今の日本人の働き方に必要なことは?(写真:xiangtao/PIXTA)

インターネットの匿名掲示板「2ちゃんねる」創設者でコメンテーターとしても活躍するひろゆき氏が『叩かれるから今まで黙っておいた「世の中の真実」』を上梓しました。

同書では社会・仕事・教育・政治・人間関係について、忖度抜きで持論を展開しています。本稿では、その一部を抜粋しお届けします。

「COVID-19」のパンデミックは世界中を震撼させています。 フランスも、流行当初こそ「遠いアジア諸国の出来事」として捉えていた人が圧倒的だったのに、急激に感染者が増え、緊迫感が一気に高まりました。

日本でも、マスク不足が深刻でした。需要が激増したことに加え、マスクはもともと中国からの輸入に依存していたからです。 政府が国内企業に増産を要請し、そして、それらの企業は休日返上で工場を稼働させたものの、しばらくの間医療機関にも一般の人たちにも十分な量が行き渡りませんでした。

シャープなど異業種企業が急遽生産に名乗りを上げましたが、そもそもマスクの材料となる不織布、ゴムひもなども中国からの輸入頼み。それらがなければ、いくら国内企業が増産しようとしてもままなりません。

また、建築業界なども、海外から部品が入ってこないことで、身動きが取れませんでした。おかげで自宅の新築やリフォームが途中でストップしてしまったという気の毒な人も多く出ました。 今回のことが明確に示したのは、もう世界はつながってしまっているんだということ。それは、ウイルスだけの問題ではなく、経済も同様。日本人が好むと好まざるとにかかわらず、世界はとっくにグローバル社会になっていたのです。

“安い国ニッポン”の真実

グローバル化を続ける世界の中で、ここ最近際立っているのが、日本の「物価の安さ」です。 「安いニッポン」――これは、日本経済新聞の特集記事のタイトルで、掲載当時大きな話題を呼びました。この記事では、海外の国々と比べて、日本の物価が低迷しているという現実を、具体的な数字を挙げつつ報じています。

記事には、ダイソーの商品価格を比較したデータが掲載されています。日本では、ダイソーといえば「100円ショップ」ですが、実は国ごとに商品の値段が違うそうです。 国ごとに「〇円ショップ」を見てみると、中国では153円、シンガポールでは158円、アメリカでは162円……と、どの国も日本より50円以上も高くなっています。ブラジルに至っては、215円と日本の2倍以上です。

また、ディズニーランドの入場料は、日本では8200円ですが、アメリカ・カリフォルニアでは、1万4000円くらいと大きな開きがあります。

そうです。日本は「安い国」なんです。 僕自身、電化製品や服は日本に帰ったときに買い込んでいます。フランスにもユニクロや無印良品はありますが、日本より3割くらい高くなっています。

1990年代前半、日本はとても「高い国」でした。だから、海外からはよほど裕福な人たちしか遊びには来ませんでした。逆に、私たちが海外旅行に行けば、日本でならファミレスで食事するくらいの値段で、そこそこの高級レストランに行けました。ブランドものもばんばん買えました。

企業の駐在員も、東南アジアあたりでは家政婦や運転手を雇えました。 当時の日本人は、ごく庶民であっても海外では富裕層のように振る舞えました。しかし、それはとっくに昔話になっています。今、海外旅行に行くと、どこも物価が高いことに驚くはずです。実は日本だけが取り残されたように物価が安いというのが現実なのです。

まだ日本の物価が高かった頃、中国に返還される前の香港では、ビクトリア湾の光り輝く電飾看板は、ソニー、東芝など日本の電機メーカーが独占していたものです。 当時、日本の電機メーカーは、次々とアジアに進出し、技術を伝えていきました。しかし、そうした国々にいつの間にかすっかり逆転されてしまいました。

中国や韓国の電機メーカーは、その多くが日本の技術を下敷きにして成功を収めたわけです。 もちろん、それは責められることではありませんし、「裏切られた」などと恨み言を言ってもどうにもなりません。

まずは、「日本の現状」をきちんと理解すること。そして、これから世界でどう存在感を出していくかを考えていくべきなのです。

「世界競争力ランキング」から見えてくるもの

「日本の現状」を正しく理解するのに役立つデータがあります。

スイスのビジネススクールIMD(国際経営開発研究所)は、独自の調査による「世界競争力ランキング」を毎年発表しています。2020年の日本のランクは、前年から4つ落ちて63カ国中の34位。 1位シンガポール、2位デンマーク、3位スイス……と続き、香港(5位)も中国(20位)もマレーシア(27位)もタイ(29位)も日本より上位にいます。

かつての日本は、このランキングでつねにトップクラスにおり、1989年から4年連続で1位を取り続けたほどです。だから、当時働き盛りだった人たちは、今の評価を受け入れることができないかもしれません。 日本は治安もいいし、食べ物もおいしいし、不快な思いをさせられることも少ない。

ほかの先進国と比べても、いいところはたくさんあります。なのに、日本の世界的な競争力は低いとされてしまっている。ここで、「こんなランキングはでたらめだ! 日本はまだまだ世界で戦えるんだ!」と主張するのも1つの姿勢でしょう。でも、これだと結局根性論に終始してしまい、いい方向には進んでいけません。

