■河野太郎氏「そこにやっぱり甘えちゃだめ」

政府内で「子ども庁」についての議論が進んでいる。子育てや教育格差、児童虐待などの課題について取り組む行政組織で、2023年度の創設を目指すという。岸田文雄首相のほか、河野太郎氏も自民党総裁選で創設に意欲を示していた。

しかし沖縄県に住む筆者は、河野氏に関して言えば、これらの諸課題を本当にしっかり理解しているのか疑問に感じる。

河野氏は今年5月、沖縄・北方担当相として琉球新報のインタビューに応じた際、沖縄県の子どもの貧困問題を若年出産と結びつけ、「必ずしも褒められる話ではない」「母子世帯でも周りの人、周りの家族が支えてくれたり、親戚が支えてくれたりみたいなことがあってやってこれている部分がある」と指摘。「そこにやっぱり甘えちゃだめ」とも発言し、批判を浴びた。

写真=iStock.com/Favor_of_God
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Favor_of_God

沖縄県が2015年度に実施した子どもの貧困調査では、29.9%となっており、全国の13.9%と比べて2倍超に上る。そして、ひとり親家庭などの大人がひとりで子どもを育てている家庭の貧困率は58.9%となっていた。

県の平均世帯年収は約360万円。ひとり親が自立を試みても家族支援が必要になってくる現実を把握しているのだろうか。河野氏は女性側だけの問題にしようとするが、若年出産する層の実態を分かっていない。「甘え」ではなく経済的な問題が絡んでいるのだから、河野氏が考えているよりも深刻な状況なのである。

■米軍統治下時代は中絶は犯罪だった

また、河野氏は上記発言の中で、沖縄での性教育の不足についても触れていた。琉球大学上間陽子教授(以下、上間教授)は「歴史的背景には、沖縄は米国の占領地だった時期があり、バースコントロール(産児制限)が効かない中で子どもを産むことが形成されていったことがある。日本で避妊方法の教育がなされていたとき、沖縄ではそれができなかった。第一義的責任は国にある」(琉球新報デジタル、5月15日)と、述べている。

上間教授が言うように、沖縄は米軍統治下にあった時期、バースコントロールが限られており、「堕胎罪」があった。中絶は犯罪だったのである。したがって、妊娠したら出産するしか選択肢がなかった。琉球政府統計年鑑を見てみると、全体的に堕胎罪は少なく、多い年でも3件ほどだった。こうして考えてみると、「妊娠したら産まなきゃいけない」という強迫観念が沖縄の女性に根付いていったと言えるのではないだろうか。

筆者がかつて属していた地元のコミュニティもまた、「中絶する」という選択肢は、ほとんどなかった。今回は、知人らの体験を基に沖縄県のひとり親の現状を紹介したい。

■「嫌われたくない」という思いで避妊できず…

中学時代の同級生の多くは、10代の頃に出産した子どもの父親(遺伝上の父親であり、実際の結婚相手とは異なる)に逃げられたり、離婚したりしている。違う男性を渡り歩き、子どもが増えていく傾向にある。遺伝上の父親が違う子どもが2人いることは当たり前で、5子全員違うなどのケースも珍しくない。

そのうえ、日雇い労働など雇用が不安定な男性や、違法なやり方でお金を稼いでいる男性と交際したり、再婚したりすることが多く、収入が安定していないことも共通している。この状況だけ書くと、多くの読者は「自己責任」だと感じるかもしれない。

しかし、本当に自己責任なのだろうか? 河野氏は県民の性教育が足りないと指摘するが、避妊は必ずしも女性側だけの問題ではない。とりわけ、10代の交際はパワーバランスが男性のほうが強く、急に避妊しない性行為を要求されたら断れないこともある。嫌われたくない、離れたくない、ひとりになりたくない。10代女性の複雑な感情が断れなさを生んでいる。

その過程で男性に逃げられたり、離婚したりすると精神的な不安は大きくなる。経済的に不安定な状況にも大きな悩みを抱える。そして、誰かに頼りたくなるし、依存したくなるし、最終的には男性がいないと自分の存在価値そのものに不安を感じてしまう。こればかりは、同性のコミュニティでは、どうにもならない問題なのだ。

■「子どもを産めば彼が戻ってきてくれるかもしれない」

ここからは、同級生3人の事例を紹介したいと思う。仕事はさまざまだ。美佳(仮名)さんは16歳で出産し、昼間のパートと児童扶養手当で、何とか2人の子どもを養っている。時給は最低賃金の820円。週5〜6日パート雇用で働いている。稼ぎは月12万円弱で、あとは、母子・父子家庭を対象に支給される児童扶養手当と児童手当が収入源だ。

美佳さんは当時、スナックで働くかたわら子育てをしていた。その後、キャバクラに移ったり、昼間の仕事で生計を立てたりしていたが、子どもと血のつながりのない彼氏から暴力を振るわれるようになった。子どもへのクリスマスプレゼントは、ゲーム機はなくゲームソフトだけだ。

