ビジャレアルの指揮官であるウナイ・エメリは、欧州で広く戦術家として知られている。スペインだけでなく、フランス、イングランドで強豪クラブを指揮してきた。セビージャ監督時代には、ヨーロッパリーグで3連覇を経験したこともある。ソリッドなプレースタイルを植え付け、しぶといチームを作る手腕には定評があり、選手のベースとしてフィジカルインテンシティを求める。

<持ち場を固く守って、お互いカバーし、一気に攻撃に殺到する>

 堅牢さと献身と速さが代名詞。それを集団として行なうことによって、勝利を呼び込む戦い方だ。

 エメリが求めるものは、久保建英のプレーと符合しているのか――。そこには、現状で小さなズレが見られる。それが、連続する途中出場という状況を作り出しているのだろう。

 はたして、久保はビジャレアルでスタメンを勝ち取れるのか?

 久保のアタッカーとしての資質に、疑いの余地はないだろう。


バレンシア戦の後半63分、ウナイ・エメリ監督に送り出される久保建英(ビジャレアル)

 10月18日のバレンシア戦では、63分に交代出場している。68分には、ダニエル・パレホの決勝点をアシスト。いったんゴール前でパスを受け、コントロールにもたついたが、リカバリーして背後に入ったパレホへ右足ヒールでラストパスを送った。一瞬にして局面を変えたプレーは、真骨頂と言える。その後も、右サイドでボールをキープし、コンビネーションを使って、チームにリズムを与えていた。

 一方で、右サイド自陣でパスカットしようと足を出したところ、これが相手選手の頭に直撃し、危険行為でイエローカードを受けている。さらにアディショナルタイムには、コントロールが少し大きくなったところ、球際でスライディングに行った時に相手選手を蹴る形になった。これで2枚目のイエローで、プロキャリア初の退場になっている。

 どちらも厳しめの判定だった。特に2枚目は、久保が先にボールに触っているし、接触も最小限だった。試合後、クラブが「退場の取り消し」を申し立てたのは、当然のことだろう(その後、処分は撤回された)。

 しかし、図らずもこの一戦は久保の現状を象徴していた。悪くはないプレーをしているにもかかわらず、空回りしているといえばいいのだろうか。開幕後、6試合連続出場を果たしているが、すべて途中出場。合計で80分間出場は、1試合分にも満たない。

「タケ(久保)はよく(相手の攻撃に対し)フタをしていた。それは試合に備えて1週間、練習してきたことだった」

 エメリ監督は、バレンシア戦後にそう語っている。

「タケとはしっかり話をしている。我々のチームの動きに対する要求度はとても高い。彼は好選手だし、進化もしている。今日(バレンシア戦)は30分プレーし、チームは得点も決めた。しかし守備の部分で、もっと働かなければならない」

◆「コートジボワール戦の久保が低調だった理由」>>

 エメリは守備に対し、走力と肉体的強度を求める。相手の侵入を決して許さない。入ってきた敵に対しては周りと協調し、挟み込み、せん滅する。しつこい守備をした上で、攻撃の貢献を求めているのだ。

 これは是非ではない。

 戦術家がファンタジスタと呼ばれる天才的攻撃センスを持った選手に、こうした要求をし、溝が生まれることはある。かつて、オランダの戦術家ルイス・ファン・ハールはリバウド、フアン・ロマン・リケルメと衝突。解任、退団にまで至った。衝突とまでいかなくても、しばしばズレは生じる。アトレティコ・マドリードのディエゴ・シメオネも守備の強度と規律を求める監督で、現状ではポルトガル代表ファンタジスタ、ジョアン・フェリックスのプレーを十全には引き出せていない。

 結局のところ、久保がポジションをビジャレアルで得るためには、エメリの求める仕事をするしかないだろう。

 左でモイ・ゴメスが重用されるのは、単純に献身性に理由がある。距離を走って、ボランチ、サイドバックと数的優位を作り、チームプレーに貢献できる。攻撃のひらめきや技術は久保に劣るが、高い集中力でいくつかのチャンスは作り、計算できるのだ。

 右でサムエル・チュクウェゼが先発なのも、カウンターでのスピード、パワー、その強度によるものだろう。トップやトップ下も強さが条件。前線でディフェンスと競って、こつこつダメージを与え、ポイントになれるか。

 率直に言って、久保は得意とする条件で戦っていない。しかし、FC東京もマジョルカも、専守防衛タイプのチームだったが、その存在感を高らかに示してきた。要求される守備の最低条件をクリアすることで、攻撃面のアドバンテージが明らかになって、道は開けるはずだ。

 ひとつ危惧する点があるとすれば、「久保を使え」と求められ続けられるエメリが、意固地になることだろう。日本人だけでなく、現地記者の間でも久保の支持者は少なくない。いまのところエメリは「使わない理由」を丁寧に説明しているが、監督は決断を否定されることを著しく嫌うものである。現時点ではチームとして結果も残しているだけに、「使え」と言われるたびに、強情になることも......。

 10月22日、ビジャレアルはヨーロッパリーグ開幕戦を、トルコのシバススポルを本拠地に迎えて戦う。