「新しい政治」の最終ラウンド-【西田亮介】 - BLOGOS編集部
※この記事は2011年09月06日にBLOGOSで公開されたものです
去る8月29日民主党の代表選が行われ、決選投票の末、菅内閣で財務相を務めた野田佳彦が民主党代表に就任した。9月2日に野田内閣が発足した。代表選の最中から「泥臭いことをやらなければならない」ことを訴え、自らをどじょうにたとえてきた。確かにおよそ骨格が固まってきた閣僚、党内人事を見ても、比較的バランス良く選ばれている。ただし、小沢グループへの配慮は見せつつも、代表選で増税反対を名言した鳩山グループからの入閣はない。邪推すれば旧勢力の切り崩しにも見える。代表選を通して、政策論争にもなるわけでなし、決選投票の末に逆転で新代表が決まったことに象徴されるように、古い政治の面影ばかりが目についた。2009年に「新しい政治」をかかげて民主党が与党の座についたときの面影はない。
まだ政権運営は端緒についたばかりで評価は難しいが、 原発問題では「脱原発依存」というもっとも現実的に思える長期的なエネルギーシフトを目指すことを明言し、 靖国参拝が信条でありながらも「任期中はいかない」と述べるなどバランスのとれたリーダー像も浮かび上がる（『YOMIURI ONLINE』『中央日報』）。前政権の行き当たりばったりを見せつけられたあとでは、「ごく真っ当」というのが第一印象である。
他方、不安要素は、復興を含めた経済政策に尽きる。3次補正に関して、安住財務相が「３次補正は被災地が希望を持てるものにしたい。（財務省には）けちけちするなと言いたい」と述べたと報じられている（『日本経済新聞』）。それ自体は評価したいが、 同時に増税に言及していることは看過できない。
具体的な増税プランの詳細は明らかになってはいないが、所得税や法人税増税は消費や企業活動に水を指す可能性は否めない。ただでさえ、東日本大震災の影響は物流やサプライチェーンを通して全国に及ぶ。東京商工リサーチの調べによると、2011年8月31日時点の倒産件数は震災発生から半年で304件に達し、阪神・淡路大震災関連倒産が3年間で314件だったことと比べても速いペースだ（『東京商工リサーチ』）。中小企業向けの共済措置が取られている東北以外の土地で、間接型の倒産が相次いでいることは特筆すべきであろう。
経済産業省が先日公開した「現下の円高が産業に与える影響に関する調査（大企業・製造業編）」のなかでは、調査対象企業の87％が「法人実効税率の引き下げ」を、63％が「継続的な為替介入」を要望している。
企業にとって、円高と震災は二重苦になっている。増税が将来的には避けては通れない道であるとしても、現時点で安易な増税が復興に貢献するようには思えない。
このほかには、蓮舫行政刷新相が「新しい公共」を担当することに注目したい。日本ではパブリックセクターの刷新は、とくに1980年以後歳出削減の文脈のなかでようやく進んだ歴史がある。「新しい公共」も復興の風潮に後押しされるかたちで、寄付税制とNPO法の改正は実現したが、その他の分野の歩みは遅い。テコ入れに期待したい。
ここまで新内閣の動向を垣間見てきたが、現在新内閣を考えるうえで野党の存在は忘れることはできない。民主党が政権交代を実現したときと同じく、衆参第一党が逆転する「ねじれ国会」が生じている。したがって野党の協力なしには、どんなに素晴らしい政策も実現することはできない。そして、公明党は態度を保留したが自民党はいち早く政権交代を目指すことを明言した。
政府の動きが遅いのは、リーダーシップや政策の中身に問題があるのか、野党が歩み寄りの姿勢を見せないからなのかという区別は、 1年後に再び民主党代表選が控えており、野党の協力何如では遠くないうちに解散総選挙ということもありうるだけに精査していきたい。
2009年の政権交代、人々は民主党に賭けた。仮に自民党へのペナルティが目的だったとしても、「新しさ」に期待した。現時点ではその期待は裏切られ続けているといわざるをえない。おそらくここで舵を切り間違えると、「次」はない。難しい局面であることは間違いないが、たとえ野党の協力が得られずとも「新しい政治」の可能性を広く世間に提示し、国民の信頼を少しずつ取り戻すことしか民主党に残された道はない。「新しい政治」の最終ラウンドに注目したい。
■ 著者プロフィール
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東洋大学経済学部非常勤講師。1983年生。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程在籍中。（独）中小機構リサーチャー、デジタルハリウッド大学大学院非常勤講師等を兼務。専門は、公共政策学、情報社会論。ソーシャルビジネスと社会起業家のアントレプレナーシップ醸成過程、政策としての「新しい公共」などを研究。メディアへの寄稿のほか、自治体の委員や企業との調査研究など幅広く実務にも携わっている。
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