そんな経済状況の中、DV彼氏との間に子どもができる。彼氏は中絶を望んだが、美佳さんの意向で出産した。「子どもを産めば、自分のところに戻ってきてくれるかもしれない」という希望を抱いていたからだ。しかし、彼氏は美佳さんの元を離れ、別の人と結婚して新しい家庭を築いている。

美佳さんはひとり親世帯の出身で、母親はひとりで子どもたちを育てるために、繁華街から離れた場所でスナックのママをしていた。経済状況でいえば貧困家庭の出身といえる。高校受験に失敗、お金のかかる私立にも行けずに就職したため学歴は中卒になる。前述した収入から推測すると、不安定な生活を送るほかない状態だ。

■子どもが生まれてから消息不明になったケースも

まりさん(仮名)の場合は、暴力団構成員やいかがわしい商売をしている男性と交際していた。子どもは3人いるが、全員、遺伝上の父親が違う。ひとり目の父親、ふたり目の父親は暴力団構成員だった。組から逃げたと同時にまりさんとも連絡がつかなくなり、消息不明だ。3人目は最近結婚した男性との子どもになる。3人とも水商売で出会った男性だ。

まりさんも美佳さんと同様、常に不安を訴えていた。「父親」の存在は必要だという固定観念に縛られているからだ。まりさん自身は、両親が揃(そろ)っている家庭で育ち、県内でも比較的土地が高いエリアの一軒家で育った。両親ともに安定した仕事で、沖縄の中では比較的裕福な家庭で育ったと言える。

しかし、高校を中退して水商売に足を踏み入れてから、お客と関係を持つようになってしまった。そこには「相手から嫌われたくない」という思いもあっただろう。まりさんは現在専業主婦で安定した生活を送っているようだが、第1子は実家に預けているため、現状が子どもたちにとって良いと言えるのかは分からない。

写真=iStock.com/Sasiistock
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■「父親がいない」自分の出自に負い目を感じる

最後に紹介するのは、めいさん(仮)だ。10代の頃に、2つ年上の彼氏との間に子どもができた。すぐに結婚したけれども、夫の仕事は雨が降ったら休みになってしまう収入が不安定な現場作業員で、家計はやはり苦しかった。3年たった頃に離婚し、子どもは3人。その後出会った男性との間にも子どもができたため再婚した。今は子ども4人と夫婦2人で暮らしている。

アパートは3LDKで、6人が住むには決して広いとは言えない。めいさんもシングルマザーでいることを不安に思い、同じコミュニティにいる男性と再婚した。新しい夫の月収は約19万円で、とてもじゃないが家族6人を養うには厳しい。めいさんの夫は日当制の仕事で「8000円から上がらない」と嘆いている。

めいさんも夫も母子家庭で育ったのだが、共通するのは、安定した家庭を築いている「お手本」のような人が周りにいなかったということだ。めいさんは夜遊びや家出を繰り返し、一時期、更生施設に入れられていたが、中学を卒業してすぐに水商売を始めた。再婚したのは、1人で子どもたちを養う経済力がなかったこともあるが、「父親がいない」という自分の出自に負い目を感じていたからだという。

■狭いコミュニティで出産と結婚を繰り返す構造

沖縄県の一部の地域では、幼少期から10代にかけて過ごしたコミュニティが大人になっても大きな影響力をもつ。美佳さんに暴力をふるっていた彼氏はもともと同じコミュニティの仲間だったが、子どもが生まれた途端、美佳さんはコミュニティから排除されてしまった。相談に乗ってくれる友人や大人が周りにおらず、かといって”友だちの友だち”程度の知り合いが数多くいる狭い地域なので、どこかのコミュニティに属していないと生きづらいという問題がある。

美佳さん、まりさん、めいさんは、そうしたコミュニティの中で出産、結婚、そして離婚を繰り返している典型的なケースだ。正規雇用の仕事がそもそも少ない中で自分は自立できるのか、子どもを育てられるのか。相談するパートナーがいないことも、大きな不安となってのしかかる。さまざまなプレッシャーに押しつぶされそうになりながら生きている。そして、経済的、精神的に少しでも楽になりたいという思いから仲間内で再婚するのだ。

国がいかに沖縄の貧困の状況を理解していないかは、河野氏の発言を見ても明らかだ。甘えてはいけないと突き放していたら彼女たちは行政を頼れず、貧困のスパイラルから抜け出せないままなのではないだろうか。

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上原 由佳子(うえはら・ゆかこ)
フリーライター
1988年沖縄県生まれ。高校中退後、キャッチのアルバイトをきっかけに、沖縄県内のキャバクラやクラブで働く。2015年高校卒業後、現在は佛教大学社会学部現代社会学科(通信制課程)に在籍。社会学を勉強するかたわら、キャバクラ時代に知り合った人脈を生かし、取材・執筆活動を行っている。
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(フリーライター 上原 由佳子)