「悪の首領の手下ではない」石川被告への有罪判決に憤る後援会長 - BLOGOS編集部
※この記事は2011年09月26日にBLOGOSで公開されたものです
「水谷建設が被告人・石川と被告人・大久保に5000万円ずつ渡したのは間違いない」。裁判官が淡々と判決理由を読み上げる中、衆院議員の石川知裕被告は無念そうにうつむいた。中堅ゼネコン・水谷建設から裏金を受けとっていたと認定されたのだ。9月26日の東京地裁で開かれた公判の一幕だ。小沢一郎・民主党元代表の政治資金団体「陸山会」の政治資金規正法違反をめぐる元秘書3人に判決が言い渡された。石川氏ら元秘書3人は執行猶予付きではあるがいずれも有罪。検察の言い分がほぼそのまま通った格好だ。マスコミの注目が集まる中、9倍という高い競争率を勝ち抜いて今回の判決の傍聴券を取ることができた。速報で裁判の様子をお伝えしよう。【BLOGOS編集部：安藤健二】
厳重な手荷物チェックに絶句
小雨模様の東京地裁。「どうせ当たるわけないけど念のため」と、30分ほど前から石川氏の裁判の傍聴券を取るための列に並んだ。地裁の外のテラスに数百人の人が列を作っていた。一般人よりはマスコミ関係者が多いらしく、週刊誌やスマートフォンでニュースをチェックしている人が多い。報道記者席はあるのだが、週刊誌やタブロイド誌など記者クラブに加盟していない社や、フリーのジャーナリストは席に入れないためだ。自分の整理券の番号は190番。締め切り時間になり「422人の希望者のうち46人に抽選で席が当たります」と、係員がアナウンスする。
「倍率9倍か……。これは宝クジよりはマシってレベルだな」と半ば諦めながら、大学入試の合格発表さながらに番号の並んだ掲示板を見ると、何と190番が。「え、当たったの」。運試しのつもりが本当に当たってしまって慌ててしまう。
公判時間は13時半から17時までの長丁場だ。慌てて食事とトイレを済ませて、104号法廷に向かった。しかし、ここから大変。ゲートで金属探知機が鳴りまくったのだ。携帯電話もキーホルダーも、果てはボールペンまで検出された。法廷内では撮影や録音は禁止されているため、デジカメやICレコーダーが持ち込み禁止なのは分かる。
でも、今回は手荷物すら持ち込み禁止ということで、携帯電話と一緒にバッグまで係りの人に預けられてしまった。普通の裁判でここまで厳重なチェックを受けたことはない。今回の事件の政治的な影響の大きさを考えさせられた。
裁判開始直後に走り出す記者達
いよいよ法廷の中に入る。報道記者席を合わせて60人ほどの傍聴席が埋まっている。なぜか緊迫した雰囲気で、報道陣の女性が「30秒前です」などとアナウンスしている。誰も一言も話さず、シーンとしている。「はい、結構です」。法廷がややざわめいて、物音がするようになった。一体何かと思ったらNHKの頭撮りだった。裁判開始前の数秒間の様子をニュースで流すために特別に撮影を許可されているようだ。
人が多すぎてよく見えないが、石川被告ら3人がすでに被告席に並んでいた。まもなく裁判が始まった。七三分けでいかにも真面目そうな登石郁朗・裁判長が判決文を読み上げる。
「被告人・大久保隆規は禁錮3年、執行猶予5年。被告人・石川知裕は禁錮2年、執行猶予3年。被告人・池田光智は禁錮1年、執行猶予3年の刑に処する」
なんと、執行猶予はついたものの、ほぼ検察の求刑そのままの内容だった。今回の裁判において、検察側から証拠申請された石川被告の複数の供述調書が地裁により却下されている。石川被告がICレコーダーで聴取の様子を隠し撮りしていた。その録音データには特捜部の検事が「特捜部は恐ろしいところ。何でもできるところだぞ」などと石川氏を脅す様子が生々しく残っていたのだ。被告人を脅した調書は信用できないため、証拠採用されなかったのだ。
