「生まれてから一度も生理がない」と言った大学生 女子選手が陥る「無月経」の理由
連載「女性アスリートのカラダの学校」第3回―女性アスリート外来の相談で最も多い無月経
スポーツを習い始めたばかりの小学生、部活に打ち込む中高生、それぞれの高みを目指して競技を続ける大学生やトップカテゴリーの選手。すべての女子選手たちへ届ける「THE ANSWER」の連載「女性アスリートのカラダの学校」。小学生からオリンピアンまで指導する須永美歌子先生が、体やコンディショニングに関する疑問や悩みに答えます。第3回は「無月経」について。
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女性アスリートに多いカラダのトラブルの一つに、生理が止まってしまう「無月経」があります。
東京大学医学部附属病院の女性アスリート外来の統計によると、1年間に診察に訪れた女子選手157人(2017年4月〜18年4月)のうち、無月経の相談に訪れたのは全体の34%。これは、相談内容のなかでもっとも多い数です。さらに14〜19歳の10代アスリートに限ってみると、なんと53%が無月経の相談でした。
また、女子大学生を対象とした日本産科婦人科学会と国立スポーツ科学センターの調査によると、一般の大学生の無月経の割合は1.8%。対して女子アスリートは日本代表レベルで6.6%。地方大会レベルでも6.1%という非常に高い数値を示しています。
無月経の原因はさまざまですが、スポーツをする女性に多いのが「視床下部性無月経」です。これは、エネルギー不足や急激な体重の減少、トレーニングのしすぎなどにより、生理をコントロールする脳の視床下部や、女性ホルモンを分泌する卵巣の機能が低下。女性ホルモンが分泌されにくくなり、月経が止まってしまう、というものです。
基礎体温を測る時は、小数点以下2桁まで数値が出る体温計、「基礎体温計」を準備。基礎体温は数値を正確に測る必要があるので、測り方のルールを守りましょう。一番大切なポイントは、目が覚めたら、体を動かす前に体温を測ることです。「たったそれだけのことかぁ!」と思うかもしれませんが、意外と根気が必要。眠気と戦いながらの検温なので、気を付けないと本当に寝落ちします。10〜20秒と短い時間で検温が完了する基礎体温計を選ぶと、寝落ちする確率も低くなるのでオススメです。
最初は面倒に感じるかもしれませんが、そのうち体温の微妙な変化を読みとれるようになり、体の変化を観察することが楽しくなってきます。検温の結果を自動的にグラフ化してくれる便利なスマートフォンのアプリもあるので、活用してくださいね。
無月経はカラダが発するSOS、3か月以上放置すると将来の妊娠に影響も
しかし、無月経はある日突然、なるわけではありません。無排卵から月経不順になり、最終的に無月経になってしまう。ですから、「月経がたまにしかないな」「経血量が少ないかな」「基礎体温を測ると低温期と高温期にわかれない(=排卵がない)な」など、「なんかおかしい!」と気づいたら、早めに保健室の先生や家族に打ち明けて、専門医の診察を受けることが大切です。
現在、日体大の新体操部は、元新体操日本代表の村田由香里准教授が選手の指導に当たっています。村田准教授は、シドニー五輪で団体5位入賞を果たした経歴の持ち主ですが、現役時代は高校1年から6年間、無月経だったそうです。当時の経験から大学では、食事からコンディショニングまで、選手たちの将来を見据えた体作りと体調管理を徹底。診察の結果、選手たちが「視床下部性無月経」だとわかれば、適切な対処をして改善するように努めるなど、健康なカラダを維持しながら競技に取り組む重要性を伝えています。
無月経はカラダが発するSOSです。時には裏に病気が隠されている場合もあります。大学の陸上部に「生まれてから一度も生理がない」という長距離選手がいましたが、婦人科を受診すると、子宮が中学生ぐらいの未成熟な状態だとわかったこともありました。
また、無月経を3か月以上放置すると、回復に時間がかかるだけでなく、命に関わるトラブルや将来の妊娠に影響が出るケースもあります。診察の結果、「視床下部性無月経」だとわかっても、適切な対処で症状は治まります。「おかしいな」と感じたら、見て見ぬふりをしないこと、一人で抱えて思い悩まないことが、とっても大切ですよ。
「あなたの生理は大丈夫? 無月経チェック」
以下のいずれかに当てはまる人は、無月経の可能性があります。早めに婦人科を受診しましょう。
□15歳以上だが初経を迎えていない
□3か月以上、生理がきていない(※)
※1か月〜2か月間であれば、多くの場合、生理がなくても問題ありません。特に初経から3〜4年間は月経のサイクルが不安定なので、次の生理までに時間が空くケースもあります。(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)
長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビューや健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌などで編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(共に中野ジェームズ修一著、サンマーク出版)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、サンマーク出版)、『カチコチ体が10秒でみるみるやわらかくなるストレッチ』(永井峻著、高橋書店)など。
須永 美歌子
日本体育大学教授、博士(医学)。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本陸上競技連盟科学委員、日本体力医学会理事。運動時生理反応の男女差や月経周期の影響を考慮し、女性のための効率的なコンディショニング法やトレーニングプログラムの開発を目指し研究に取り組む。大学・大学院で教鞭を執るほか、専門の運動生理学、トレーニング科学の見地から、女性トップアスリートやコーチを指導。著書に『女性アスリートの教科書』(主婦の友社)、『1から学ぶスポーツ生理学』(ナップ)