかなと。
須田：それから大谷編集長が番組の中で「塵も積もれば」という話をされたじゃないですか。確かに年間500億。休眠口座自体は800億ぐらい出たんですけども、これが10年間続くと、5000億から8000億。どの程度の規模なのかというと、中規模の上の信用金庫ぐらいになるんですよ。結果的には、それが使われず滞留しているということは、社会的なロスですよという部分も考えていただいたほうがいいんじゃないかなと思いますね。
大谷：この議論を進めていく中で、このあとどうなっていくんでしょうか？
鈴木：今回、取り上げていただいたことはとっても大事だと思います。再生戦略の中に入れましたけども、あれだけ分厚い再生戦略の中に、この項目が入っていることをご存知の方は、なかなか少ないと思うんですよね。
お話にもありましたように、制度がカチッと決まったわけではありません。再生戦略の中に入ったのは、「2014年を目途に、制度をきちっと作りましょう、詰めましょう」と書いてだけです。なので、今日のようなことを含めて、よりみなさんに共有されて、10年経ったら銀行の雑所得になるのがいいのか。何をどうするのがいいのかっていうことを、ぜひ議論していただければいいなと思います。
口座で眠っている私たちの預金の使い道が焦点となっているが、果たして本当に意味のある使われ方をするのか？復興財源のようにデタラメな使われ方はされないのか？政治に対する国民の信頼という預金残高が、限りなくゼロに近い今の日本。休眠口座をどう使うのかが信頼回復の一端を担うはずだ。
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出演者プロフィ－ル
民主党 参議院議員：鈴木寛（すずき かん）前文部科学副大臣、民主党政策調査会副会長 元通産官僚、スポーツ政策、教育政策のスペシャリスト
・オフィシャルブログ
NPO法人フローレンス代表理事：駒崎弘樹（こまざき ひろき）
「休眠口座国民会議」呼びかけ人。1979年東京都江東区生まれ。慶応大学総合政策学部卒業。「子どもが熱のときに預かってくれる場所がほとんどないという『病児保育問題』を解決し、子育てと仕事の両立が当然の社会を創ろう」と、05年4月に全国初の非施設型・共済型病児保育サービスを開始。2007年ニューズウィーク「世界を変える社会起業家100人」に選出。10年からは待機児童問題解決のための小規模保育サービス「おうち保育園」を開始。2011年内閣官房「社会保障改革に関する集中検討会議（座長：菅首相）」委員に就任。著書に『「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方』、『働き方革命―あなたが今日から日本を変える方法』など。
・公式ホームページ：NPO法人フローレンス
・Twitter：@Hiroki_Komazaki
画像を見る須田慎一郎(すだ しんいちろう)
経済ジャーナリスト。1961年生まれ。東京都出身。
・須田慎一郎の政経コンフィデンシャルブログ
木次真紀（こつぎ まき）
フリーアナウンサー。
1974年生まれ。元山陰放送アナウンサー。
・マイペース！ マイリズム！ 楽しく幸せにイキマショ！
大谷広太（おおたに こうた）
BLOGOS編集長。1981年、熊本県出身。2009年、「BLOGOS」を立ち上げる。