それだけに「無罪もあるかも」と思っていただけに、検察のほぼ完全勝利ともいえる判決内容に絶句してしまった。ダダダッと、速報を伝えるために何人もの記者が走って外へ出ていった。そのまま帰って来なかった人も多かったので、恐らく本社に速報を伝えるためだけに傍聴券をゲットした人なのだろう。私も速報を伝えたかったが、一人しかいないので我慢することにする。
元秘書3人は宙をにらんだまま表情を変えなかったが、石川被告は予想外の判決に意気消沈したのか、時折うつむき加減で元気のない様子だった。雁首をそろえた11人の弁護団の中にも、今回の厳しい判決を前に苦渋の表情を見せている者もいた。
水谷建設の言い分を全面採用
求刑2回を挟み、予定を10分ほどオーバーして終わった。3時間40分の間、延々と裁判長が判決理由を読んでいるだけだが、その内容はスリリングなものだった。判決文では、石川被告ら小沢氏側の無罪の主張は、ほぼ全てに渡って「不合理であり信用するに値しない」と却下。04年10月、岩手県の胆沢ダムの工事発注を得るために合計1億円の裏金を石川・大久保両被告に渡したとする水谷建設幹部の言い分を全面採用した。「水谷建設側は自分にとって不利になる証言をあえて言っている。被告を陥れる理由はないので十分に信用できる」とまで言い切った。
さらに石川被告がかかわった土地取引に関しても、登石裁判長は、小沢元代表から借り入れた土地購入代金の4億円を、石川被告が複数の口座に分散迂回入金をしたと指摘。その後集約して組んだ定期預金を担保に銀行から融資を受けたことを「隠蔽工作」だと断じた。「4億円の原資をめぐる被告人らや小沢氏の説明は信用できない。水谷建設との関係がマスコミにばれるのを避けるために、故意に虚偽記載したのは明らかだ」とした。 こうして、史上最高の立件額となった約21億7000万円の虚偽記載を全て認定することになった。
最後には、「石川被告は、公共工事を業者へ発注する“天の声”を発する立場で資金集めに深く関わっていた」と踏み込んだ上で、本丸である小沢氏についても次のように触れた。
「小沢氏は長年に渡り企業と癒着しており、政治資金の虚偽記載は法律の趣旨を踏みにじるものだ」
裁判長の発言は、小沢氏の政治生命をも揺るがせかねないものだった。10月6日から始まる小沢氏の公判が厳しい物になるのは確実な情勢だ。判決の読み渡しが終わり、元秘書3人が並んで一礼をした。……と思ったら、大久保被告だけ礼をしてない。「よほど今回の判決が不服なのか」と思ったら、数秒遅れて慌てた様子でおじぎをした。達観した様子に見えていたが、やはり心ここにあらずなのかもしれない。
「裁判官が検察の人みたいだ」と憤る後援会長
裁判終了後、手荷物を引き取った後、他の傍聴者に感想を伺うことにし。石川被告の後援会「石川ともひろ足寄後援会」の高橋健一会長の話を聞くことができた。今回の判決を聞くために、北海道足寄町から駆けつけたのだという。
―今回の判決をどう思われますか？
「本当にショックです。検察官の言うことをそのまま言っているだけで、裁判官を検察官が代わりにやっているように感じてしまいました。まさか政治資金報告書の期日がずれたことの認定は予想していたが、まさか本人が無実を訴えている水谷建設からの5000万円まで認められるとは思わなかったです」
―石川議員だけでなく小沢元代表にも厳しい指摘がありましたが
「まるで小沢さんが悪の首領で、石川議員がその手先みたいな言い方でしたね。検察の描いた図にそのまま乗ったようですね」
―今後は後援会ではどう対応されますか？
「今は何とも言えないけど、弁護団の方々もこのままでは終わらせないだろうし、その上で考えることにします」
