Thom Baur / Reuters
Thom Baur / Reuters

およそ3週間前、米国の天文学者ビル・グレイ氏は7年前にSpaceXが打ち上げ、そのまま宇宙を漂っていたたFalcon 9上段の残骸が、このままでは月に衝突するとの観測結果を公表し、メディアを騒がせました。しかし現在、グレイ氏はこの見立てが誤りで、実は月に衝突しようとしているのは2014年に打ち上げられた中国のロケットの残骸だと述べています。

グレイ氏が最初にロケットが月に衝突するとの見立てを公表した際、当然ながら世間は民間の宇宙企業とイーロン・マスク氏に対する批判の声をあげ、欧州宇宙機関(ESA)でさえも、まともな宇宙企業なら後始末を終えるまで、つまり使用済みロケットを将来的に問題のない軌道へ運ぶための最低限の燃料を確保するよう配慮していると苦言を呈していました。

しかしいま、天文学者の考えが正しいとすれば、それらの批判はすべて矛先が誤っていたことになります。グレイ氏は先週土曜日に自身のブログを更新し、そこで誤りを認めました。

ことの経緯は、グレイ氏が2015年に発見した未確認物体にWE0913Aと名付けたことから始まりました。それは観測を続けるうちに人工物だと判明し、やがてその有力候補としてNOAAが深宇宙観測のために開発した太陽軌道衛星DSCOVRの打ち上げに使われたFalcon 9の2段目もしくはそれに付随するものだとの見方が有力になりました。

ただ、それだけなら大した話題にはならなかったはずです。しかしその後、この物体が月に衝突する軌道にあることが判明し、さらにそれが状況証拠的に世界トップの大富豪イーロン・マスクの会社が打ち上げたものだったことで、メディアが大々的に取り上げることになってしまいました。

しかし、最近になってグレイのもとにNASAジェット推進研究所(NASA JPL)のエンジニア、ジョン・ジョルジーニ氏からメールが届きました。そのメールには、太陽系内にある約50万個の天体の軌道と現在位置を知ることができるHorizonsシステムのデータベースを参照したところ、DSCOVR用Falcon 9の軌道は月に接近するものではないことが判明したと記され、グレイ氏が分析したデータを再確認するよう促していました。

グレイ氏はデータを再確認し、それがFalcon 9でないとするなら何が該当するのかを探しました。そしてそれが2014年に長征3Cで打ち上げられた、月面サンプルリターンの実証試験用ミッション「嫦娥5-T1」が、3月に月に衝突する物体の軌道に一致していることがわかったとのこと。

グレイ氏はThe Vergeに対し誤りを正すことには十分意味があるとしました。従来、こうした地球から遠ざかり深宇宙に消えていくロケットの残骸などには注意が払われることはありませんでした。グレイ氏はこうした物体に注目しているのは小惑星を追跡するコミュニティだけだと述べ、打ち上げた人々がそのような物体を最後に観測した位置を公表するようにすることで、その追跡と特定がしやすくなるとしています。

ただ「現状では、それを実践するにはある程度の探偵まがいの作業が必要になる」と述べています。

Source:ProjectPluto.com

via:ArsTechnica, The Verge