日本のどういう部分が評価され、どういう部分が問題だとされているのか。それをきちんと確認したうえで、「どうすればいい部分を伸ばせるのか、ダメな部分を改善できるのか」を考えていく必要があるのです。

IMDのランキングは「経済のパフォーマンス」「政府の効率性」「ビジネスの効率性」「インフラ」の4つの要素(それぞれの要素は5つの小項目からなっています)から総合的に判断されます。このうち、インフラに関して日本は高い評価を得ています。

一方で、ビジネスの効率性についてとても低い評価を受けています。ビジネスの効率性のうち、小項目の「経営姿勢」は63カ国中62位、「生産性と効率」は55位と、かなり足を引っ張っています。 立派なインフラは整っているのに、ビジネスの効率が悪い。

これは、日本にはびこる「長時間労働」の結果によるものでしょう。短時間で成果を出せる環境は整っているのに、「長く働く」ことが当たり前になってしまっている。環境が整っていても、それを使う人間が疲弊していては意味がありません。

「働き方」で損をしている日本人

日本は国内総生産(GDP)こそ世界3位ですが、1人当たりに換算すると26位。しかも、年々ランクは落ちています。このデータからも、海外諸国に比べて日本人の働き方そのものが非効率だというのがわかります。

2008年までの日本は、人口が増加していたので、生産性が低くても、国全体としては高い生産額を維持できていました。しかし、今は違います。2019年に日本の人口はおよそ50万人減りました。2020年は前年以上の減少が見込まれています。

このように、人口が減り続けているので、生産性が低い日本では生産額も減少しているのです。それが、世界的な競争力の低下につながっているのでしょう。 時代に合わない働き方が浸透してしまっているのは、日本企業の社内制度に原因があります。例えば、日本ではいまだに能力による評価があまりなされていません。「年功序列」という制度が、多くの職場で撤廃されずに残っています。

経営者の立場から考えると、いいものをつくる能力のある人が会社にいることが最も重要で、そういう人を評価するのは当然です。それなのに、ただ長く勤めているというだけの理由で中高年を管理職にしているのです。誰しも周りに1人くらい思い浮かぶ人がいるのではないでしょうか。

高度経済成長のときは、日本全体が上り調子だったので、「やれば結果が出る」時代でした。能力や効率を重視しなくても、とりあえず長く働けばよかったのです。こういう社会状況であれば、「会社に長くいる=会社に貢献してきた」ということなので、年功序列は理にかなっています。

競争はもちろんありましたが、クオリティーの高さよりも、とにかくたくさんのモノを早くつくろうという「大量生産」を競い合っていました。

モノが不足していた時代は、安いものをつくっていれば買う人が必ずいたのですが、今は、みんな豊かになったので生活必需品じゃないものにお金を使う時代だったりします。例えば、ゲームアプリの課金などは利用しなくても人生ではまったく困らないのですが、今は多くの人がお金をつぎ込んでいます。

このように、現代の日本は経済が成熟しているため、ただモノを売る、ただサービスを提供するだけでは、存在感を出していけません。何か1つ抜きん出たところが必要です。同時に、そうした製品やサービスを生み出せる人こそがいちばん評価されるべきなのです。

よく、「優秀な人材が来てくれない」という声を耳にします。優秀な人たちは自分を正しく評価してくれる職場か、業務の対価をそのまま収入として得られるフリーランスを選んでいるのでしょう。いまだに年功序列などの古い制度をそのまま採用している会社には見向きもしないはずです。

「時代に合った制度改革」ができるか

僕自身は特別優秀というわけではありませんが、「少ない労力でいかに成果を出せるか」はつねに最重視してきました。まあ、簡単に言えば「いかにさぼりながらうまくやるか」を追求しているのです。

僕が「2ちゃんねる」を立ち上げたとき、ほかにもネット掲示板のサイトはいくつかありました。サイトの管理人たちの中には、メンテナンスや問い合わせ対応などを僕以上に頑張っていた人もいました。 しかし、最終的にいちばん大きくなったのは2ちゃんねるです。注いだ時間や労力は残念ながら結果に比例しないのです。


とはいえ、僕が大学を卒業した2000年代には、まだ「長く働くほどえらい」と考えている会社ばかりでした。

なので、僕は自分で会社をつくり、「働く時間は関係なく、どれだけ会社の利益につながる仕事ができているかで評価する」という、今で言う実力主義の先駆けのようなシステムを構築しました。

日本人や日本企業自体が無能だとは僕は思いません。実際、日本が世界競争力ランキングでトップを取っているときは、欧米諸国でも日本から学ぼうという流れがありました。単に今は社会の仕組みが制度疲労を起こしているということでしょう。

現在、ランキング上位を占めるシンガポールも香港も、世の中の変化に社会をうまく適応させていくことで成長を続けてきました。僕らが今すべきなのは「昔はよかった」と懐かしむことでも、「将来は暗い」と悲観することでもなく、時代に合った制度を取り入れていくことなのです。