子どもが発達障害かも…。後悔する母に看護師がかけてくれた一言
「うちの子、へんかも…?」子どもを育てる親なら、一度はそう不安になった瞬間があるかもしれません。昨今、発達障害が注目され、「うちの子もそうかもしれない」と心配するケースが増えているようです。
診断名がなかなかつかないのが、発達障害の特徴でもあります。なにかおかしい、と思いながら何年も原因がわからない不安――。そして、とくにお母さんが「私の育て方のせいではないか」と、自分を責めてしまうことも。
ここでは発達障害、知的障害がある息子をもち、『うちの子、へん?
』(扶桑社刊)を出版したライターの吉田可奈さんにお話を伺いました。
1歳のときに、息子の様子がおかしいことに気づいたという吉田さん(『うちの子、へん?』より・以下同)
「息子がほかの子と違うかも、と気づいたのは、1歳のときでした」と話す吉田さん。
吉田さんは、エンタメ系ライターとして働きながら、バツイチのシングルマザーとして2児を育てています。
長男のぽんちゃん(仮名・現在10歳)は発達障害、さらに知的障害があると診断され、今もおしゃべりができません。
1歳のぽんちゃんを医師に連れていったときのことを、こう話します。
●驚くほど手がかからなかった息子
「息子がほかの子と違うと気づいたのは、1歳のころ。保育園に入園し、おばあちゃん先生に『ぽんちゃん、成長曲線に乗ってる?』と聞かれたことです」
確かに、ぽんちゃんはほかの子よりも小さかったそう。
「でも第2子というのは、どうしても第1子(長女のみいちゃん)の経験をもとに育てられるため、“大丈夫だろう”と思ってしまいました」
ぽんちゃんはほぼ泣かず、だれが近づいてもにっこりと笑い、おとなしく、驚くほど手がかからない子でした。
「『2人目ってすごいね〜』などとのんきにかまえていましたが、思えばこの“おとなしすぎる”ことも、サインのひとつだったのかもしれません」
おとなしすぎる――そう思った瞬間、吉田さんは、ひやりと冷たい感覚を覚えたと言います。
「娘を生んだ2007年ころから、“発達障害”という言葉がたくさん耳に入るようになっていました。その言葉が、うちの子に当てはまるなんて、思いたくありませんでした」
しかし、おばあちゃん先生の言葉が引っかかった吉田さんは、保育園の帰り際に近所の小児科へ。
「きっと、思い過ごしだ。うちの子が、ほかの子と違うわけがない。こんなにかわいいのに。こんなに愛らしいのに。ただ、小さいだけなのだ――。そう信じて、お医者さんに、“この子は大丈夫”と言ってもらいたかったのです」
●悔やむ自分に、看護師がかけてくれた言葉
小児科の先生は、ぽんちゃんの身長と体重をはかるなり、「確かに小さいね。6か月検診では、そんなに差はなかったんだけどね」と呟きます。
「その言葉を聞いた私は、第2子ということもあり、義務ではない8か月検診、10か月検診に行かなかったことをものすごく悔やみました。毎日ぽんちゃんと一緒にいるのに、どうしてほかの子に比べて自分の子が小さいことに気がつかなかったんだろう。どうして“ぽんちゃんはすぐにほかの子に追いつく”と思ってしまったんだろう、と…」
私が、もっと、もっとこの子を見ていたら、こんなことにはならなかったんじゃないか。母子家庭とはいえ、もっと仕事をセーブして、0歳のぽんちゃんをちゃんと見ることが大事だったんじゃないか…。私には子育てをする資格なんてなかったんじゃないか――。
いろんな後悔が脳裏にあふれかえり、それまで気丈にふるまっていた吉田さんは、その場で泣いてしまったそうです。
「黙って小児科の先生の前でポロポロと泣く私に、私のことを幼稚園の頃から知ってくれている看護師のおばあちゃんが、頭にポンと手をおいてくれました。その瞬間、思っていたことが言葉になって溢れました。息子がまだ0歳なのに離婚したこと、働かなくちゃと思って仕事をたくさん入れていたこと、息子がほかの子より小さいことに気づかなかったこと。“大丈夫”と勝手に思い込んでいたこと…」
そんな吉田さんに、看護師のおばあちゃんは「お母さんは、みんな初心者なの。だから、自分を責めちゃダメ。それより、これからのことを考えよう」と言ってくれたそうです。
●5歳のときにようやく「表出性言語障害」という診断に
その後、ぽんちゃんは2歳のとき国立病院でさまざまな検査をしましたが、結果は「すべて異常なし」。どうしていいかわからないまま、「発達遅延」として療育センターに入ります。
「5歳になっても話せない、おむつが取れない。結局、5歳のときにようやく『表出性言語障害』という診断名がつきました」(吉田さん)
発達障害の専門家である宮尾益知医師(どんぐり発達クリニック院長)は、「発達障害とは、見たことや聞いたことの理解・記憶、ものごとを最後までやりとげる、過去の経験に照らして計画を立てるといった、脳が果たす機能に偏りがあることを指します」と話します。
一般に、発達障害には大きくわけて、ADHD(注意欠如・多動性障害)、ASD(自閉症スペクトラム障害)、SLD/LD(限定性学習障害)があります。
『うちの子、へん?
』には、宮尾先生によるチェックリストも掲載。ただし、みんながそれに当てはまるとは限らないのが、難しいところです。
「自分の子に発達障害の特性があると気づいた親の多くは、『自分たちの育て方やしつけのせいではないか』と思いつめてしまいます。しかし、最近の研究では、ほとんどの場合、遺伝の組み合わせなどの先天的なものが原因だということがわかってきています。自分たちのせいではないかと悩むのではなく、これから子どものためにどのようなことをしてあげられるかを前向きに考えるのが得策です」(宮尾先生)
子どもに障害があろうが、健常であろうが、「ただ、一緒に楽しみながら歩んでいけばいいのだ」――吉田さんは、そう話します。そんな吉田さんの言葉に、力づけられる親御さんは多いはず。
『うちの子、へん?
』(扶桑社刊)では、等身大の子育ての様子をはじめ、特別支援学校や「愛の手帳」などの制度についても紹介しています。ぜひチェックしてみてください。
<監修/宮尾益知 漫画/ワタナベチヒロ 取材・文/ESSEonline編集部>
診断名がなかなかつかないのが、発達障害の特徴でもあります。なにかおかしい、と思いながら何年も原因がわからない不安――。そして、とくにお母さんが「私の育て方のせいではないか」と、自分を責めてしまうことも。
』(扶桑社刊)を出版したライターの吉田可奈さんにお話を伺いました。
1歳のときに、息子の様子がおかしいことに気づいたという吉田さん(『うちの子、へん?』より・以下同)
1歳のときに、「うちの子、へん?」と気づいて…発達障害の子どもをもつ親の葛藤
「息子がほかの子と違うかも、と気づいたのは、1歳のときでした」と話す吉田さん。
吉田さんは、エンタメ系ライターとして働きながら、バツイチのシングルマザーとして2児を育てています。
長男のぽんちゃん(仮名・現在10歳)は発達障害、さらに知的障害があると診断され、今もおしゃべりができません。
1歳のぽんちゃんを医師に連れていったときのことを、こう話します。
●驚くほど手がかからなかった息子
「息子がほかの子と違うと気づいたのは、1歳のころ。保育園に入園し、おばあちゃん先生に『ぽんちゃん、成長曲線に乗ってる?』と聞かれたことです」
確かに、ぽんちゃんはほかの子よりも小さかったそう。
「でも第2子というのは、どうしても第1子(長女のみいちゃん)の経験をもとに育てられるため、“大丈夫だろう”と思ってしまいました」
ぽんちゃんはほぼ泣かず、だれが近づいてもにっこりと笑い、おとなしく、驚くほど手がかからない子でした。
「『2人目ってすごいね〜』などとのんきにかまえていましたが、思えばこの“おとなしすぎる”ことも、サインのひとつだったのかもしれません」
おとなしすぎる――そう思った瞬間、吉田さんは、ひやりと冷たい感覚を覚えたと言います。
「娘を生んだ2007年ころから、“発達障害”という言葉がたくさん耳に入るようになっていました。その言葉が、うちの子に当てはまるなんて、思いたくありませんでした」
しかし、おばあちゃん先生の言葉が引っかかった吉田さんは、保育園の帰り際に近所の小児科へ。
「きっと、思い過ごしだ。うちの子が、ほかの子と違うわけがない。こんなにかわいいのに。こんなに愛らしいのに。ただ、小さいだけなのだ――。そう信じて、お医者さんに、“この子は大丈夫”と言ってもらいたかったのです」
●悔やむ自分に、看護師がかけてくれた言葉
小児科の先生は、ぽんちゃんの身長と体重をはかるなり、「確かに小さいね。6か月検診では、そんなに差はなかったんだけどね」と呟きます。
「その言葉を聞いた私は、第2子ということもあり、義務ではない8か月検診、10か月検診に行かなかったことをものすごく悔やみました。毎日ぽんちゃんと一緒にいるのに、どうしてほかの子に比べて自分の子が小さいことに気がつかなかったんだろう。どうして“ぽんちゃんはすぐにほかの子に追いつく”と思ってしまったんだろう、と…」
私が、もっと、もっとこの子を見ていたら、こんなことにはならなかったんじゃないか。母子家庭とはいえ、もっと仕事をセーブして、0歳のぽんちゃんをちゃんと見ることが大事だったんじゃないか…。私には子育てをする資格なんてなかったんじゃないか――。
いろんな後悔が脳裏にあふれかえり、それまで気丈にふるまっていた吉田さんは、その場で泣いてしまったそうです。
「黙って小児科の先生の前でポロポロと泣く私に、私のことを幼稚園の頃から知ってくれている看護師のおばあちゃんが、頭にポンと手をおいてくれました。その瞬間、思っていたことが言葉になって溢れました。息子がまだ0歳なのに離婚したこと、働かなくちゃと思って仕事をたくさん入れていたこと、息子がほかの子より小さいことに気づかなかったこと。“大丈夫”と勝手に思い込んでいたこと…」
そんな吉田さんに、看護師のおばあちゃんは「お母さんは、みんな初心者なの。だから、自分を責めちゃダメ。それより、これからのことを考えよう」と言ってくれたそうです。
●5歳のときにようやく「表出性言語障害」という診断に
その後、ぽんちゃんは2歳のとき国立病院でさまざまな検査をしましたが、結果は「すべて異常なし」。どうしていいかわからないまま、「発達遅延」として療育センターに入ります。
「5歳になっても話せない、おむつが取れない。結局、5歳のときにようやく『表出性言語障害』という診断名がつきました」(吉田さん)
発達障害は、育て方やしつけのせいではない
発達障害の専門家である宮尾益知医師(どんぐり発達クリニック院長)は、「発達障害とは、見たことや聞いたことの理解・記憶、ものごとを最後までやりとげる、過去の経験に照らして計画を立てるといった、脳が果たす機能に偏りがあることを指します」と話します。
一般に、発達障害には大きくわけて、ADHD(注意欠如・多動性障害)、ASD(自閉症スペクトラム障害)、SLD/LD(限定性学習障害)があります。
『うちの子、へん?
』には、宮尾先生によるチェックリストも掲載。ただし、みんながそれに当てはまるとは限らないのが、難しいところです。
「自分の子に発達障害の特性があると気づいた親の多くは、『自分たちの育て方やしつけのせいではないか』と思いつめてしまいます。しかし、最近の研究では、ほとんどの場合、遺伝の組み合わせなどの先天的なものが原因だということがわかってきています。自分たちのせいではないかと悩むのではなく、これから子どものためにどのようなことをしてあげられるかを前向きに考えるのが得策です」(宮尾先生)
子どもに障害があろうが、健常であろうが、「ただ、一緒に楽しみながら歩んでいけばいいのだ」――吉田さんは、そう話します。そんな吉田さんの言葉に、力づけられる親御さんは多いはず。
『うちの子、へん?
』(扶桑社刊)では、等身大の子育ての様子をはじめ、特別支援学校や「愛の手帳」などの制度についても紹介しています。ぜひチェックしてみてください。
<監修/宮尾益知 漫画/ワタナベチヒロ 取材・文/ESSEonline編集部>